交通事故で被害者が死亡した場合(死亡事故)の損害賠償額の一般的な計算方法を教えてください。
死亡事故の場合に,裁判上認められている損害項目としては,一般的に以下のものが考えられます。
①治療費
②葬儀関係費
③死亡慰謝料
④死亡逸失利益
⑤弁護士費用
ここで,①治療費については,現実に支出した金額を請求することになりますので,②~⑤の一般的な計算方法についてご説明します。
②葬儀関係費について
原則として上限を150万円とし,現実に支出した金額が150万円を超えた場合には,150万円の限度で認められます。
他方,150万円を下回る場合には,現実に支出した金額の限度で認められます。
なお,遺体搬送料等の費用については,葬儀とは直接には関係がない費用のため,葬儀関係費とは別に相当な範囲で認められます。
③死亡慰謝料について
実務上は,被害者がどのような立場だったのかによって,一応類型化されており,以下の基準で考えられています。
・一家の支柱(被害者の世帯が,主として被害者の収入によって成り立っている)の場合には,2800万円
・母親,配偶者の場合には,2400万円
・その他(独身の男女,子供,幼児等)の場合には,2000万円~2200万円
なお,高齢者の場合には,その他の基準で判断される傾向にあります(例えば,上記基準の母親に該当するとしても)。
また,被害者の近親者が固有の慰謝料を請求する場合には,上記金額から減額され,それぞれの近親者等の固有の慰謝料に割り振られたり調整が図られることがあります(後遺障害の場合の近親者慰謝料と異なり,近親者がいたとしても慰謝料の総額が増えるわけではないことに注意が必要です)。
さらに,事故態様が悪質であった場合や加害者の事故後の態度が著しく不誠実な場合等には,死亡慰謝料が増額されることもあります。
したがって,死亡慰謝料の算定においては,まず上記類型化された基準を前提に,個別具体的な事情も考慮する必要があるといえます。
④死亡逸失利益について
死亡逸失利益とは,被害者が生きていれば得られたはずの利益をいいます。
計算式は,
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
となります。
以下,計算式の内容について説明します。
まず,基礎収入について,働いている方の場合には,原則として事故前年の年収が基準となります。
他方,幼児,生徒,学生,専業主婦の場合には,全年齢平均賃金又は学歴別平均賃金が基準となります。
次に,生活費控除率とは,もし生きていれば生活費にお金がかかるところ,亡くなったことにより生活費を支出する必要がなくなったため,その分を控除しようというものです。
この生活費控除率も死亡慰謝料と同様に,被害者の立場によって一応類型化されており,以下のように考えられています。
・一家の支柱で被扶養者が1名の場合は40%,被扶養者が2名以上の場合には,30%
・男性の場合には,50%
・女性の場合には,30%
最後に,就労可能年数に対応するライプニッツ係数について,まず就労可能年数は,原則として死亡時から67歳とされています。
なお,年長の被害者については,年齢や仕事内容等を考慮した上で,事故時の年齢から67歳までの年数と平均余命の2分の1のどちらか長期の方を採用することもあります。
また,被害者が未就労者の場合には,18歳又は大学卒業後の年齢から67歳までの年数が基準となります。
次に,ライプニッツ係数とは,将来の収入を現在の一時金として受け取ることになるため,将来の収入時までの年5%の利息を複利で差し引く係数をいいます。
以上を前提に,例えば,女性の専業主婦の方が,平成23年に35歳で亡くなった場合を例にして計算すると,
基礎収入は,355万9000円(平成23年賃金センサス女子労働者全年齢平均)
生活費控除率は,30%
就労可能年数である32年(67歳-35歳)に対応するライプニッツ係数は,15.8027
となりますので,逸失利益は,
355万9000円×(1-0.3)×15.8027=3936万9266円
となります。
なお,被害者が年金を受給している場合には,上記就労の逸失利益とは別に,年金の逸失利益についても請求することができます。
年金の計算式は,
年金額×(1-生活費控除率)×平均余命年数に対応するライプニッツ係数
となります。
ただし,就労の逸失利益の場合と異なり,生活費控除率は,50%~80%と高めに認定されることが多いです。
これは,年金は元々生活費として費やされることを前提にしており,控除率も高いと考えられているためです。
また,ライプニッツ係数についても,年金の性質から亡くなるまでの支給が前提とされており,死亡時の年齢の平均余命年数が基準となります。
⑤弁護士費用について
死亡事案に限らず,裁判になって弁護士が必要と認められる事案では,認容額の10%程度が弁護士費用として認められることがあります。