遺産が使い込まれた場合の対処法
被相続人(親など)が亡くなった場合、相続が開始されます。
たとえば、父親が亡くなり、遺族はその配偶者(妻)と3人の子供(長男・長女・次男)の場合、法的には、この4人が「法定相続人」となり、遺産を引き継ぐ(受け取る)権利が発生します。
ここで、こんな問題が起きる場合があります──。
- 次男が実家に残り、親と同居していた。
- 父親が認知症を発症したため、
その世話をしていた。 - 次男は、親の預貯金を管理していた
ので、その中から生活費を引き出して
使っていたが、それ以外にも預貯金を
引き出して、勝手に個人的に
使い込んでいた……。
あるいは両親の死後、相続人である兄弟姉妹の間で、こんな問題が発生するケースもあります。
- 長男が親と同居し、実家で暮らして
いた。 - 両親の死後、遺産相続については
長女と次男と3人で遺産分割協議を
行なわなければいけなかったが、
それを怠っていた。 - そうであるのに、長男は他の相続人に
何も告げず勝手に、実家の家と土地を
自分のものとして売却して
しまった……。
こういった行為は、いわゆる「遺産の使い込み」になり、他にも被相続人が経営していた不動産の賃貸料の横領や、貴金属や骨董品等の売却など、さまざまなパターンが発生しています。
では、このような場合、他の相続人が使い込まれた分を取り戻すには、どうすればいいのでしょうか?
本記事では、次のような項目について解説していきます。
事例
☑︎被相続人の生前と死後の使い込みの
違いについて
☑︎使い込みの調査方法
☑︎対処法①:不法行為に基づく
「損害賠償請求」の方法
☑︎対処法②:不当利得に基づく
「返還請求」の方法
☑︎損害賠償請求や返還請求はいつまでに
行なうべきか?
☑︎使い込みへの対応で注意するべき
ポイント など
ぜひ最後まで読み進めて、不公平な遺産の使い込み分を取り戻していただきたいと思います。
あなたにも降りかかる…
遺産の使い込みリスク
遺産の使い込みとは?
被相続人(親など)の死亡前後に、特定の相続人などが、他の相続人の同意なく、預金や不動産など遺産分割の対象となる遺産を、勝手に私的に使用・処分する行為を「遺産の使い込み」といいます。
そこで、遺産の使い込みは被相続人の生前と死後とで分けて考えることが必要です。
被相続人の死後の使い込みは
遺産分割協議での解決を目指す
☑︎被相続人の遺言書がない場合、法定相続人たち(配偶者や子など)は「どの遺産を」、「誰が」、「どのような割合で」相続するのかを決める必要があります。
この話し合いを「遺産分割協議」といいます。
☑︎ところで、遺産分割の対象となるには、次の2点の要件が必要になります。
②遺産分割時に存在している財産
☑︎さて、ここで問題になるのは、たとえば遺産分割前に相続人のうちのひとりが、被相続人が亡くなったことを金融機関に伝えないまま、被相続人の預金を引き出して使い込みをしていたようなケースです。
☑︎この場合、相続開始時には存在していたはずの預金が、遺産分割時には存在しないことになり、遺産分割時に存在している財産しか遺産分割の対象にできないとするなら他の相続人にとっては不公平になります。
☑︎そのため2019年の民法改正により、他の相続人全員が同意するなら、使い込まれた遺産が遺産分割時に存在するとみなして、話し合いによって遺産分割をすることができることになっています(民法第906条の2)。
☑︎その際の条件をまとめると、次の3点になります。
- 遺産に属する財産であること
相続開始前の財産は含みません。 - 遺産の分割前に処分されたこと
処分とは、預貯金の引き出しや不動産の売却などだけでなく、法的には物理的に壊したり、なくしてしまったりする場合も含まれるとされます。 - 共同相続人の全員の同意があること
処分をした本人(共同相続人)の同意は不要です。
被相続人の生前の使い込みには
「損害賠償請求」や
「返還請求」ができる
被相続人の生前に、相続人の一部が行なった使い込みは、上記①②の要件を欠くので遺産分割の対象にはなりません。
そこで、使い込んだ相続人が同意する場合には、被相続人本人との話し合いで解決していきます。
しかし、話し合いを拒否した場合やまとまらない場合は、次のような対応が必要になります。
不法行為に基づく
損害賠償請求をする
故意または過失により他人の権利を侵害した場合、不法行為に基づき発生した損害を賠償する責任を負います(民法第709条)。
被相続人の同意を得ずに財産を使い込んだ場合は財産権を侵害したことになるため、被相続人は使い込んだ本人に対して損害賠償請求をすることができるわけです。
不当利得に基づく返還請求
法律上の原因がないのに、不当に他人の財産などで利得を得た人(受益者)は返還する義務があります(民法第703条)。
被相続人の同意を得ずに財産を使い込んだ相続人は、法律上の原因なく利益を得ているので、被相続人は使い込んだ本人に対して返還請求をすることができるのです。
請求権の時効消滅に要注意!
ただし、損害賠償請求と返還請求には「時効」があることに注意が必要です。
ある権利について、その権利者が行使しない状態が一定期間続いた場合、その権利を消滅させる制度を「消滅時効」といいます。
不法行為に対する
損害賠償請求権の時効
- 被害者が「損害が発生したこと」および「加害者が誰であるか」を
知った時から
3年間 - 不法行為の時から20年間
のどちらか短いほう。
不当利得に対する
返還請求権の時効
- 遺産の使い込みが判明し、返還請求が
できることを知った時から5年 - 遺産の使い込みの行為の時から10年
のどちらか短いほう。
消滅時効の期間が過ぎてしまうと一切の請求はできなくなるので、不安がある場合は弁護士に相談してみることをおすすめします。
遺産の使い込みの事例と
対応策について
次に、よく発生する使い込みの事例とその対応策について解説していきます。
事例①親の死亡前に預金を
引き出していたケース
高齢の父と同居していた長男が、父の認知症が進行した後、キャッシュカードを使って預金を引き出し、生活費以外にも個人的に使用していた。
父の死亡後、他の相続人(兄弟姉妹)が通帳履歴を見て問題が発覚。
- 被相続人(父)の意思に基づかない預金の引出しは、不法行為(民法第709条)や不当利得(民法第703条)に該当する可能性がある。
- 不法行為に該当する場合、損害賠償請求権が相続財産に含まれる。
- 通帳の取引履歴を取得して使途を確認。
- 正当な支出(医療費・介護費など)と
私的流用を区別。 - 私的流用部分については、不当利得返還請求や損害賠償請求を行なう。
事例②親の死亡直後に預金を
引き出したケース
母が亡くなった直後、同居していた次男が金融機関に死亡届が出る前に、ATMで預金を引き出していた。
他の相続人(兄弟姉妹)には、「葬儀費用に使った」と説明している。
- 相続開始後の預金は相続人全員の
共有になる。 - 単独での引出しは共有物の無断処分
となる。 - 実際に葬儀費用として使ったかどうかで評価が変わる。
- 葬儀費用などの必要経費は相続財産から控除される可能性がある。
- 預金を引き出した相続人に対して、領収書の提出を求める
- 悪質なケースでは返還請求を行なう。
事例③被相続人名義の
不動産などを勝手に処分した
ケース
父の死亡後、長男が他の相続人に相談せず、被相続人(父)名義の土地を第三者に売却。
さらには、貴金属なども勝手に売却して代金を自分の口座に入れていた。
- 相続登記前の不動産は相続人全員の
共有。 - 単独売却は無権限行為。
- 売却相手が善意か悪意かで法的評価が
変わる。
- 他の相続人が売却代金の返還請求を
行なう。 - 不動産登記が絡むため、早めに
弁護士へ相談。 - 再発防止策として、相続登記(不動産の
名義変更)を速やかに行なう。
事例④相続財産を
「生前贈与だった」と
主張するケース
長女が「生前贈与(生前に親からもらったお金)だから遺産ではない」と主張。
しかし、贈与契約書や明確な証拠は存在しない。
- 生前贈与を主張する側に立証責任が
生じる。 - 証拠がなければ相続財産として
扱われる可能性が高い。 - 遺留分侵害の問題が生じることもある。
- 贈与契約書・振込履歴・意思能力などの有無を確認。
- 証拠が不十分なら遺産分割協議での
争点となる。 - 最終的には、遺産分割調停や審判、
訴訟で解決。
事例⑤相続財産を隠して
申告しなかったケース
親の死後、同居していた弟が「財産はすべて調べて申告した」と言っていたが、あとから新たな別口座の存在が発覚した。
- 新たに発見された財産について、
遺産分割協議が必要になる。 - 相続税申告にも影響がでる。
- 金融機関照会で、すべての口座を
洗い出す。 - 再協議を開始する。
- 悪質な場合は損害賠償請求も検討。
遺産の使い込みで注意するべき
ポイント解説
遺産分割前の財産は
「共有状態」
相続財産は、相続開始と同時に相続人全員の共有になります。
したがって、一人の判断で勝手に処分(使い込み)や引き出しをすることは共有物の持分権侵害にあたるということを認識しておきましょう。
遺産分割協議が決裂した場合はどうする?
遺産分割協議は相続人の全員で話し合いをします。
さて、この話し合い(協議)で問題解決できればいいのですが、使い込みをした相続人は、「親の医療費・介護費のために預金を使った」、「親に頼まれて引出して、お金はその都度、本人に渡した」、「お金は親からもらったものだ」などと主張することがあり、なかなか解決しない場合もあります。
そして、どこまでいっても話し合いが平行線のままで、らちが明かないという状況になってしまうケースもあります……。
遺産分割調停
家族や兄弟姉妹などの当事者同士で解決できない場合、遺産分割調停に進むことを検討してください。
遺産分割調停は家庭裁判所に申立てを行ない、相続人全員が参加することが条件になります。
遺産の範囲に争いがある場合は、遺産分割調停の前に遺産の範囲を確定する訴訟を起こすことになります。
この判断は専門的なので、弁護士に相談するようにしましょう。
遺産分割審判
調停でも合意に至らない場合は自動的に「遺産分割審判」に移行します。
審判は話し合いではなく、裁判官が遺産分割方法を決定します。
特別受益と遺産の使い込みの
関係・争点・解決策について
相続実務では、「遺産の使い込み」なのか、それとも「特別受益」なのかが大きな争点になる場合があります。
一見、似たように見えても法律上の意味・扱い・解決方法がまったく異なるので、その違いを理解しておきましょう。
特別受益とは、被相続人(亡くなった人)から相続人が生前贈与(贈与者が生きているうちに婚姻もしくは養子縁組のため、もしくは生計の資本として受贈者に財産を無償で渡す契約)や、遺贈(遺言によって遺言者の財産を無償で第三者に与えること)などによって特別に受けた利益を指します。
たとえば、父親の生前に長男が1,000万円の援助を受けており、父親の死後に次男が「それは使い込みだ」と主張した場合に、特別受益と使い込みの関係が問題になります。
この場合、「父の意思でお金が渡されたか?」、「贈与として成立していたか?」がポイントになります。
<特別受益になる場合>
- 贈与の合意がある。
- 父親の意思による振込記録がある。
など
<使い込みになる場合>
- 被相続人に無断で預金を引出した。
- 被相続人が認知症を発症していた。
など
被相続人の意思の有無がポイントになるため、次のような証拠での立証が必要になります。
- 贈与契約書
- メールやメモ
- 通帳履歴 など
不法行為と不当利得の
どちらで請求するか?
使い込みを行なった相続人に対して、不法行為と不当利得のどちらで請求すればいいのかと悩んでしまう方もいらっしゃるでしょう。
この点について、じつは不法行為と不当利得はどちらで請求してもいいですし、「不法行為または不当利得返還請求権に基づき」というように選択的に請求してもいいのです。
つまり、どちらかが認められて使い込み分が戻ってくればいい、ということになるわけです。
そこで実務的には、次のポイントに着目して選択をしていくことになります。
時効期間
前述した消滅時効の期間に注意して、有利なほうを選択するべきです。
利得の有無
不法行為に基づく損害賠償は、相手方が利益を受けていなくても、請求者が損害を受けていれば請求できます。
一方、相手方に利得がない場合、不当利得は成立しません。
つまり、後者の場合は不法行為での損害賠償請求になります。
証拠の確実性・立証のしやすさ
不法行為と不当利得は、それぞれ立証の必要がある項目が違います。
どちらが立証しやすいのか、証拠を集めやすいか、その証拠の確実性などを考え合わせて選択する必要があります。
詳しい内容については弁護士に相談することをおすすめします。
遺産の使い込みへの対応策まとめ
遺産の使い込みへの対応では、
①事実関係の把握
②証拠の確保
③法的手段の選択
がポイントになります。
その点に留意しながら、対応策についてまとめていきます。
証拠の確保
証拠があるほど、のちの交渉や裁判が有利になるので、まずは次のような証拠を確保します。
- 預金通帳の履歴
- ATMの引き出し記録
- 不動産の登記情報
- LINEやメールでのやり取り
- 預金の使途を示す領収書の有無 など
使い込み額の特定
「いつ」、「誰が」、「いくら」、「何の名目で」預金を引き出したかを明確にします。
これらは、のちの交渉や遺産分割協議、調停などで必要になります。
遺産分割協議や調停で主張
話し合い(協議)や遺産分割調停では、
- 使い込んだ額を遺産に戻す。
- その分を相手方の相続分から控除する。
- 代償金の支払い。
などを求めることもできます。
不当利得返還請求・
損害賠償請求
遺産分割協議や調停が不成立の場合は、相手方に対して民事訴訟を提起して、不当利得返還請求や損害賠償請求をすることができます。
その他
悪質な場合は、刑事告訴を検討します。
その場合、次の犯罪に問われる可能性があります。
- 横領罪(刑法第252条)
- 窃盗罪(刑法第235条)
- 背任罪(刑法第247条)
ただし、刑事告訴は家族関係を完全に壊してしまうため慎重に判断するべきです。
以上、親などの遺産を兄弟姉妹の誰かが使い込んだ場合の対応策について解説しました。
遺産の使い込み問題は、どうしても感情的なってしまうものですが、それでは解決しないのが現実です。
できるだけ早期に、確実に解決したいのであれば一人で悩まず、まずは一度、弁護士にご相談ください。
弁護士法人みらい総合法律事務所は全国対応で、随時、無料相談を行なっています(事案によりますので、お問い合わせください)。
あなたからのご連絡をお待ちしています。























