相続財産清算人とは?役割と手続を解説
相続財産の管理は相続人が行うことが一般的ですが、相続人が不明または不在の場合は「相続財産清算人」が相続財産を管理します。
以前は「相続財産管理人」とされていましたが、民法改正により現在は「相続財産清算人」と呼ばれています。
相続人が不在の場合や明らかになっておらず何らかの不都合がある場合は、家庭裁判所へ申し立てて相続財産清算人を選任してもらいましょう。
ここでは、相続財産清算人の具体的な役割や、選任の申し立て手続きなどを解説します。
目次
相続財産清算人とは
相続人が不明または不在の場合、相続財産の管理に支障が生じます。
そうした場合に、家庭裁判所が選任する財産管理の役割を担う人が「相続財産清算人」です。
以前は「相続財産管理人」と呼ばれていましたが、令和5年4月の民法改正により相続財産清算人という名称に変更されました。
この改正により、名称変更だけでなく、清算手続きの効率化も図られています。
従来の手続き期間よりも短縮され、相続財産の換価処分や債権者への弁済などの清算処理が迅速に進められるようになっています。
相続財産清算人の役割
相続財産清算人は、相続人が不在または確定していない場面で裁判所より選任される重要な存在です。
相続財産清算人が担う具体的な役割について解説します。
相続財産の管理・保全
相続財産清算人は、相続財産を適切に管理する役割を担っています。
単に相続財産を管理するだけではなく、現状のまま維持し、価値を損なわせないよう適切に管理することが求められます。
例えば、被相続人の死亡後、相続人が不明な場合や、全ての相続人が相続放棄をしたような場合では、財産が放置されてしまう恐れがあります。
こうした場合、不動産の老朽化・滅失を避けるための点検や契約管理など、相続財産清算人が状況に応じた対応をします。
また、未収金の回収や、必要経費の支払いなど日常的な事務も行います。
債権者への弁済と債務整理
相続財産清算人の重要な職務のひとつが、債権者に対する弁済と債務整理です。
被相続人が生前に負っていた借入金や未払い費用は、相続人がいない状態でも消えるわけではありません。
相続財産清算人は、債権者に対して公告や通知を行い、請求すべき債権の届け出を促します。
そして、相続財産の範囲内で債務の内容や金額を確認し、優先順位に従って弁済を進めていきます。
財産が不足する場合は、配当の割合の調整を行います。
これらの手続きには公平性を保ちながら進める必要があるため、相続財産清算人には正確な調査と慎重な判断が求められます。
相続財産の清算
相続人が確定して、当該相続人が相続を承認した時は、相続財産清算人の代理権は消滅し、相続人に対して相続財産を清算することになります。
一方で、相続人が最終的に見つからなかった場合には、一定の公告期間を経て、残余財産を国庫に帰属させる手続きへ移ります。
相続財産清算人は、財産の評価額や手続きの経緯を明確にし、関係者に対して手続きの公平性を確保するように対応することが求められます。
裁判所への報告義務
相続財産清算人には、財産管理や清算の状況を家庭裁判所へ適切に報告する義務があります。
これは、清算人が独断で処分や弁済を進めることを防ぎ、手続全体の公平性を確保するために設けられた仕組みです。
相続財産清算人は財産処分や債務整理も行いますが、財産の金額が大きくなる場合は事前に裁判所の許可を求める場面もあります。
相続財産清算人の選任を
申し立てるための要件
相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てるためには、一定の要件を満たす必要があります。
清算人を申し立てることができる条件は、以下の通りです。
(1)相続人が不明・不在のケース
(2)相続人が相続放棄等しているケース
(3)遺産の管理が難しいケース
1つずつ詳しく解説します。
相続人が不明・不在のケース
相続財産清算人の選任が必要となる代表的なケースが、相続人が不明または不在の場合です。
被相続人の死亡後に戸籍や住民票を調査しても相続人が特定できない場合、財産の管理や債務の弁済が適切に行えません。
こうした状況では、家庭裁判所に申し立てを行い、第三者である清算人を選任してもらうことになります。
相続財産清算人は、相続人が現れるまでの間に財産を適切に管理する責任を負います。
相続人が相続放棄等している
ケース
相続人が全員相続放棄・相続欠格・廃除により相続権を有する者がいなくなった場合も、相続財産清算人の選任が必要になることがあります。
相続放棄等によって相続権利が失われると、債務の処理や財産管理が行えなくなります。
こうした場合、残された財産の保全や債務整理、関係人への対応を相続財産清算人が公平かつ適切に進めます。
遺産の管理が難しいケース
相続財産清算人は、「相続人のあることが明らかでない時」(民法第951条)とされていますので、相続人がいることが明らかな場合は選任されません。
相続人がいるものの、行方不明や生死不明の場合は、不在者財産管理人や失踪手続等を行うことになります。
相続財産清算人が必要になる
具体的なケース
相続財産清算人が必要となるのは、相続手続きが通常の方法では進められない状況です。
具体的にどのようなケースで相続財産清算人が必要になるのか見ていきましょう。
相続財産を放置すると
価値が下がる場合
相続財産の放置によって時間が経過すれば、価値が下がるケースがあります。
例えば、不動産は管理を怠ると老朽化や損壊が進み、賃料収入も減少する可能性があります。
また、株式や預貯金は手続きが遅れることで、配当や利息の受け取りが滞るでしょう。
このような場合、相続財産清算人が選任されることで財産を適切に管理・保全し、換価や分配手続きを円滑に進めることができます。
多額の債務があって
債務整理が必要な場合
被相続人に多額の債務がある場合、相続人がいないと、相続財産から弁済をすることができません。
例えば、借入金や未払金、税金などの支払いが重なれば、財産の保全や弁済計画が滞る恐れがあります。
相続財産清算人が選任されれば、債権者への通知や弁済手続き、優先順位の調整などを相続財産清算人が代行します。
相続財産清算人の
申し立て手続き方法
相続財産清算人を選任してもらうには、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。
ここからは、手続きで準備すべき事項について解説します。
申し立てができる人
相続財産清算人の選任申し立ては、誰でも行えるわけではありません。
具体的には、受遺者、債権者、被相続人の財産を管理する必要がある人物などが該当します。
また、債権者など相続財産に関する自身の権利や利益に直接影響を受ける場合や、財産の放置や不適切な管理によって損害を被る恐れがある者も申し立てが認められます。
家庭裁判所は申立書や添付書類を精査し、利害関係の有無や財産状況を確認した上で、清算人の選任が必要かどうか判断します。
必要書類一覧
相続財産清算人を家庭裁判所に申し立てる際には、以下の書類が必要です。
- 申立書
- 被相続人の死亡証明書
- 戸籍謄本・住民票
- 財産目録
- 債務関連書類
- 利害関係を示す書類
これらの書類は、家庭裁判所が清算人選任の必要性を判断するための重要な資料です。
不備があると手続きが遅れるため、事前に十分確認して準備することが大切です。
相続財産清算人の
申し立てから選任までの流れ
相続財産清算人の選任は、家庭裁判所への申し立てから始まって選任が決定するまで、一連の手続きが必要です。
手続きは段階的に進められるため、各ステップの内容と期間を理解しておくことが重要です。
家庭裁判所への申し立て
相続財産清算人の選任手続きは、まず家庭裁判所への申し立てから始まります。
申立人は利害関係人であることを示す書類や財産目録など必要書類を揃え、管轄の家庭裁判所へ提出します。
裁判所は書類を確認し、財産状況や相続人の有無、利害関係の程度を判断します。
この段階で申立人は、清算人選任の必要性や理由を明確に示すことが重要です。
裁判所による調査・審理
家庭裁判所は相続財産清算人の申し立てを受け、調査・審理を行います。
相続人の有無や所在、財産の種類と評価、債務の状況などを確認し、利害関係人の利益に不利益が生じないかを検討します。
場合によっては、公告や関係者への照会を通じて情報を収集し、清算人選任の妥当性を判断することもあります。
相続財産清算人の選任決定
裁判所による調査・審理が終了すると、家庭裁判所は相続財産清算人の選任を正式に決定します。
選任決定では、申立人の希望や財産の状況、利害関係者の意見を総合的に考慮して、最適な清算人が指定されます。
選任された清算人は、裁判所から任務の範囲や権限、報告義務などが正式に通知され、管理・清算業務を開始することが可能になります。
選任後の公告と財産管理の開始
相続財産清算人が選任されると、まず家庭裁判所の指示に従い公告手続きが行われます。
公告は官報や新聞などで行われ、債権者や利害関係者に対して清算人の選任と財産管理の開始を周知する目的があります。
公告期間中に債権者は請求の届け出を行うことができ、清算人はそれを確認して債務整理や弁済計画を立てます。
また、清算人は預貯金の管理、不動産の維持、必要な支払いなど日常的な財産管理を開始し、財産の減少や損失を防ぎながら清算手続きを進めます。
相続財産清算人を
選任する場合の費用
相続財産清算人の選任には費用がかかります。
費用の総額は財産の規模や清算内容によって変動するため、事前におおよその費用を把握しておくと安心です。
相続財産清算人を選任する場合にかかる費用の内訳は、以下の通りです。
(1)申立手数料
(2)予納金
(3)公告費用
(4)弁護士に依頼する場合の費用
申立手数料
相続財産清算人を選任する際、家庭裁判所に申立手数料を支払います。
手数料は収入印紙で納付し、申立書提出時に支払います。
金額は申し立て内容や財産規模によって異なりますが、一般的には1,200円〜1,500円程度が目安です。
手数料の納付がないと申立ては受理されず、手続きが開始できません。
予納金
相続財産清算人を選任する際には、家庭裁判所に予納金を納める必要があります。
予納金は、清算人が財産管理や債務整理、公告などの手続きを円滑に行うために裁判所へ事前に預ける資金です。
金額は財産の規模によって変動しますが、一般的には数十万円〜数百万円程度が目安です。
財産総額が大きくなれば、高額になることがあります。
公告費用
相続財産清算人の選任後に債権者や利害関係者に対して公告を行う際には、官報掲載料などの公告費用が発生します。
官報に公告を掲載する場合、1件あたりの掲載料はおおよそ5,000円〜7,000円程度です。
公告費用は清算人の予納金から支出され、財産の管理・清算手続きを進める上で不可欠な費用です。
弁護士に依頼する場合の費用
相続財産清算人の選任や管理手続きを弁護士に依頼する場合、報酬として費用が発生します。
弁護士費用は依頼内容や財産規模により変動しますが、一般的には着手金20万円前後 + 財産額に応じた報酬(数%程度)が目安です。
例えば、財産額が1,000万円の場合、報酬は20万円〜50万円程度になることがあります。
弁護士に依頼することで、書類作成や裁判所対応、債務整理、公告手続きなどを専門的に進められるため、手続きがスムーズに進みます。
まとめ
相続人が不明・不在である場合や相続放棄がある場合などに、家庭裁判所へ相続財産清算人の選任を申し立てできます。
相続財産清算人は、財産の管理・保全、債務整理、遺産分配、裁判所への報告などの重要な役割を担います。
相続財産清算人の申し立ては自分で行うこともできますが、弁護士に依頼することも可能です。
手続きをスムーズに進めたい場合や、相続が複雑な場合は、弁護士に相談しましょう。



















