公正証書遺言をわかりやすく解説
2010年代後半以降、日本は「多死社会」に突入したとされており、2040年前後には亡くなる人の数がピークに達すると予測されています。
亡くなる人が増えていることにともない、相続問題に直面する方も増加しており、遺言書への関心も高まっています。
しかし、遺言書については知っているようで、「じつはよくわからない……」という方も多いかもしれません。
そこで本記事では遺言書の中でも、自分で書いて作成する「自筆証書遺言」よりも安全で信頼性が高い「公正証書遺言」について、次のような項目を中心に解説していきます。
☑公正証書遺言の特徴/
自筆証書遺言との違い
☑公正証書遺言の法的効力/
メリットとデメリット
☑公正証書遺言の作成方法と手順
☑公正証書遺言の作成費用と必要書類
☑注意するべきポイント
目次
まずは遺言書について確認
遺言書とは?
被相続人(財産を遺す人)が生前、自分の財産を①誰に、②どれだけ遺すのかについての最終的な思いや意思を、家族に伝えるために遺すものを「遺言」といいます。
「遺言書」は、その遺言の内容を書面にした法的効力のある書類ということになります。
遺産の相続の内容や配分など、遺言の内容は自由に自分で決めることができます。
遺言書の種類は?
遺言書は「普通方式」と「特別方式」の2種類に大きく分類され、普通方式には次の3種類の遺言書があります。
②公正証書遺言
③秘密証書遺言
ほとんどの遺言書は普通方式で、この方式では難しい例外的な場合には特別方式で遺言をすることになります。
なお、特別方式の遺言書は4種類あります。
遺言書が大切な理由
相続トラブルの防止
相続においては、遺言があれば法定相続よりも優先されます。
たとえば、夫が亡くなり、妻と長男、長女が相続人になったケースで遺言がない場合、相続人たち全員で遺産分割協議を行ないます。
基本的には、民法で定められている法定相続分で遺産を分割していきますが、そのとおりの内容、割合で遺産分割をする義務はありません。
そのため、「自宅は誰が取得するのか」、「預金はどういった割合で分けるのか」などについて相続人全員で話し合い、決定していくのです。
ここで問題になるのは、遺産分割協議でそれぞれの意見が対立してしまい、相続手続きが止まってしまうようなケースです。
「相続税の申告・納税」や「不動産の名義変更」など期限が決まっている手続きもあり、いつまでも相続が解決できないと損をしてしまう場合があります。
しかし遺言書があれば、その内容のとおりに相続を進めていくので、トラブルなどのリスクを軽減することができるのです。
遺言を確実に遺すため
「自分の死後は、こうしてほしい」といった内容を記録した録音や動画を遺しただけでは法律上の遺言としての効力はありません。
遺言を確実に遺すためには、法律で定める方式に従う必要があります。
公正証書遺言の特徴を
わかりやすく解説
相続対策を考え始めた時、よく候補としてあがるのが「公正証書遺言」です。
しかし、「自筆証書遺言と何が違うのか」、「本当に安全なのか」、「費用はどれくらいかかるのか」などで迷ってしまったり、後回しにしてしまう方は少なくありません。
そこで、ここからは公正証書遺言について、基本となる知識から重要ポイントまでをお話ししていきます。
公正証書遺言とは?
公正証書遺言は、公証人が関与して作成する方式です。
- 公証役場では、遺言者が公証人と証人2名の前で遺言内容を口頭で告げ、
公証人がそれを文書化して作成します(民法第969条)。 - 公証人は、遺言者および証人に筆記した遺言を読み聞かせ、
または閲覧させます。 - 遺言者および証人が、正確に筆記されていることを承認し、署名・押印
します。 - 公証人は、方式に従って作成したことを付記して署名・押印します。
ただし、実際の実務経験上では、次のような段取りで作成されることが多いといえます。
- 遺言者が遺言の案文を事前に公証人に交付
- これに基づいて公証人と打ち合わせをして内容を確定
- 公証人が事前に証書を作成
- 公正証書作成当日に、遺言者および証人に読み聞かせる
証人になれない人は?
公正証書遺言には証人2名が必要ですが、次の人は証人になれないので注意が必要です。
- 未成年者
- 推定相続人や受遺者とその配偶者
- 直系血族 など
公正証書遺言の主な特徴
ここでは、以下の公正証書遺言の主な特徴を解説します。
原本が公証役場で厳重に
保管される
公正証書遺言は3通作成され、原本は公証役場で保管、正本と謄本は遺言者などに交付されます。
原本は公証役場に保管されているため、遺言者の死後、利害関係人は遺言の有無を検索することができます。
確実性・安全性の高い遺言方式
公正証書遺言は公証役場で保管されるため、次のような理由から、確実性・安全性の高い遺言方式になります。
- 無効・紛失・改ざんのリスクが低い
遺言方式のため、民法上の方式違反が
起こりにくい。 - 自筆証書遺言のように、書き方の間違いや不備を理由として無効になる
心配が
ほぼない。
家庭裁判所の検認が不要で
相続人の負担が軽い
自筆証書遺言の場合、相続開始後に家庭裁判所の「検認」が必要になりますが、公正証書遺言は不要です。
そのため、相続手続きをすぐに開始でき、相続人の負担を軽くできます。
自書が難しい人でも作成できる
公証人が作成するため、身体的な理由などで文字が書けない人でも利用しやすい遺言方式です。
有効期限はない
要件を満たしているなら有効期限はありません。
原則として、撤回されるまで効力を維持します。
いつでも撤回可能
民法では、遺言者はいつでも遺言の方式に従って、遺言の全部または一部を撤回することができる、と規定しています(民法第1022条)。
そのため遺言者の生前であれば、公正証書遺言を後から自筆証書遺言によって撤回することも可能です。
ただし、遺言を撤回した後に、その撤回した行為(後の遺言等)を「撤回する」という遺言をした場合は、後の遺言は撤回されますが、それにともなって前の遺言が撤回されるわけではありません(民法第1025条)。
後の遺言を撤回しても前の遺言は復活しないため、遺言書を再度作成する必要があります。
公正証書遺言の法的効力とは?
☑不備・不足などがなく、署名押印もされて有効に作成された公正証書遺言は、他の方式の有効な遺言と同じく法的効力を持ちます。
公正証書遺言だからといって、他の遺言方式よりも内容面で強いということはありません。
☑ただし前述のように、法的に無効になる可能性や紛失や偽造などの危険性がほとんどありません。
そのため、確実性・安全性が高く、無効になるリスクが低いという利点があります。
☑なお、どういった内容でも遺言者の思うとおりに、何でも実現できるわけではありません。
たとえば、遺言書に「財産はすべて長男に引き継ぐ」と記載しても、他の相続人(兄弟姉妹など)に遺留分(一定の相続人に保障された最低限の取り分)がある場合、長男は遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
公正証書遺言の費用と必要書類
公正証書遺言の作成費用
公証役場の手数料は財産額に応じて決まります。
- 基本手数料
- 遺言加算
- 正本・謄本の交付費用
- 出張が必要な場合はその費用
<公証人手数料(第9条別表)>
| 目的の価格 | 基本手数料 | 補足 (計算方法など) |
|---|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 | – |
| 50万円超〜 100万円以下 | 5,000円 | – |
| 100万円超〜 200万円以下 | 7,000円 | – |
| 200万円超〜 500万円以下 | 13,000円 | – |
| 500万円超〜 1,000万円以下 | 20,000円 | – |
| 1,000万円超〜 3000万円以下 | 26,000円 | – |
| 3,000万円超〜 5,000万円以下 | 33,000円 | – |
| 5,000万円超〜 1億円以下 | 49,000円 | – |
| 1億円超〜 3億円以下 | 49,000円~ | 超過額 5,000万円 まで毎に 15,000円を 加算 |
| 3億円超〜 10億円以下 | 10万9,000円~ | 超過額 5,000万円 まで毎に 13,000円を 加算 |
| 10億円超〜 | 29万1,000円~ | 超過額 5,000万円 まで毎に 9,000円を 加算 |
必要書類
主な必要な書類には次のものがあります。
- 戸籍謄本
(遺言者と相続人の続柄がわかるもの) - 受遺者の住所がわかる資料
- 固定資産税納税通知書または
固定資産評価証明書 - 不動産の登記事項証明書
- 預貯金通帳またはコピー
- 証人の確認資料
- 遺言執行者を指定する場合はその人の
特定資料 など
どちらを選ぶ?公正証書遺言と
自筆証書遺言の違いについて
実際、実務でよく使われるのは公正証書遺言と自筆証書遺言です。
(秘密証書遺言は利用件数が多い方式ではないため、ここでは触れません)
では、この2つの遺言方式にはどのような違いがあるのか、見ていきます。
一覧表で確認!公正証書遺言と
自筆証書遺言の違い
【公正証書遺言と自筆証書遺言の違い/
比較一覧表】
| 比較項目 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成方法 | 公証人が作成し、 証人2名の立会いが必要 | 遺言者が自分で作成する |
| 法律専門家の関与 | あり | なし |
| 方式不備による無効リスク | 低い | 比較的高い |
| 訂正のしやすさ | 公証人が適式に対応 | 訂正方法が厳格 |
| 証人 | 2名必要 | 不要 |
| 費用 | 手数料がかかる | 基本的にほぼかからない |
| 保管方法 | 原本を公証役場で保管 | 自宅保管が基本 ただし法務局保管制度も 利用可 |
| 紛失・改ざんリスク | とても低い | 自宅保管だと比較的高い |
| 家庭裁判所の検認 | 不要 | 自宅保管なら必要 法務局保管なら不要 |
| 作成のしやすさ | 事前準備や日程調整が必要 | 自分でいつでも 作成しやすい |
| 向いている人 | 確実に有効な遺言を 残したい人 | 早く、低コストで 作りたい人 |
| 比較項目 | 作成方法 |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 公証人が作成し、 証人2名の立会いが必要 |
| 自筆証書遺言 | 遺言者が自分で作成する |
| 比較項目 | 法律専門家の関与 |
|---|---|
| 公正証書遺言 | あり |
| 自筆証書遺言 | なし |
| 比較項目 | 方式不備による無効リスク |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 低い |
| 自筆証書遺言 | 比較的高い |
| 比較項目 | 訂正のしやすさ |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 公証人が適式に対応 |
| 自筆証書遺言 | 訂正方法が厳格 |
| 比較項目 | 証人 |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 2名必要 |
| 自筆証書遺言 | 不要 |
| 比較項目 | 費用 |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 手数料がかかる |
| 自筆証書遺言 | 基本的にほぼかからない |
| 比較項目 | 保管方法 |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 原本を公証役場で保管 |
| 自筆証書遺言 | 自宅保管が基本 ただし法務局保管制度も 利用可 |
| 比較項目 | 紛失・改ざんリスク |
|---|---|
| 公正証書遺言 | とても低い |
| 自筆証書遺言 | 自宅保管だと比較的高い |
| 比較項目 | 家庭裁判所の検認 |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 不要 |
| 自筆証書遺言 | 自宅保管なら必要 法務局保管なら不要 |
| 比較項目 | 作成のしやすさ |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 事前準備や日程調整が必要 |
| 自筆証書遺言 | 自分でいつでも 作成しやすい |
| 比較項目 | 向いている人 |
|---|---|
| 公正証書遺言 | 確実に有効な遺言を 残したい人 |
| 自筆証書遺言 | 早く、低コストで 作りたい人 |
作成方法の違い
公正証書遺言
公証人と証人2名の前で、遺言者が内容を口頭で述べ、公証人がそれを文書にして作成。
自筆証書遺言
遺言者が自分で作成。
公正証書遺言では公証人という法律の専門家が関与するため、法律的に整理された内容にしやすいですが、自筆証書遺言は自分で内容を整える必要があります。
無効リスクの違いに要注意
公正証書遺言
公証人が関与するため、方式不備で無効になるおそれはほぼない。
自筆証書遺言
内容が複雑な場合、法的に不備な内容になってしまう危険がある。
訂正方法も厳格なため、方式不備で無効になるリスクがある。
家庭裁判所の検認の有無
公正証書遺言
家庭裁判所での検認は不要。
自筆証書遺言
自宅などで保管していた自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所での検認が必要。
法務局で保管されている自筆証書遺言は検認不要。
検認とは、①相続人に対して遺言の存在や内容を知らせる、②遺言書の形状や加除訂正の状態、日付、署名などの内容を明確にする、③遺言書の偽造・変造を防止する、といった目的のために家庭裁判所が行なう手続です。
なお、遺言書が見つかった場合、相続人や保管者は勝手に開封してはいけません(5万円以下の過料)。
どちらを選ぶか?
公正証書遺言が向いている場合
- 相続でもめる可能性がある
- 遺産に不動産がある
- 財産が複数に分かれている
- 再婚家庭などで相続関係が複雑
- できるだけ無効リスクを避けたい
自筆証書遺言が向いている場合
- すぐに遺言を作成して遺したい
- 相続の内容が比較的シンプル
- 費用を抑えたい
- 法務局保管制度も活用したい
公正証書遺言のメリットと
デメリット
ここまでの内容を踏まえて、公正証書遺言のメリットとデメリットについてまとめます。
メリット
公正証書遺言のメリットは以下の通りです。
一つずつ詳しく解説します。
遺言者の意思で
作成されたことを証明しやすい
公証人が関与して作成されるため、遺言者の意思に基づいて作成されたことを証明しやすいです。
自分で作成する必要がない
公証人が文書化するため、自分で作成する必要がなく、手や目が不自由な方や高齢の方でも作成しやすいです。
検認が不要
相続開始後、家庭裁判所での検認手続を経ずに執行しやすいため、比較的スムーズに手続きを進めやすいです。
紛失・改ざんのリスクが低い
公証役場に原本が保管されるため、自宅保管の遺言のように紛失、破棄、隠匿、改ざんなどのリスクを避けやすくなります。
公証人の出張も可能
公証役場に行くのが難しい場合は、公証人が自宅や病院、介護施設などへ出張して作成できる場合があります。
デメリット
公正証書遺言のデメリットは以下の通りです。
一つずつ詳しく解説します。
費用がかかる
公証人手数料令に基づく手数料が必要になります。
証人が必要
証人2名の立会いが必要で、証人になれない人もいるため事前調整が必要な場合があります。
なお、証人がいない場合は公証役場で紹介してもらえる場合もあります。
遺言内容が家族以外に
知られてしまう
遺言の内容が証人と公証人に知られてしまいます。
作成までに準備が必要
財産に関する資料や戸籍、不動産資料などを集める必要があり、手軽とはいえません。
公正証書遺言の作成方法と手順
通常、次のような手順・段取りを経て公正証書遺言は作成されます。
一つずつ詳しく解説します。
手順①公証人へ相談・依頼する
まず、公証役場に直接連絡して相談します。
士業や銀行を通さず、本人や家族が直接、公証役場に連絡しても問題ありません。
手順②必要資料などを提出する
「誰に」、「どの財産を」、「どのように相続したいか」を整理したメモを作り、戸籍や不動産資料などと合わせて提出します。
手順③公証人が
遺言公正証書案を作成
提出資料に基づいて、公証人が遺言案を作成して本人が確認・修正します。
手順④作成日時を決定する
案が固まったら、公証役場で作成する日程を決定します。
手順⑤公証人と証人2名の前で
最終確認する
遺言者本人が内容を口頭で告げ、公証人が真意を確認し、遺言内容を読み聞かせ、または閲覧させて確認します。
内容に誤りがなければ、遺言者・証人・公証人の手続きを経て、公正証書遺言が完成します。
なお、利害関係人には席を外してもらう運用が行われています。
公正証書遺言で注意するべき
7つのポイント
ここでは、公正証書遺言を作成する上で注意すべきポイントを紹介します。
一つずつ詳しく解説します。
遺言内容はできるだけ正確に
方式は整っていても、「どの不動産か」、「どの預金か」、「誰に何を渡すか」といった内容があいまいだと後の手続で解釈に対する争いが起こる可能性があります。
財産の特定は、できるだけ明確にしておくべきです。
証人選びに注意する
前述したように、証人にはなれない人がいるので注意が必要です。
事前に公証役場へ確認しておくのが安全でしょう。
遺留分への配慮が必要
遺言の内容によっては、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
内容が偏るような場合は、付言事項(法律以外で家族への思いや希望を自由に記載できる項目)の工夫や、生前に家族を集めて説明をしておくなどの対応を考えたほうが安全です。
判断能力があるうちに作成する
公正証書遺言の作成当日には、公証人が判断能力や真意を確認するため、体調や認知機能に不安が出る前に作成を進めていくことも重要です。
遺言執行者を指定するかも
検討する
遺言内容が複雑な場合などは「遺言執行者」を定めておくと相続開始後の手続が進めやすくなります。
遺言執行者とは、遺言者が亡くなった後に遺言書の内容を実行し、実際の手続きを行なう人です。
公正証書遺言の見直しも
考えておく
家族構成や財産状況などが変わっていけば、遺言への考えが変わる可能性があります。
古い内容の遺言書をそのままにしておくと、今の希望と合わなくなることがあることも考えておくといいでしょう。
遺言は撤回や変更が可能なので、事情が変わったなら見直すことも検討しましょう。
公証役場からの通知は
行われない
公正証書遺言の遺言者が亡くなっても、公証役場から相続人へ通知は行われないことにも注意が必要です。
以上、公正証書遺言について網羅的に解説しました。
遺言は、とても重要で注意するべきポイントも多くあります。
遺言書について疑問がある、心配なことが見えてきた、相続人の間でトラブルが起きている、といった場合は1人で悩まず、まずは一度、弁護士にご相談ください。
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