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認知症の相続人がいる場合の注意点

最終更新日 2025年 12月23日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

認知症の相続人がいる場合の注意点

この記事を読むとわかること

認知症になると判断能力が低下するため、遺産分割協議や各種相続手続きを本人が行えない場合があります。

しかし、他の相続人が勝手に手続きを進めることはできません。

他の相続人全員が合意している場合でも、法律上は無効と判断される可能性があるので注意が必要です。

ここでは、認知症の相続人がいる場合に起こる問題点や注意点、成年後見制度などの対応方法について解説します。

認知症になる前にできる相続対策についても解説しているので、併せて参考にしてください。

認知症の相続人がいる場合に
起こる問題点

認知症の相続人がいる場合、通常通りに相続手続きを進めることはできません。

対応に困って手続きを進められなければ、相続税や登記などの手続きにも影響します。

まずは、認知症の相続人がいる場合に起こる問題について見ていきましょう。

考えられる問題としては、以下が挙げられます。

1つずつ詳しく解説します。

遺産分割協議ができない

通常であれば、遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割協議を行って財産の分配方法を決めます。

しかし、認知症の相続人がいる場合、通常通りに遺産分割協議を進められません。

なぜならば、遺産分割協議は相続人全員が内容を理解した上で合意することが前提となるからです。

認知症によって判断能力が不十分な相続人がいる場合、法的に有効な合意と認められない可能性があります。

相続人全員が同意をしていても、遺産分割協議は本人の意思表示が必要であり、第三者が代替することはできません。

そのため、成年後見制度などを利用して正式に手続きを行う必要があります。

相続税の申告に影響が出る
恐れがある

認知症の相続人がいる場合、相続税の申告にも影響することがあります。

相続税の申告は、原則として相続開始を知った日から10か月以内に行わなければなりません。

相続税の申告は全員で行う必要はなく、個人個人で行うことができます。

しかし、相続税の申告も意思能力が必要となりますので、認知症の相続人が意思能力を喪失している場合には、相続税の申告を行うことができません。

また、遺産分割が間に合わない場合は、法定相続分で申告するしかありませんが、その後に遺産分割が成立した場合には、修正申告や更正の請求が必要です。

そうなれば、手続きの手間が増えるだけでなく、特例や軽減措置が適用できなくなる可能性もあるでしょう。

また、申告期限を過ぎれば延滞税や加算税などのペナルティが課されるため、注意が必要です。

相続登記ができない
可能性がある

相続財産に不動産が含まれている場合、相続登記ができないことも問題になるケースが多いです。

法定相続分で一旦登記することはできますが、できれば遺産分割を完了して、確定した相続登記をしたいところです。

認知症の相続人が意思表示を行えない場合、必要書類を整えることができずに登記手続きが滞ってしまいます。

登記ができない状態が続けば、売却できないので空き家の管理や固定資産税の負担が続きます。

認知症の相続人がいる場合には、登記が進められない可能性を考慮して早めに対応を検討しましょう。

認知症の相続人がいる場合の
法的な取り扱いについて

認知症の相続人が関わる相続では、その相続人が法律上での扱いについて正しく理解しておくことが重要です。

「家族だから」「本人のためになるから」など自己判断だけで相続を進めてしまえば、後からトラブルになる可能性があります。

あらかじめ、認知症と法律行為の関係や、相続手続きにおける考え方について理解を深めておきましょう。

認知症になると法律行為が
できなくなる理由

相続手続きでは、遺産分割協議への参加や書類への署名など、さまざまな法律行為が求められます。

しかし、認知症が進行すれば、こうした法律行為の判断が難しくなる場合もあるでしょう。

法律では、本人に十分な判断能力が備わっていないと認められる場合、行われた法律行為は無効または取り消しの対象となる可能性があります。

これは、本人を不利な契約や不適切な手続きから守るための仕組みです。

相続に関しても同様で、本人が内容を理解できない状態で行った合意は、無効と判断されます。

意思能力の有無の判断について

認知症の相続人の意思能力については、認知症の診断名の有無だけで判断されるわけではありません。

実際には、どの程度の内容を理解できているかという点が重要になります。

具体的には、「遺産の内容や分割方法を認識できていたか」「判断の結果を理解していたか」などの点が考慮されます。

意思能力の判断にあたっては、長谷川式認知症スケールなどの検査結果、医師の診断書や日常の言動、手続きを行った当時の状況などが総合的に見られます。

軽度であっても状況次第では意思能力が否定されることもあれば、一定の理解が確認できれば能力が認められる場合もあります。

成年後見制度を
利用した場合の対応方法

認知症の相続人がいることで相続手続きを進められない場合、成年後見制度を利用することが解決策のひとつです。

ここからは、成年後見制度について解説します。

成年後見制度とは

成年後見制度は、判断能力が不十分な人に代わり、財産管理や契約行為などを行う人物を家庭裁判所が選任する仕組みです。

認知症によって相続手続きに参加できない相続人がいる場合、この制度を利用することで手続きを進められるようになります。

成年後見には、後見・保佐・補助などの類型があり、本人の判断能力の程度に応じて選ばれます。

相続においては、遺産分割協議に関与するために後見人が選任されるケースが多いです。

後見人は本人の利益を守る立場として行動することが求められ、家族が必ずしも選ばれるとは限りません。

成年後見人を選任する
メリット・デメリット

成年後見人制度は、判断能力が低下した本人を守りながら相続手続きを進められる制度ですが、注意すべきデメリットも存在します。

成年後見人を選任するメリット・デメリットは、以下の通りです。

【成年後見人を選任する
メリット・デメリット一覧】

メリット・本人に代わって
遺産分割協議や相続手続きを
進められる

・判断能力低下後も
財産管理が継続できる

・不当な契約や財産侵害を
防げる
デメリット・本人の利益が優先される
ので柔軟な分割が難しい

・家庭裁判所の許可が
必要な場面が多い

・後見が終了しにくく
長期化しやすい

成年後見人が選任されることで、認知症の相続人がいる場合でも、遺産分割協議や相続手続きを法的に有効な形で進めることが可能です。

相続手続きの停滞を防ぐ点では有効な制度と言えます。

一方で、成年後見人は本人の利益を守ることを目的として行動するため、他の相続人に配慮した判断や、節税を目的とした取り決めには慎重な姿勢が求められます。

また、重要な財産処分や遺産分割の内容によっては家庭裁判所の許可が必要になり、時間がかかるケースもあるでしょう。

このような制度上の特性を理解せずに手続きを進めると、相続手続き全体に影響を及ぼす可能性があるので注意が必要です。

家庭裁判所の許可が
必要なケース

成年後見人が関与する遺産分割では、内容によって家庭裁判所の許可が求められることがあります。

本人の財産が不当に減少することを防ぐために必要なものであり、具体的には次のようなケースで家庭裁判所の許可が必要になります。

  • 成年被後見人の取得分が法定相続分を
    下回る遺産分割を行う場合
  • 不動産を売却した代金を分配する
    遺産分割を行う場合
  • 相続財産である不動産を他の相続人が
    単独取得し、本人が代償金を
    受け取る
    場合
  • 本人が相続放棄や遺産分割協議の
    成立により、相続財産を取得しない、
    または著しく少なくなる場合
  • 相続財産の内容や評価額について
    争いがあり、本人に不利となる
    可能性が
    否定できない場合

家庭裁判所の許可を得るためには、遺産分割の内容が本人にとって合理的であることを説明する資料や、財産評価に関する書面などを提出する必要があります。

そのため、申立てから許可が出るまでに一定の時間と手間がかかることを理解しておきましょう。

成年後見制度以外の選択肢

成年後見制度は有効な手段ですが、全ての状況において最適とは限りません。

相続人に認知症の方がいる場合の相続手続きでは、他の選択肢が適しているケースもあります。

遺言書があれば
遺産分割協議は不要

被相続人による遺言書がある場合、相続人が認知症であっても遺産分割協議を行う必要がありません。

遺言の内容に従って財産を分けるため、相続人全員の合意を得る負担がなくなります。

ただし、遺言書は形式や証人の有無などが法律で定められているため、不備があると無効になる可能性があります。

公正証書遺言で作成しておけば、認知症の相続人がいる場合でも安心して活用できます。

負債がある場合は
相続放棄もできる

相続放棄は、財産だけでなく負債も含めて相続権を完全に放棄する手続きです。

相続人が認知症の場合でも、相続放棄は可能です。

ただし、本人に意思能力が十分でない場合は、自ら手続きを行うことができません。

こうした場合には、家庭裁判所が選任した成年後見人が代わりに申述を行います。

一度放棄を選択すると撤回はできないため、慎重に判断しましょう。

認知症の相続人がいる場合の
注意点

認知症の相続人がいる場合、法律上や手続きのルールを理解せずに進めると、後から手続きが無効になるなどのトラブルにつながる可能性があります。

ここでは、認知症の相続人がいる場合に注意すべきポイントを紹介します。

1つずつ詳しく解説します。

本人の意思能力を勝手に
判断してはいけない

認知症の程度を家族の主観で勝手に判断して遺産分割や相続手続きを進めれば、後で無効とされるリスクがあります。

なぜならば、本人が理解しているように見えても、法律上では判断能力が不十分と判断される場合があるからです。

医師の意見や専門家のアドバイスを参考にし、日常の言動や理解度を慎重に確認することが重要です。

とくに重要な財産に関する手続きでは、判断能力の有無をきちんと証拠として残すことがトラブル防止につながります。

相続人全員の合意があっても
手続きできない場合がある

「家族全員が納得しているから問題ない」と考えて相続手続きを進めるケースもありますが、法律上では認知症の相続人の意思確認が必要です。

例え相続人全員が同意していても、判断能力が不十分な相続人がいる場合の遺産分割協議や登記は成立しません。

手続きを有効に進めるには、成年後見制度の活用や家庭裁判所の許可が必要になることがあります。

家族間で合意ができていても、法律上の手続きを省略すると後で無効になる可能性があることを理解しておきましょう。

成年後見制度を利用すると
柔軟な相続対策はできない

成年後見人は本人の利益を守る立場で行動します。

そのため、特定の相続人に有利な分割や節税目的の分割など、自由な取り決めには制限があります。

また、重要な判断は家庭裁判所の許可が必要な場合もあり、手続きを柔軟に進めることはできません。

制度を利用する場合は、節税策や個別の取り決めが難しくなることを理解しておきましょう。

手続きの効率化や自由度を求める場合は、成年後見制度以外の選択肢も合わせて検討する必要があります。

相続手続きが長期化しやすい

認知症の相続人が関与する場合、手続きは通常よりも長期化することを前提に準備する必要があります。

成年後見人の選任や家庭裁判所の関与、遺産分割協議の進行など、時間がかかることが多いです。

そのため、相続税申告や不動産登記にも影響が出る可能性があります。

早めに専門家と相談し、スケジュールや手続きの流れを確認しておくことが重要です。

また、相続人間でのトラブルや誤解を防ぐため、段取りを事前に共有しておくと良いでしょう。

認知症になる前にできる相続対策

認知症になる前に相続対策を進めておけば、将来的なトラブルや手続きの複雑化を避けられます。

認知症になる前にできる相続対策は、以下の通りです。

1つずつ詳しく解説します。

公正証書の遺言を作成しておく

遺言書は、相続の争いを防ぐために有効な手段のひとつです。

とくに公正証書の遺言であれば、形式の不備によって無効になるリスクや、遺言書の紛失・改ざんなどを防げます。

公正証書遺言は公証人が関与するため、後から相続人や第三者に無効などの主張をされる可能性も低くなります。

認知症が進行する前に作成しておくことで、遺産分割協議を省略してスムーズに相続を進められるでしょう。

作成時には財産の内容や分配方法を具体的に書き出す必要があるため、弁護士など専門家のサポートを受けることで安心して遺言書の作成を進められます。

家族信託で財産管理を任せる

家族信託は、本人が認知症になる前に財産管理を信頼できる家族に委託する仕組みです。

信託契約を結んでおけば、本人の判断能力が低下しても受託者が財産の管理・運用を行えます。

成年後見制度を利用するより柔軟に財産管理ができ、生活費や医療費の支出も滞りなく行える点がメリットです。

また、家族信託では、不動産の管理や売却条件などの細かいルールも設定でき、相続時のトラブル予防にもつながります。

生前贈与を活用する

生前贈与は、財産を相続前に分配しておく方法です。

贈与によって財産が分割されていれば、認知症になった後の遺産分割が簡単になります。

ただし、贈与税や将来の相続税への影響を考慮する必要があります。

また、認知症の兆候が出始めた段階で贈与を行う場合、トラブルにならないよう本人の意思能力を確認しておかなければなりません。

弁護士や税理士と相談し、適切な方法と金額を決めることが推奨されます。

まとめ

認知症の相続人がいる場合、本人の意思能力や法律上の手続きに注意しなければ、遺産分割や登記が無効になるリスクがあります。

成年後見制度を活用すれば認知症の相続人がいても相続手続きを進められますが、手続きに時間はかかってしまいます。

あらかじめ家族信託や遺言書作成などで対策しておくことが理想です。

認知症の相続人がいる場合は相続手続きが複雑になるため、専門知識を持つ弁護士に相談すると良いでしょう。

専門家が関わることで、最適な手続きを進めることができ、安心かつ確実な相続につながります。

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