長男が遺産を独り占めした時の対処法
親などの被相続人が亡くなった後、遺産は子供などの相続人たちの共有財産になります。
通常、遺言がなければ遺産の分割については、相続人全員が参加して話し合い(遺産分割協議)を行ない、分け方や割合を決定していきます。
しかし、ここで相続トラブルが発生する場合があるのですが、今回は「相続人の一部(長男)が遺産を独り占めした場合」というケースについて解説します。
☑トラブルの具体的なパターンと事例
☑対処法と手順
☑注意するべきポイント
☑トラブルを未然に防ぐ予防策
相続では、長男に限らず一部の相続人が遺産を事実上“独り占め”してしまい、他の相続人が不利益を受けるトラブルが少なくありません。
本記事では、こうした問題について、体系的・網羅的・実務的に整理してお話ししていきます。
ぜひ最後まで読んでいただき、最善の対応に役立ててください。
遺産を独り占めする
典型的パターンと事例
ここでは、長男が遺産を独り占めする以下の7つの典型的なパターンと事例を紹介します。
一つずつ詳しく解説します。
事例①長男が預金を勝手に
引き出して使い込んでいる
【具体的な事例】
実家で親と同居していた長男が親の通帳やキャッシュカードを管理していた。
すると、親が亡くなった直後に長男が勝手に銀行口座から数百万円を引き出していたことが判明。
長男は「葬儀代に使った」、「介護していたのは自分だ」などと言うが、領収書などの支出資料がなく、残金も開示しない。
他の相続人は「私的流用ではないか」と疑念を抱いている。
- 相続された預貯金などは遺産分割の対象であり、共同相続人による単独での払戻しなどはできません。
つまり、遺産分割が終わるまで相続人の誰かが自由に、勝手に一人で処分できるものではないということです。 - 領収書などの証拠がないと使途の説明をしても信ぴょう性がなく、信用されにくいため、遺産分割協議が破綻しやすくなります。
- 一人の判断で勝手に預金の引き出しをすることは共有物の持分権侵害にあたります。
【解説動画】相続の遺産分割を弁護士が簡単に説明します
事例②不動産を勝手に長男が
占有・使用し続けている
【具体的な事例】
親の死後、実家の土地建物について、長男が当然に自分のものになるかのようにあつかい、他の相続人に何の説明もなく占有・使用し続けている。
長男は「自分は長男で、これまで親と同居してきたのだから家は俺のものだ」と主張。
他の兄弟には「預金は少し渡すが、不動産は全部自分がもらう」と一方的に通告してきた。
- 「長男が家を継ぐのだから、すべての財産をもらうのが当然だ」といった古い慣習に固執し、他の兄弟の権利を認めないのは問題です。
- 当然ながら、相続登記前の不動産も相続人全員の共有財産になるため、勝手な占有・使用は認められません。
事例③遺言を根拠に
「すべて自分のものだ」と
主張するケース
【具体的な事例】
親が亡くなった後、遺言書が見つかったが「長男に家を継がせる」とだけ書かれていた。
長男はそれをいいことに、「家を継ぐのだから、預金も全部自分が引き継ぐ」と主張。
他の相続人(兄弟姉妹)は遺言書のあいまいな内容に疑問を持ち、「不公平だ」、「無効だ」と主張している。
法定相続分は、相続人が兄弟姉妹であれば2分の1ずつに分割するのが基本ですが、遺言書がある場合は、その内容が法定相続より優先されます。
しかし、遺言書の文言があいまいだと解釈をめぐって争いが起きる可能性があります。
事例④長男が遺産分割協議に
応じない
【具体的な事例】
親の死後、相続人たち(兄弟姉妹)が遺産分割協議を行なうことを提案。
しかし、長男は「自分が全部相続する」と主張して協議の場に出てこない、書類への署名押印も拒否している状態が続いている。
遺産分割協議は「相続人全員の合意」が必須で、一人でも拒否すると協議は成立しません。
このままだと、不動産の名義変更や預金の払戻しができず手続きが完全に停止してしまいます。
事例⑤長男が財産資料を
独占し相続人に見せない
【具体的な事例】
長男が他の相続人に財産資料を見せないまま、「借金も多いから、実家だけ自分が引き受ける。あなたたちは何もいらないと言って署名してくれ」と署名・押印を求めてくる。
- 相続人の一人が資料を独占した状態では、他の相続人は財産の全体像がわからず、不利な条件で合意してしまいやすくなります。
- 長男が財産資料の開示をしなければ、いつまでも遺産分割が進みません。
事例⑥相続手続を放置して
既成事実化しようとする
【具体的な事例】
長男が話し合い(遺産分割協議)に応じず、財産を管理し続けている。
そのまま、うやむやにして既成事実化しようとしているのではないかと、他の相続人たちは疑惑の目で見ている……。
- 相続を放置すると次の世代の相続が発生し、相続人が増えて、権利関係が複雑化してしまうリスクがあります。
- 遺産分割は相続開始から10年を経過すると、特別受益や寄与分などを考慮した具体的相続分ではなく、原則として法定相続分または指定相続分による分割基準に移ります。
これは、令和5年4月1日からの新しい遺産分割のルールですが、経過措置があります。
「特別受益」(民法第903条)とは、相続人のうちの特定の人が被相続人(親など)から、生前贈与(生前に財産の贈与を受けること)や遺贈(遺言によって無償で財産を受けること)などで受けた「特別な利益」のことです。
被相続人から相続人に対して多額の財産が生前贈与されていた場合は 、特別受益に該当する可能性があります。
他の相続人よりも多くの財産を受け取っているため、その贈与分は遺産分割における前渡しとしてあつかわれます。
そのため、贈与された財産の評価額を遺産総額に持ち戻し(加算) して、各相続人の相続分を算定します。
なぜなら、贈与された財産を評価しないままの遺産分割は不公平になるからです。
「寄与分」とは、被相続人の財産の維持・増加に特別の貢献をした相続人について、その貢献を考慮して法定相続分を増やすことです。
被相続人の介護や事業の手伝いなどがあれば、それを金銭評価して該当者の相続分に上乗せします。
事例⑦長男が生前贈与を
受けていたのに隠している
【具体的な事例】
親の生前、長男だけが高額な援助(住宅取得資金など)を受けていた。
しかし、遺産分割協議では「そんな援助は受けていない」と言い、他の相続人は「それは特別受益だ」と主張していることで話し合いが平行線のままである。
- 生前贈与などの特別受益の有無は、遺産分割の公平性に直結する問題です。
- 特別受益を主張する側がその存在を立証する必要があります。
相続トラブルについては、ぜひこちらの記事も参考にしてください。
遺産の独り占めへの対処法/
6つのステップ
遺産の独り占めのケースによって対応は異なりますが、ここでは大まかな対処法について流れを追って解説していきます。
STEP1:相続人と遺産の確定
⬇️
STEP2:証拠の収集
⬇️
STEP3:財産開示を求める
⬇️
STEP4:遺産分割協議を求める
⬇️
STEP5:遺産分割調停の申立て
⬇️
STEP6:遺産分割審判で決定
STEP1:相続人と遺産の確定
感情的になる前に、まずやるべきなのは事実確認です。
そこで必要なのが、相続人と遺産の全体像を確定することです。
相続人の確定
戸籍をさかのぼって相続人の確定を行なっていくために次の資料を収集します。
☑被相続人の出生から死亡までの戸籍
☑相続人全員の現在の戸籍
【解説動画】誰が相続人か調査する方法。きちんと調べないと無効になります。
前婚の子や認知している子の見落としにも注意が必要。
遺産の確定
遺産の種類や金額を確定するためには次の資料を集め、遺産調査を行ないます。
<銀行>
☑預貯金通帳を確認
☑通帳がない場合は各銀行での全店照会
☑取引履歴を請求
☑残高証明書の発行 など
<証券>
☑証券保管振替機構への開示請求
<不動産>
☑市区町村役場で名寄帳や課税台帳を閲覧
☑不動産の全部事項証明書を確認
<負債>
☑個人信用情報機関への開示請求(負債の調査)
<その他>
☑弁護士による照会
(弁護士法第23条の2に基づき、弁護士会が官公庁や企業などの団体に対して必要事項を調査・照会する制度)
- 相続では、プラスの遺産だけでなく、マイナス分(負債・借金)も引き継ぐことになるため、すべてを調査する。
- ネット銀行の口座の有無にも注意が必要。
- 調査した結果として「財産目録」を作成して相続人全員で情報共有ができるようにしておく。
STEP2:証拠の収集
証拠がそろうほど、長男の独占主張は崩れやすくなるので、次のような資料を収集します。
☑ATMの引き出し記録
☑領収書
☑生前贈与の記録(振込履歴、メール、メモなど)
☑遺言書の原本確認 など
STEP3:財産開示を求める
相手が長男で通帳、印鑑、遺言書、不動産関係書類を持っている場合、まずは文書やメールなど記録が残る形で開示を求めます。
口頭だけでは、あとから「そんな話は聞いていない」などと言われる可能性があるからです。
STEP4:遺産分割協議を求める
遺言がない、または遺言で全部が決まっていない場合、遺産分割をするには相続人全員で遺産分割協議を行なう必要があります。
協議は1人でも納得しない相続人がいれば成立しません。
ここでは次のような論点を話し合います。
☑不動産の評価はどうするか
☑生前贈与はあるか
☑葬儀費用や介護費用をどう精算するか
☑誰がどの財産を取得するか など
- 財産目録を事前に共有。
- 長男の主張と他の相続人の主張を整理。
- 必要に応じて専門家(弁護士・司法書士・税理士)を交えることも有効。
STEP5:遺産分割調停の申立て
話し合いがまとまらず、相続人全員の同意が得られない場合は「遺産分割調停」を利用できます。
原則、遺産分割調停は相続人全員が参加しなければいけません。
ただし、相続人同士は直接の話し合いはしません。
遺産分割調停の仕組みと特徴
- 調停は、相手方のうちの1人の住所地、あるいは当事者が合意で定める家庭裁判所に申立てる。
- 裁判官と民間から選ばれた調停委員(2名以上)の立ち合いのもとで、合意を目指した話し合いを行なっていくため、相続人は冷静に対応できる。
- 2人の調停人が当事者双方から交互にそれぞれ事情を聞きながら調整を行なうため、当事者全員が顔を合わせて話し合いをすることはない。
- 合意に至らない場合は、自動的に審判手続が開始される。
【解説動画】遺産分割調停の手続を弁護士がざっくり解説します。
遺産分割調停の流れ
1.家庭裁判所に申立て
⬇️
2.必要書類の提出
(申立書、相続関係図、遺産目録など)
⬇️
3.調停期日の通知が届く
⬇️
4.調停室で個別に事情の聴き取り
(通常、相続人同士は直接対面しない)
⬇️
5.数回の期日を経て合意形成を目指す
※具体的な相続分や分割方法の合意など
⬇️
6.調停成立
※調停調書を作成
※不成立の場合は審判へ進む
STEP6:遺産分割審判で決定
遺産分割調停には法的な強制力がありません。
そのため、相続人のうちの1人でも調停案に反対すれば遺産分割調停は不成立となります。
その場合は、自動的に「遺産分割審判」へ移行します。
遺産分割審判の仕組みと特徴
- 調停から移行する場合、審判の申立ては不要。
- 調停とは違って、相続人同士が顔を合わせることになる。
- 話し合いは行なわれず、裁判官と当事者が集まり、提出された書類や資料などの証拠の確認がなされる。
- 裁判官は当事者の陳述などの聴取、事実の調査を経て、相続財産の種類や性質、相続人それぞれの生活状況などを考慮したうえで分割方法を定めて審判を下す。
- 審判では相続人が望んでいない決定が下される場合もあるが、決定に不服なら審判の告知を受けた翌日から起算して2週間以内に「即時抗告」という不服申立てをすることができる(その後は高等裁判所で審理が継続)。
遺産分割審判の流れ
1.調停から自動的に移行/家庭裁判所に
審判の申立て
⬇️
2.裁判所から呼出状が当事者全員に届く
⬇️
3.第1回審判期日
⬇️
4.数回の期日を経て、審判書が裁判所から
届く
⬇️
5.審判が確定
⬇️
6.審判結果に不服の場合は「即時抗告」
こんな時はどうする?
遺産の独り占めの解決方法
使い込みがある場合の
追加措置では何が可能か?
遺産を使い込んだ相続人が話し合いを拒否したり、話がまとまらない場合、他の相続人は次のような対応をとることができます。
一つずつ詳しく解説します。
不法行為に基づく損害賠償請求
故意または過失により他人の権利を侵害した場合、不法行為に基づき発生した損害を賠償する責任を負います(民法第709条)。
相手が応じない場合は、訴訟を起こします。
ただし、不法行為に対する損害賠償請求権には時効があり、次のどちらか短いほうが時効期間になります。
- 被害者が「損害が発生したこと」および「加害者が誰であるか」を知った時から3年間
- 不法行為の時から20年間
消滅時効の期間が過ぎてしまうと一切の請求はできなくなるので注意が必要です。
不当利得に基づく返還請求
法律上の原因がないのに、不当に他人の財産などで利得を得た人(受益者)は返還する義務があります(民法第703条)。
時効期間については、次のどちらか短いほうが適用されます。
時効期間>
- 遺産の使い込みが判明し、返還請求が
できることを知った時から5年 - 遺産の使い込みの行為の時から10年
詳しい内容については弁護士に相談されることをおすすめします。
【解説動画】相続で遺産の使い込みを取り戻す方法。弁護士解説。遺言があっても泣き寝入りは
しなくていい!
遺言書があれば法定相続よりも優先されます。
そのため、遺言書に「長男にすべてを引き継ぐ」とあった場合は、その内容が優先されます。
しかし、一部の相続人のみが遺産を受け継ぐのでは不公平なため、相続では「遺留分」が認められています。
遺言によって長男が全財産を取得する形になっている場合でも、他の相続人に遺留分があるなら、遺留分侵害額請求が可能な場合があるのです。
ただし、遺留分は自動的に支払われるものではないため、遺留分が侵害された相続人は「遺留分侵害額請求」を行なう必要があります。
遺留分侵害請求の仕組みや消滅時効などの注意点に関する詳しい解説は、こちらの記事を参考にしてください。
必要な資金を長男に
請求する方法
たとえば、長男が預金を管理していても、他の相続人が生活費や葬儀費用などで資金が必要な場合は、遺産分割前の「預貯金の払戻し制度」が使える場合があります。
遺産分割協議に参加できない
相続人がいる場合はどうする?
行方不明の相続人がいる場合は、「不在者財産管理人」の選任が必要です。
また、未成年者や認知症の相続人がいる場合は、「特別代理人」や「後見人」の選任が必要になる場合があります。
家族が認知症になった場合の財産管理方法【成年後見】
相続トラブルを未然に回避する
予防策を確認
ここでは、親族間の相続トラブルを回避するための予防策を紹介します。
親が元気なうちに遺言書を
整えておく
まず、できることは被相続人が生前に適切な遺言書を作っておくことです。
誰に何を渡すのかを明確にして、必要に応じて遺留分にも触れた内容にしておけば、長男が独り占めすることを防ぐことができます。
生前に財産目録を作成しておく
預金口座、不動産、証券、保険、借入金などを一覧にして文書化し、財産目録を作成しておきます。
財産目録があることで、相続開始後に特定の相続人だけが情報を握る状態を防ぎやすくなります。
家族で早めに話し合っておく
親の生前から相続について話し合い、次の内容などを家族間で定期的に情報共有をしておくことが大切です。
- 親の介護状況
- 財産の状況
- 生前贈与の有無
- 誰が実家に住み続けるのか
- 介護を担った子への配慮をどうするか など
弁護士などへの早期の相談
第三者が入るだけで、長男の独占行動は抑制されることが多いといえます。
また、早い段階で専門家に相談したほうが、資料保全や主張整理がしやすくなります。
以上、長男が遺産を独り占めした時の対処法を網羅的に解説しました。
相続問題は、どうしても感情が先に立ってしまいがちですが、そういった時こそ弁護士にご相談ください。
弁護士に相談というと、どうしても躊躇しがちな場合もあるかと思いますが、法律の専門家が入ることで、早期に解決することが可能です。
弁護士法人みらい総合法律事務所は全国対応で、随時、無料相談を行なっています(事案によりますので、お問い合わせください)。
































