• お問い合わせはこちらから
メニュー

遺言書と遺留分はどちらが優先するのか?遺言どおりになる場面と遺留分が優先する場面を解説

最終更新日 2026年 09月15日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

遺言書と遺留分はどちらが優先するのか?遺言どおりになる場面と遺留分が優先する場面を解説

この記事を読むとわかること

遺言書と遺留分は、どちらか一方だけが通る関係ではありません

関係を取り違えたまま手続きを進めれば、請求できたはずの権利を失う可能性もあります。

適法な遺言書がある場合、原則として遺言書が効力を生じますが、遺留分侵害額請求がされると、贈与または遺言書により財産を取得した者に金銭の支払債務が発生します。

その意味で、遺言は遺留分に優先しないけれども、遺留分は遺言に優先する、ともいえます。
ただし、請求がなければ、遺言書のとおりの財産承継となります。

この記事では、遺言どおりになる場面と遺留分が優先する場面を、ケースごとに解説します。

結論:遺言書は効力を生ずるが、
遺留分請求も効力を生ずる

遺言書と遺留分の関係は、どちらか一方が勝つといった単純な構造ではありません。
段階を分けて考えると、実際に何が起こるのかを正しくつかめます。

まずは、優先関係の結論から確認しましょう。

一つずつ詳しく解説します。

遺言書の効力そのものは
失われない

遺留分を侵害する内容の遺言書であっても、それだけで無効になることはありません
遺言によって財産を受け取った人は、その財産を取得します。不動産であれば、遺言書にもとづいて名義を変える登記も行えます。

遺留分を侵害しているという理由だけで、遺言書が自動的に書き換えられるわけではありません。

請求があってはじめて
遺留分の権利が効力を生ずる

遺留分は、権利を持つ相続人が請求してはじめて効力を生じます。
請求をしないまま期間が過ぎれば、遺言書の内容がそのまま確定します

一方で請求をすれば、侵害された金額の限度で贈与または遺言により財産を取得した者に金銭支払債務が発生します。

どちらが優先するかは、請求の有無によって決まる仕組みです。

「無効になる」と
「効力が制限される」は違う

遺留分の請求を受けても、遺言書が無効になるわけではありません
財産を受け取った人が、侵害額に相当する金銭を支払う義務を負うだけです。

2019年(令和元年)7月1日より前は、請求によって遺産そのものの権利が戻る仕組みでした。

現在は金銭の支払いを請求する制度に整理されているため、財産の帰属自体は動きません。

遺留分の基本

せっかく贈与や遺言書によって財産を取得したと思っても、遺留分侵害額請求をされると金銭支払義務を負う可能性がありますので、まず、誰にどれだけの遺留分があるのかを知っておく必要があります。

ここでは、判断に必要な範囲にしぼって確認します。

遺留分が認められるのは
兄弟姉妹以外の相続人

遺留分が認められるのは、法定相続人のうち兄弟姉妹以外の人です。
対象になるのは、配偶者、子(およびその代襲相続人)、直系尊属の3種類です。

被相続人の兄弟姉妹や、その代襲相続人である甥・姪には遺留分がありません。

割合は原則として2分の1

遺留分の割合は、直系尊属だけが相続人である場合は3分の1です。
配偶者や子が相続人に含まれるなど、それ以外の場合は2分の1になります。

相続人が複数いる場合は、この割合に各自の法定相続分を掛けた割合が個別の遺留分です。

割合の一覧や具体的な計算方法は、次の記事で詳しく解説しています。

遺言書がそのまま
実現する4つの場面

遺留分があるからといって、遺言書の内容が修正されるわけではありません。

実際には、遺言書がそのまま実現し、金銭支払義務を負うことはありません。

主な場面は、次の通りです。

それぞれの内容を、順に確認していきましょう。

相続人が兄弟姉妹だけの場合

相続人が被相続人の兄弟姉妹だけであれば、遺留分は発生しません
そのため、遺言書に書かれた内容がそのまま実現します。

子どもがいない夫婦で、配偶者にすべてを残したい場合などに意味を持ちます。

兄弟姉妹だけが相続人になる可能性がある場合は、遺言書の効果が特に大きくなります。

遺留分権利者が請求しない場合

遺留分は、請求するかどうかを権利者が自分で決められます。
故人の意思を尊重して請求しないという判断も、当然に認められます。

請求がなければ、遺言書の内容がそのまま確定します。

請求できる期間が過ぎた場合

遺留分侵害額の請求権は、1年間行使しないと時効によって消滅します。

起算点は、相続の開始と、遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時です。
また、相続開始の時から10年を経過したときも、請求権は消滅します。

期間が過ぎれば、遺留分侵害額請求はできなくなります。

生前に遺留分の放棄が
許可されている場合

相続開始前に遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。

本人の意思に基づかない放棄を防ぐため、許可制が設けられています。

許可を受けた人は請求ができないため、その分だけ遺言書が実現しやすくなります。
なお、一人が放棄をしても、他の相続人の遺留分には影響しません。

遺言書の内容別に見る違い

実際の相談では、遺言書の書き方によって結論が変わるように見えることがあります。

ここからは、よくある遺言書の内容ごとに、違いを確認していきましょう。

全財産を長男に
相続させる遺言書

特定の相続人にすべてを相続させる遺言書も、有効に成立します。
ただし、他の相続人が遺留分権利者であれば、侵害額を金銭で請求できます。

請求を受けた長男は、受け取った財産の価額を限度として支払う義務を負います。

不動産が中心の遺産では、支払いの資金をどう用意するかが実際の問題になります。

内縁の配偶者や第三者へ
全部を遺贈する遺言書

相続人以外の人へ財産を渡す遺贈も、遺言書によって行えます。
この場合も、遺留分権利者がいれば、その人は受遺者に対して金銭を請求できます。

請求先は相続人ではなく、実際に財産を受け取った受遺者です。
渡したい相手が相続人以外の場合は、遺留分の負担を誰が負うのかを整理しておくことが大切です。

「遺留分は渡さない」と
書かれた遺言書

遺言書に遺留分を渡さない旨を書いても、その部分に法的な効力はありません
遺留分は法律で保障された権利のため、遺言書の記載で奪うことはできないためです。

記載があっても、遺留分権利者は通常どおり請求できます。

かえって感情的な対立を生むことがあるため、書き方には注意が必要です。

生前贈与で財産を減らしてから
作った遺言書

生前に財産を贈与しておけば遺留分を減らせる、と考えられることがあります。
しかし、一定期間内の贈与は、遺留分を算定するための財産に加算されます。

相続人以外への贈与は相続開始前の1年間、相続人への贈与は原則として10年間が対象です。

双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与は、期間の制限なく加算されます。

事業用の資産を後継者に
集中させる遺言書

事業承継では、株式や事業用資産を後継者へ集中させる必要があります。
遺言書だけで進めると、他の相続人からの遺留分の請求で経営が不安定になることがあります。

中小企業の事業承継には、経営承継円滑化法に遺留分に関する民法の特例が設けられています。

推定相続人全員の合意により、後継者が取得した株式等を遺留分の算定から除外する、または価額を合意時点で固定することが可能です。

この合意は、経済産業大臣の確認を受けたうえで、確認の日から1か月以内に家庭裁判所へ申し立て、許可を受けたときに効力を生じます。

遺留分が請求された場合に
負担する人と順序

請求を受けたときに、誰がいくら支払うのかも法律で決まっています。
請求先を誤れば、手続きが円滑に進まない可能性もあるでしょう。

負担のルールは、以下の通りです。

一つずつ詳しく解説します。

受遺者が先に負担し、
受贈者が後に負担する

遺贈を受けた人と贈与を受けた人がいる場合は、遺贈を受けた人が先に負担します。

遺贈を受けた人が複数いる場合は、それぞれが受け取った価額の割合に応じて負担します。

贈与を受けた人が複数いる場合は、後の贈与を受けた人から順に負担します。

誰に請求するかは、遺言書と生前贈与の内容を確認して判断することが大切です。

遺言書で負担の
割合を指定できる

遺贈を受けた人が複数いる場合の負担割合は、遺言書で変えることができます。
法律でも、遺言者が別段の意思を表示したときは、その意思に従うと定められています。

特定の人に負担を集中させたくない場合に、有効な工夫になります。

遺言書を作る段階で、負担のバランスまで指定しておくと安心です。

すぐに支払えない場合は
期限の許与を求められる

遺留分は金銭で支払うため、不動産しか受け取っていない場合は資金の準備が問題になります。
このような場合、請求を受けた人は、裁判所に対して支払期限の猶予を求めることができます

裁判所は、支払うべき債務の全部または一部について、相当の期限を許与することが可能です。
支払いが難しいときも、直ちに滞納となるわけではない点を知っておきましょう。

遺言書の無効を主張する
場合との違い

遺言書の内容に納得できない場合、取り得る手段は遺留分の請求だけではありません。

遺言書そのものの無効を主張する方法もあり、両者は目的も結論も異なります。

違いを、順に確認していきましょう。

遺言書が無効になる主な理由

遺言は、法律で定められた厳格な方式に従わなければ効力を持ちません

自筆証書遺言では、全文、日付、氏名の自書と押印が必要です。
また、15歳に達していない人の遺言や、遺言をする時に能力がなかった場合も無効になります

方式や能力に疑いがある場合は、無効の主張が選択肢になります。

無効が認められた場合の結論

遺言書が無効と認められれば、その遺言書はなかったものとして扱われます
その場合は、相続人全員による遺産分割協議で分け方を決めることになります。

遺留分の枠を超えて財産を取得できる可能性がある点が、遺留分の請求との大きな違いです。
一方で、無効が認められなければ、遺言書の内容がそのまま残ります

どちらを選ぶかの判断軸

無効の主張は、方式の不備や遺言能力を争うため、立証の負担が重くなります。
これに対して遺留分の請求は、遺言書が有効であることを前提に金銭を求める手続きです。

無効を争っている間にも、遺留分の請求期限は進んでいきます。
そのため実務では、無効を主張しつつ、期限内に遺留分の請求もしておく対応がとられることがあります。

遺留分が問題になった時の進め方

遺留分は、権利があるだけで自動的に受け取れるものではありません。

自分から動く必要があるため、進め方を知っておくことが大切です。

対応の流れは、次の通りです。

それぞれの内容を、順に確認していきましょう。

遺言書と財産の内容を確認する

まずは遺言書の内容と、どのような遺産がどれだけあるのかを確認します。
自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所の検認が必要になることがあります

不動産の登記事項証明書や預貯金の残高証明書などを集め、財産の評価額を把握します。

生前贈与の有無についても、あわせて確認しておきましょう。

期限を確認して
意思表示を先に行う

金額が固まっていなくても、まずは請求の意思を相手方に伝えることが重要です。
口頭でも意思表示そのものは可能ですが、後から証拠が残らないという問題があります。

一般的には、内容証明郵便を利用して請求の事実と日付を残す方法がとられます。

期限が迫っている場合は、金額の計算より意思表示を優先することが大切です。

話し合いがつかない場合は
調停を申し立てる

当事者間で話し合いがつかない場合は、家庭裁判所の調停を利用できます。
申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。

申立てに必要な費用は、収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手です。

戸籍謄本や遺言書の写しなど、必要書類を事前に確認しておくと安心です。

遺言書を作る人ができること

遺留分は、遺言書を作成する側にとっても重要な論点です。

遺留分を理解しておけば、争いを避ける工夫ができます。

作成時に押さえておきたい点は、次の通りです。

一つずつ詳しく解説します。

遺留分を侵害しない配分にする

最も確実な方法は、各相続人の遺留分を下回らない配分にすることです。
遺留分の額は、財産の評価額によって変わります

不動産が多い場合は、評価の方法によって結論が変わることもあります。

配分を決める前に、財産の評価額を確認しておくことが大切です。

支払いの資金を用意しておく

遺留分を侵害する配分にする場合は、支払いの資金まで準備しておくと安心です。

生命保険金は受取人が自分の権利として受け取るため、資金の準備手段として使われます。
ただし、他の相続人との間に著しい不公平が生じる特段の事情がある場合は、例外的に考慮される可能性があります。

金額が大きい場合は、取り扱いを専門家に確認しておくと安心です。

付言事項で理由を伝える

遺言書には、法律上の効力はないものの、付言事項として想いを記載できます。
なぜその配分にしたのかを説明することで、相続人の納得を得やすくなります。

療養看護に尽力した相続人への感謝など、具体的な事情を書く方法があります。
争いを避けたい場合は、配分とその理由の両方を整理しておくとよいでしょう。

よくある質問

最後に、遺言書と遺留分の関係についてよく寄せられる質問をまとめます。

Q. 公正証書遺言であれば、
遺留分より優先しますか?

A. 公正証書遺言であっても、遺留分の請求を防ぐことはできません。

公正証書は、方式の不備によって無効となるリスクが低い点に意味があります。
遺留分との関係では、自筆証書遺言と扱いは変わりません。

Q. 遺言書にもとづいて
不動産の名義を変えた後でも
請求できますか?

A. 名義変更が終わっていても、期限内であれば遺留分の請求は可能です。

遺留分は金銭の支払いを求める権利のため、登記の状態によって左右されません。
ただし、財産が処分されると回収が難しくなるため、早めの対応が大切です。

Q. 遺留分を請求されたら、
必ず支払う必要がありますか?

A. 要件を満たす請求であれば、原則として金銭を支払う必要があります。
ただし、財産の評価や生前贈与の範囲について争いがある場合は、金額が変わることもあります。

すぐに支払えないときは、裁判所に支払期限の猶予を求めることも可能です。

Q. 遺言書の無効を
主張しながら、
遺留分も請求できますか?

A. 両方を同時に検討することは可能です。

無効が認められれば遺産分割協議に移り、認められなければ遺留分の請求が意味を持ちます。

無効を争っている間も期限は進むため、進め方は弁護士に相談することが大切です。

まとめ

遺言書と遺留分は、どちらか一方だけが有効になる関係ではありません。

遺留分を侵害する遺言書であっても、それだけで無効になることはありません

遺留分権利者が請求をしてはじめて、侵害された金額の支払義務を負うことになります

相続人が兄弟姉妹だけの場合や、請求がないまま期限が過ぎた場合は、遺言書の内容がそのまま実現します。

遺言書の内容や生前贈与の有無によって結論が変わるため、事実関係の整理が欠かせません。

判断に迷う場合や金額に争いがある場合は、弁護士に相談することで、事実関係の整理から請求手続きまでのサポートを受けることが可能です。

みらい総合法律事務所は全国対応で、随時、無料相談を行なっています(事案によりますので、お問い合わせください)。

弁護士が経営者を全力でサポート!!
ご相談フォーム

出版物のご紹介

ご相談フォーム