特別受益とは?
相続で問題になることの1つに「特別受益」があります。
たとえば、このような不満を抱えている方はいらっしゃいませんか。
「父の生前、兄だけ住宅資金を出してもらっていた」
「長女だけが結婚資金をもらって、次女の私はもらっていない」
「遺言で一人だけ多く遺産をもらっている兄弟姉妹がいる」
確かに、こういった親の対応は他の子供からしたら不公平に感じるので、相続が始まると兄弟姉妹間で対立が生まれてしまう原因にもなります。
じつは、こうした相続問題の原因が特別受益である場合があります。
そこで本記事では、次の項目などについてわかりやすく解説していきます。
- 特別受益の対象になるケースと
ならないケース - 特別受益の持ち戻しとは?
- 特別受益を主張できる期間(時効)
- 特別受益がある場合の遺産分割方法
- 特別受益を主張する場合の流れと手順
- 特別受益を指摘された場合の対処法
- 特別受益で注意するべきポイント
相続問題に前もって備えたい方にも、すでに相続で困っている方にも、必要な情報と知識をお伝えしていきます。
ぜひ最後まで読んでいただき、損のない相続を実現してください。
特別受益とは?
特別受益・遺贈・贈与の
違いについて
被相続人(親など)から共同相続人(子など)に対して行なわれた、次のような財産を「特別受益」といいます(民法第903条1項)。
- 遺贈された財産
- 婚姻や養子縁組のために贈与された
財産 - 生計の資本として贈与された財産
遺贈とは
遺言書によって、自分の財産の全部または一部を、相続人を含む特定の人や団体に無償で譲渡することを「遺贈」といいます。
遺贈と相続の違い
- 法律(民法)で定められた法定相続人への財産の承継は相続です。
- 一方、遺言者が法定相続人であるかどうかにかかわりなく自由に受取人を指定できるのが遺贈になります。
贈与とは
- 財産を渡したい人(贈与者)が、受け取る人(受贈者)に対して、無償で財産を譲り渡すことを合意することを「贈与契約」といいます。
- 贈与は、贈与者と受贈者が合意によって生前に契約を交わすことで成立するため、一方的に財産を渡すだけでは成立しません。
贈与と遺贈の違い
- 贈与と遺贈は、「法定相続人以外にも財産を渡せる」、「無償で財産を移転させることができる」といった共通点がありますが、次のように法的な仕組みは大きく異なります。
- 贈与は、当事者双方の合意によって成立します。
- 一方、遺贈は遺言者が一方的に意思表示を行なう「単独行為」で、遺言者が亡くなった時に初めて効力を生じます。
<贈与・相続・遺贈の違い早見表>
※横にスクロールすると続きが見れます。
| 項目 | 贈与 | 相続 (遺言書がない場合) | 遺贈 (遺言書による贈与) |
|---|---|---|---|
| 財産が動く時期 | 贈与者の生前 | 遺産分割 (例外あり) | 遺言者の死亡 (例外あり) |
| 財産を渡す方法 | 贈与契約 (双方の合意) | 法定相続人が 複数人の場合、 遺産分割協議 (例外あり) | 遺言書 (一方的な意思表示) |
| 財産をもらう人 | 自由に指定が 可能 (相続人以外も可) | 法定相続人に 限られる | 自由に指定が可能 (相続人以外も可) |
「裁判例①」
相続人の債務を被相続人が肩代わりして支払い、その求償(負担分を相手に請求して取り戻すこと)をしなかったことが、「生計の資本としての贈与」に該当すると認めた裁判例があります。
(高松家庭裁判所丸亀支部平成3年11月19日審判 家裁月報44巻8号40頁)
「裁判例②」
父の相続にあたって、子が母から法定相続分を譲り受けた件について、相続分が財産的価値を有すること、無償で相続分の譲渡がなされたことなどから、「生計の資本としての贈与」として、特別受益に該当するとした裁判例があります。
(東京高裁平成29年7月6日判決 判例時報2370号31頁)
こんな遺贈や贈与は
特別受益になる
相続人への特別受益で考えた場合、一部の相続人が被相続人から相続の前倒しのような利益を受けていたケースにおいて、その分を遺産分割で調整するための制度といえます。
そのため、生前に受けた贈与や、相続分とは別に受けた遺贈などが典型的なケースであり、
- 高額な生前贈与
- 住宅取得資金
- 結婚資金
- 事業資金の援助
などが問題になることが多いといえます。
特別受益の持ち戻しとは?
持ち戻しの意味
特別受益の制度は、相続人の間の公平を図ることを目的としています。
たとえば、相続開始前に一人の子だけがまとまった金銭的援助を受けていたのに、相続開始後に親の死亡時点の遺産だけを機械的に等分してしまうと、実質的にはその人が多く取得することになります。
そこで、特別受益のある相続人については、いったん生前贈与や遺贈を遺産に持ち戻して計算し、最終的な取り分を調整します。
つまり持ち戻しとは、実際に受け取っていた財産を返すということではなく、遺産分割の計算上、生前贈与や遺贈の価額を相続財産に加えて計算し直すこと、と考えてください。
超シンプルな持ち戻しの計算例
ここでは、次のようなケースで考えてみます。
- 死亡時の遺産が3,000万円
- 長男だけが生前に1,000万円の住宅資金援助を受けていた
この場合の遺産分割では、3,000万円ではなく、生前贈与分の1,000万円を遺産に持ち戻して、4,000万円を基準に相続分を調整していくことになります。
そして、長男の取り分からその1,000万円相当分を差し引いて最終的な調整をします。
持ち戻しにおける注意点
相続人が相続放棄をすると、初めから相続人にならなかったものとみなされるため、相続放棄をした相続人に対する贈与や遺贈は持ち戻しの対象にはなりません。
持ち戻しの免除とは?
ただし、被相続人(亡くなった人)が生前贈与したものについて「持ち戻さなくてよい」という意思表示をしていた場合は、その意思が優先されます。
これを「持ち戻しの免除」といいます(民法第903条3項)。
この意思表示については明確な法律の定めがないため、口頭で伝えたり、状況証拠でも認められることがありますが、やはり遺言書に「持ち戻し免除」などを明記しておかないと立証が困難となります。
2019年7月1日以降に開始された相続では、婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産の遺贈または贈与があった場合、原則としてその不動産については、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されます。
これは「おしどり贈与」とも呼ばれ、基礎控除110万円に加え、2,000万円まで非課税となる内容です。
正式名称は「「贈与税の配偶者控除」といいます。
この贈与は持ち戻しの対象にはならないため、相続税対策や配偶者に自宅を確実に残す目的で利用されています。
特別受益の対象になるケース
次に特別受益に該当する具体的な事例をケースごとに解説していきます。
遺贈
特別受益で、もっとも典型的なのが遺贈です。
被相続人から共同相続人に対する贈与や遺贈は、比較的広く特別受益と認定される傾向にあります。
生前贈与
被相続人の生前に、特定の相続人に対して多額の財産が渡されている場合は、特別受益に該当する可能性があります。
日常の生活費や通常の援助の範囲を超えており、客観的に見て「遺産の前渡し」と判断できるような贈与が対象になります。
判断ポイントとしては次のようなことがあげられます。
- 数百万円~数千万円など、一度にまとまった多額の金銭を渡している場合
- 継続的に多額の資金援助を行なっている場合
- 他の相続人と比べて、明らかに大きな利益を受けている場合
婚姻のための贈与
親から、結婚資金や持参金としてまとまった金額の援助を受けた場合、相続人の間での遺産分割で特別受益としてあつかわれる可能性があります。
養子縁組のための贈与
それほど多いものではありませんが、養子縁組のための贈与も特別受益になる可能性があります(民法第903条)。
生計の資本としての贈与
相続の実務では他の相続人との間で不公平が生じやすく、もっとも争われやすい部分です。
具体的には次のようなケースが該当します。
- 住宅購入資金
ただし、少額の援助や一時的な生活支援に近いようなケースでは、特別受益の対象外となることもあります。 - 事業資金
子が独立開業、事業の立ち上げをする際や設備投資などへの金銭的援助も持ち戻しになる可能性があります。 - 高額な学費や留学費
たとえば、海外留学費用や医学部等の長期の学費負担などは、通常の扶養の範囲とみなされない可能性があります。
特別受益の対象にならないケース
生前に贈与されたものすべてが特別受益になるわけではなく、次のような通常の扶養の範囲内のもの、社会通念上相当な範囲の援助と判断されるものは対象外となります。
日常の生活費の援助
たとえば、親と同居していた子に、食費や家賃相当の援助があったとしても、それが長期間にわたった高額なものでないならば、日常生活を維持するための通常の扶養の範囲として特別受益にはならないでしょう。
通常の学費負担
他の相続人と比較して著しく偏った資本的援助ではなく、一般的な扶養・教育の範囲であれば特別受益にはならないでしょう。
少額の仕送りなどの援助や
一時的な支援
少額の仕送り、急な出費への補助、短期間の生活費援助などは特別受益としてあつかわれることは少ないでしょう。
ただし、金額や期間、家族の経済状況などによって評価は変わるため、明確な基準があるとはいえません。
常識的な額の祝い金や贈り物
誕生日祝い、就職祝い、結婚祝い、出産祝いなどの贈与は過度に高額でなければ問題にならないでしょう。
特別受益と認められなかった
事例を確認
次に、贈与の全部または一部が特別受益と認められなかった裁判例を紹介します。
妻に贈与した株式や債権が
特別受益と認められなかった
裁判例
被相続人が株式や債権を妻に贈与したことについて、
- 被相続人が妻の実家から金融を受けていたこと。
- 被相続人が胃がんのため死期のいよいよ迫るのを覚悟したこと。
- 永年ともに農業に従事し、農地など相続財産の維持に妻が協力したこと。
などから、妻の労に報いるためのものであるとして、生計の資本としての贈与とは認めなかった。
(長﨑家裁島原支部昭和40年11月20日審判 家裁月報18巻5号75頁)
生前贈与の半分を特別受益と
認めた裁判例
被相続人が妻に対して、生前に1,000万円を贈与したことについて、
- 妻は被相続人の死亡の20年以上前からタイプ学院を経営し、その純益の相当部分を夫婦の生活費に入れ、被相続人の財産の減少を防止するにつき若干の寄与があったこと。
- 被相続人の身の回りの世話について妻に相当の負担がかかっていたこと。
などから、1,000万円のうち5割は家計に対する特別寄与分の清算と老齢の夫に対する長年の看護の労に報いる趣旨の贈与と認め、残額の500万円についてのみ生計の資本のための贈与と認めた。
(神戸家裁姫路支部昭和49年8月10日審判 家裁月報27巻6号80頁)
不動産の生前贈与が特別受益と
認められなかった裁判例
被相続人が養子である相続人に不動産を生前贈与したことについて、
- 相続人がほとんど一人で家業である農業に従事する一方、工員として稼働して得た収入で被相続人および家族の生活を支えていたこと。
- 被相続人の療養看護に勤めたこと。
- 相続人の貢献がなければ財産の維持はできなかったこと。
などから、被相続人による贈与は、それらの貢献への感謝と貢献に報いる気持ちで行なったものであり、特別受益にあたらないとした。
(盛岡家庭裁判所一関支部平成4年10月6日審判 家裁月報46巻1号123頁)
特別受益とされた場合の
金額の計算はどうする?
特別受益の計算式
共同相続人に対する贈与や遺贈が特別受益とされた場合、各共同相続人の具体的相続分は、次のように計算します(民法第903条1項)。
<STEP 1>
被相続人が相続開始の時において有した財産の価額に、特別受益たる贈与の価額を加算する(みなし相続財産)。
なお、この場合、債務は控除しない。
相続開始の時において有した財産の価額 + 贈与価額 = みなし相続財産
<STEP 2>
1の、みなし財産に当該共同相続人の相続分を乗じる。
みなし相続財産 × 各共同相続人の相続分
<STEP 3>
2の金額から、当該共同相続人の受けた
贈与・遺贈の価額を控除する。
2の相続分 - 当該共同相続人の受けた
贈与・遺贈 = 具体的な相続分
特別受益の算出例
ここでは、次の条件で特別受益の金額を算出してみます。
【条件】
被相続人の相続財産:3,000万円
相続人:子A・B・C
状況:被相続人からAに対して生前に2,000万円、Bに対して生前に1,000万円の「生計への援助としての贈与」があった。
<STEP 1>
3,000万円 + 2,000万円 + 1,000万円 = 6,000万円(みなし相続財産)
<STEP 2>
6,000万円 × 1/3 = 2,000万円
(各自の相続分)
<STEP 3>
A: 2,000万円 - 2,000万円 = 0円
(※すでに2,000万円の贈与があるため)
B: 2,000万円 - 1,000万円 = 1,000万円
(※すでに1,000万円の贈与があるため)
C: 2,000万円 - 0円 = 2,000万円
(※生前贈与は受けていないため)
以上より具体的相続分は、Aは0円、Bは1,000万円、Cは2,000万円となります。
特別受益の計算ついては次のような裁判例があります。
特別受益とされた財産について、贈与時の価額と相続開始時の価額に差がある時は、特別受益とされた財産の価額は、相続開始時の時価に換算する。
(最高裁昭和51年3月18日判決、判例時報811号50頁)
特別受益は実際に
どうあつかえばいいのか?
特別受益を主張する際の
手順と流れを確認
通常、特別受益は遺産分割手続の中で主張します。
具体的には、遺産分割の話し合い(遺産分割協議)か、その後の遺産分割調停・審判になります。
遺産分割調停とは、話し合いがまとまらなかった場合に家庭裁判所に申立て、裁判官と民間から選ばれた調停委員(2名以上)の立ち合いのもとで合意を目指した話し合いを行なっていくものです。
【解説動画】相続の遺産分割を弁護士が
簡単に説明します
【解説動画】遺産分割調停の手続を弁護士が
ざっくり解説します
特別受益に関する実際の手続きは、おおむね次のような流れになります。
事実関係を整理する
「誰が」、「いつ」、「いくら」、「どんな名目」で利益を受けたのかなどについて整理します。
住宅資金なら振込記録や契約書、学費なら領収書や通帳履歴、遺贈なら遺言書を確認し、資料を収集します。
遺産分割調停でも、遺産に関する資料提出が重視されるため重要になります。
相手方に説明と資料開示を
求める
生前贈与などを受け取っている相続人に対して、いきなり「特別受益だ」と決めつけるのはトラブルのリスクがあります。
まずは贈与なのか、たんなる貸付なのか、扶養の一環なのかなど客観的資料(証拠)を収集し、事実確認をすることが大切です。
そのためには、相手方からの説明と資料開示を求めましょう。
遺産分割協議で主張する
遺産分割協議で特別受益について主張します。
相続人同士の話し合いでまとまるなら、トラブルなく、もっとも早い解決方法といえます。
持ち戻し計算を前提に、前述のように各人の最終取得額を計算して調整します。
協議がまとまらなければ
遺産分割調停へ
話し合いがつかない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停で主張します。
特別受益を指摘された場合の
対処法について
一方で、他の相続人から特別受益を指摘された場合の対応について見ていきます。
やってはいけないのは、すぐに全面的に認めること、そして感情的に全面否定することの両方です。
まず大切なのは、自分が受けた援助が特別受益に該当するかどうかを確認することです。
対処のポイントは次のとおりです。
名目と経緯を確認する
贈与なのか、貸付なのか、扶養なのか、返済の有無はどうだったのか、などについて確認します。
住宅資金の援助でも、返済約束があれば貸付主張が争点になる場合があります。
金額の相当性を確認する
前述したように、日常的な生活費や通常の扶養の範囲なら特別受益とはいえません。
少額援助までもが特別受益になるわけではないことを覚えておいてください。
持ち戻し免除の事情を確認する
被相続人が「これは相続の前渡しではない」と考えていた事情など、持ち戻し免除の意思表示があったかについて確認・検討します。
必要なら調停で争う
当事者間の話し合いで決着しなければ、遺産分割調停で整理します。
なお、「特別受益の有無」、「金額」、「評価の時点」などは調停や審判で争われる典型的論点になります。
特別受益と遺留分の関係とは?
特別受益と遺留分は似ている部分もありますが、別制度のため整理して考えます。
相続人同士の公平を図るために、遺産分割で取り分を調整する制度。
<遺留分>
一定の相続人に最低限保障された取り分で、侵害された場合は相手方(遺留分を侵害した相続人)に対して「遺留分侵害額請求」をすることができる。
たとえば、遺留分侵害額を算出する際には特別受益が関わってきます。
遺留分侵害額 = 遺留分 − 遺留分権利者の特別受益額 − 相続で得た積極財産額 +
承継債務額
特別受益の大きさによって、請求できる遺留分侵害額が変わってくるわけです。
特別受益で注意するべきポイント
まとめ
何でも特別受益に
なるわけではない
生前にもらったものはすべてが特別受益になるわけではなく、実質的に相続の前渡しと評価できるかが重要になります。
証拠が重要
実際の実務では、特別受益は感覚や感情ではなく証拠で争うことになります。
通帳、振込記録、契約書、メモ、メール、遺言書など、できるだけ客観的な資料を収集することが大切です。
遺産分割調停でも資料の提出が前提になっています。
遺留分とは別に考える
特別受益と遺留分侵害額請求は混ざりやすく、同じように考えてしまう場合もありますが、制度の目的も手続きも違います。
遺留分は金銭請求、特別受益は主に遺産分割での取り分調整です。
配偶者への居住用不動産の
特則に注意
婚姻20年以上の夫婦間での居住用不動産の贈与・遺贈は、通常の特別受益のあつかいとは違い、持ち戻し免除の推定が働きます。
そのため、一般の生前贈与と同列に考えないほうが安全です。
ここまで、特別受益についてさまざまな角度から解説してきましたが、簡単に対応できるものでもないことがおわかりいただけたと思います。
特別受益については主張する側も、主張された側も対応には一定の法律知識が必要です。
もし現在、不安を抱えている、あるいはすでに争いになっているなら、まずは一度、弁護士にご相談ください。
みらい総合法律事務所は全国対応で、随時、無料相談を行なっています(事案によりますので、お問い合わせください)。
もちろん、秘密厳守ですから安心してご相談ください。
【解説動画】遺産分割の弁護士費用を簡単に弁護士解説。























