遺言執行者は、何をする人か?
相続に関わる役割に「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」があります。
しかし、この遺言執行者について、よくわからないという方は多いかもしれません。
また、遺言書を作成する際に「遺言執行者をつけたほうがいいのか」、「家族を指定しても大丈夫か」、「一度引き受けたら断れないのか」といったことで迷ってしまう方は少なくありません。
そこで本記事は遺言執行者について、次の項目を中心に事例を交えて、Q&A形式で解説していきます。
☑遺言執行者が必要な理由と有用なケース
☑遺言執行者がいない場合のリスク
☑遺言執行者を指定するメリット
☑遺言執行者になれる人・なれない人
☑遺言執行者のなり方、選び方/選ぶ際の注意ポイント
☑遺言執行者を辞退することはできるか?
☑遺言執行者になるメリットとデメリット
☑遺言執行者になった場合の注意ポイント
遺言執行者は、相続財産の管理や遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務があります(民法第1012条1項)。
そして、遺言執行者がある場合には、相続人は相続財産の処分や遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法第1013条)。
この規定に違反して、相続人が相続財産を処分した場合には、その処分行為は無効とされています(大審院昭和5年6月16日判決、民集41巻3号474頁)。
遺言執行者は「何をするのか」、「誰がなれるのか」、「辞退できるのか」などで誤解が多いので、その点も正確に確認していきます。
ぜひ最後まで読んでいただき、損をしない相続のために役立ててください。
目次
遺言執行者とは?
Q)最近、遺言執行者という
存在を初めて知りました。
どういった役割が
あるのでしょうか?
A)
遺言書の内容を実行し、亡くなった人の意思を実現するための手続きを実際に行なう人を「遺言執行者」といいます。
民法では、相続人に代わって遺言内容を実現するため、遺言執行者に対して次のような
強い権限が与えられています。
- 不動産の名義変更(相続登記)手続き
- 預貯金の解約・払戻し
- 相続財産の受遺者への引渡し
- 相続人への通知
- 未成年認知等、相続人の意思では
できない手続き など
遺言というのは、生前に被相続人(財産を遺す人)が、自分の財産を「誰に」、「どれだけ」遺すのかについての最終意思を表示するもので、書面にしたものが遺言書になります。
ただ、遺言書を遺していても遺言者が亡くなった後、自動的に遺言書の内容が実現されるわけではなく、さまざまな手続きが必要です。
また、相続人(財産を受け取る人)たちが、被相続人の遺言のとおりに手続きを行ない、遺産分割などをするとは限りません。
そこで、遺言執行者が被相続人の最終意思を実現するための実務を行なうわけです。
父が「長男に自宅を相続させ、長女に預金600万円を遺贈する」という内容の遺言を遺して
亡くなった。
長男、長女とも遺言内容に不満があり、話し合いをしているが当事者同士だけでは手続きが進まない。
遺言執行者がいれば、金融機関対応や必要書類の取りまとめ、相続人への通知などを一元的に進めやすくなります。
一方、遺言執行者がいないと、相続人の間で「誰が何をするか」などがあいまいになってしまい、遺言書のとおりに遺産を承継する手続きが進まなくなってしまう可能性があります。
この点、遺言執行者は、相続人全員の同意がなくても単独で不動産の名義変更を進められるため、相続人のうちの誰かが反対しても手続きは止まりません。
遺言執行者が必要な理由と
有用なケースとは?
Q)相続手続きでは、
なぜ遺言執行者が
必要なのでしょうか?
また、どういった場合に
役立つのでしょうか?
A)
すべての遺言において必ず遺言執行者が必要なわけではありません。
ただし、「遺言の内容が複雑」、「相続人の間で対立がある」、「不動産や預貯金が複数ある」といったケースでは、指定しておくメリットが大きいといえます。
財産の名義変更、解約、分配の手続きなどは相続人全員で行なう必要があり、相続人の人数が多い、関係性がよくないといった場合では足並みがそろわず、非常に煩雑なものになってしまう可能性があります。
そのため、被相続人が遺言内容を確実に実現したいなら遺言執行者は必須といってもいいでしょう。
遺言執行者が有用となる典型例としては、次のケースがあげられます。
- 相続人たちの関係が悪い。
- 相続人の人数が多い。
- 不動産と金融資産が複数ある。
- 事業承継が絡む
- 認知、廃除など相続人の意思では
できない内容がある。 - 海外在住の相続人がいる。
- 特定の人に遺贈する。
- 再婚家庭などで利害関係が複雑。
- 相続手続きを家族任せにしたため
混乱している。 など
母が「自宅は長男、預金は次男、介護で世話になった孫には300万円を渡す」という遺言を遺した。
遺言執行者がいないために長男が手続きなどを仕切り始めたが、他の受益者への説明が不十分になったり、不公平な分配になったりしたため不満がわき起こり、遺産分割がきれいに進まなくなっている。
遺言執行者がいれば相続人の1人に偏らず、遺言内容どおりに進めやすいということを後から知って、今さらながらに後悔している。
【解説動画】相続の遺産分割を弁護士が簡単に説明します
遺言執行者がいない場合の
リスクは?
Q)遺言執行者がいない場合、
どういったリスクの
可能性が
あるでしょうか?
A)
「相続手続きの停滞」、「紛争化」、「財産の毀損」が主なリスクです。
遺言執行者がいないと、次のような問題が起きる可能性があります。
- 相続人全員の同意が必要になり、手続きが進まない。
- 反対者がいると遺言内容が実現できない。
- 財産の管理があいまいになり、財産が減ったり失われたりといったトラブルが発生。
- 相続人同士の対立が激化。
次に詳しく見ていきましょう。
リスク①遺言の内容が
実現されない
(手続きが止まる)
遺言執行者がいない場合、相続人全員が共同で遺言内容を実行する義務を負います。
しかし、相続人のうち1人でも反対している、署名しないとなると手続きが進みません。
次男は自宅で親と同居していた。
親の遺言書に「自宅は次男に相続させる」と記載されていた。
長男は納得がいかず、「自宅は売却して利益を分けるべきだ」と反対した。
長男が署名しないと、遺言があっても自宅の名義変更ができない状態のため、現状、次男は自宅に住み続けられるが所有権は得られないままという状況です。
その結果、遺言が事実上“無力化”した状況になってしまいます。
リスク②相続人同士の対立が
激化して紛争に発展
遺言執行者がいれば「中立的な第三者」として手続きを進めていくことができます。
しかし、いない場合は相続人同士が直接交渉することになるため、感情的な対立が起きてしまう可能性があります。
結果、遺産分割協議にまで対立が飛び火するリスクがあります。
親の遺言書には「長女に預金の半分を与える」と記載されていた。
しかし「どの預金口座の半分か」、「評価はいつの時点で行なうべきか」などについて兄弟姉妹の意見が割れた。
しかも、誰も調整役を担わないため言い争いが始まってしまい、遺言の実行どころか遺産
リスク③財産が毀損・
散逸してしまう
遺言執行者は「遺産の管理者」でもあります。
そのため、遺言執行者がいないと財産が放置されたりすることで、価値が下がったり、第三者に奪われたりといったリスクがあります。
被相続人である父が賃貸アパートを所有していた。
遺言書には「アパートは息子3人に任せる」とだけ記載されていた。
しかし遺言執行者がいないため、「誰が管理するのか」、「修繕費は誰が払うか」などで相続人である兄弟の間で争いが始まった。
そのうち、アパートの管理が滞ってしまい、家賃滞納が発生。
修繕もできないため、価値が下落している……。
リスク④特定の相続人の
財産の使い込みが発生
遺言執行者がいないと、相続人の1人が勝手に財産を引き出すなどの問題が起きる可能性が高くなってしまいます。
しかも、特定の相続人による使い込みは防ぎにくいという問題もあります。
父の死後、長男が「葬儀費用のため」と言って預金口座から300万円を引き出していた。
遺言には「預金は全額、妻に遺贈」と記載してあったため、妻は銀行に抗議したが、既に引き出された後でどうにもできなかった。
長男への返還請求を検討しているが、精神的、金額的な負担が大きく困惑している。
リスク⑤遺贈が実行されない
遺贈(特定の人への財産贈与)では、遺贈を受ける人(受遺者)は相続人ではないことも多いため、相続人たちが協力しないと遺贈が実行されない可能性があり、遺言執行者がいないことのリスクが顕在化する場合があります。
父の遺言に「お世話になった友人Aに500万円を遺贈する」と記載されていた。
しかし、相続人である子供たちは「そんな人は知らない」、「遺産を渡したくない」と拒否。
友人Aは相続人たちの協力が得られず、遺贈を受け取れないまま時間だけが過ぎ、遺言者の希望は未だ叶えられていない。
遺言執行者を指定する
メリットは?
Q)遺言執行者を指定すると、
どのようなメリットが
あるでしょうか?
A)
遺言執行者を指定する最大のメリットは、「遺言の内容を確実かつ迅速に実現できること」です。
遺言執行者には、民法上「遺言の内容を実現するための強い権限」が与えられており、相続人たちの同意がなくても単独で手続きを進められるため、遺言の実現性が格段に高まります。
また、遺言執行者は銀行・法務局・証券会社などの手続きを一括して進められ、遺言執行者がいれば相続人全員の署名押印なしで登記を完了できるため、時間と労力が大幅に削減できます。
たとえば、相続人が全国や海外に散らばっている場合、書類のやり取りだけで数か月かかることもありますが、遺言執行者がいれば相続人の協力が最小限で済むため迅速に完了できるのです。
相続の現場では遺言があっても、手続きの複雑さや相続人同士の利害の対立などのために、スムーズに進まないことが珍しくありません。
そこで、遺言執行者を指定することには次のようなメリットもあります。
相続人間の対立・トラブルを
防げる
遺言執行者がいないと、相続人同士が「誰が手続きを進めるか」、「遺言をどう解釈するか」などで、もめやすくなってしまいます。
そこに第三者である遺言執行者がいれば、中立的な立場で手続きを進めていくため、争いの芽を摘むことができるのです。
たとえば、遺言執行者がいれば相続人の誰かが主導権を握る構図が消えるため、対立が起きにくくなります。
手続きが圧倒的に
スムーズになる
遺言執行者がいれば、相続人全員の署名押印を集める必要がないので、次のような手続きでは時間と労力が大幅に削減されます。
- 銀行口座の解約
- 不動産の名義変更
- 株式の名義変更
特定の相続人に不利な
内容でも実現できる
遺言には「特定の相続人に財産を渡さない」、「慈善団体に寄付をする」など、相続人にとって不満が出やすい内容が含まれることがあります。
しかし、遺言執行者がいれば不満を持つ相続人が反対したり、妨害しても手続きが止まらないので、被相続人の遺言のとおりに進めることができます。
未成年者・胎児・行方不明者が相続人でも手続きが止まらない
相続人に判断能力がない人や行方不明がいると、通常の相続手続きは非常に複雑で困難になります。
その点、遺言執行者がいれば、特別代理人や不在者財産管理人の選任の手続きなしで進めることができます。
遺言執行者になれる人・
なれない人の違いは?
Q)遺言執行者になれる人と、
なれない人では
何が
違うのでしょうか?
A)
遺言執行者は、家族、親族、友人、弁護士、司法書士、信託銀行など幅広い人を候補にできます。
制度上、必ず専門家でなければならないわけではありません。
そのため、相続人の一人を遺言執行者にすることは可能ですが、他の相続人から「自分に有利に進めている」と疑われ、紛争の火種になりやすいといったリスクがあります。
遺言執行者になれる人
- 個人(家族・親族・友人など)
- 専門家
(弁護士・司法書士・行政書士など) - 法人(弁護士法人・司法書士法人・
信託銀行など)
遺言執行者になれない人
- 未成年者
- 破産者
※民法第1009条の欠格事由による。
避けたほうがいい人
- 相続人同士の対立の中心にいる人
- 高齢で継続的な手続き対応が難しい人
- 書類管理や金融機関対応などが苦手な人
遺言執行者のなり方・
選び方について
Q)遺言執行者には、
どのようにして
なるのでしょうか?
また、選び方のポイントは
あるでしょうか?
A)
遺言執行者のなり方には大きく、次の2つの方法があります。
遺言執行者の選任方法
<遺言書で指定する>
もっとも一般的なのは、遺言書の中で「遺言執行者として○○を指定する」と定める方法です。
<家庭裁判所が選任する>
①遺言で指定がないとき、または②執行者が死亡・辞任等でいなくなったときは、利害関係人が家庭裁判所に申立てて選任してもらいます。
受遺者など
申立先:遺言者の最後の住所地の
家庭裁判所
費用:遺言書1通につき収入印紙800円 +
郵便切手
その他:候補者の住民票等の提出を
求められる
遺言執行者の選び方のポイント
遺言執行者を選ぶ時は、次のポイントを重視します。
- 相続人との関係が良好か。
- 連絡が取りやすいか。
- 事務処理能力があるか。
- 不動産、預貯金、株式などへの対応力があるか。
- 長期間の業務ができるか。
- 相続人全体から納得感を得やすいか。 など
たとえば、相続人同士が円満、 財産の構成が比較的シンプル、 事務能力のある人がいるといった場合は家族、親族を遺言執行者にしてもいいでしょう。
一方、次のような事情があるなら弁護士などの専門家を遺言執行者に選任するのがいいと思います。
- 相続人同士で対立している。
- 遺贈先が家族以外の場合。
- 不動産や金融資産が多い。
- 会社の株式がある。
- 手続が長期化しそうな様子。
- 中立性を重視したい場合。 など
高齢の親族を遺言執行者に指定したが、遺産分割協議のさなかに本人が亡くなってしまった。
相続人たちは、家庭裁判所で遺言執行者を選任し直すことになってしまった。
遺言執行者になりたくないなら
辞退できるか?
Q)遺言書に「遺言執行者に
なってほしい」と
書かれていたが、
断ることはできますか?
A)
遺言で指定されていても、その時点で自動的に就任しなければいけないわけではありません。
就任前なら原則、辞退できますが、就任後の場合は家庭裁判所の許可が必要になります。
遺言執行者の就任前
遺言執行者は、就任を承諾した時に任務が始まります。
そのため、承諾前であれば辞退でき、家庭裁判所への手続きも不要です。
ただし、相続人やその他の利害関係人は、相当期間を定めて承諾するかどうかの回答を求めることもできるため、その期間内に明確な返答をしないと承諾したものとみなされることに注意が必要です。
遺言執行者の就任後
一度、遺言執行者に就任したあとでは自由に辞めることはできません。
辞任するには、正当な事由と家庭裁判所の許可が必要です。
辞任の主な理由としては、次のことがあげられます。
- 相続人間の対立が激しい。
- 手続きが多く負担が大きい。
- 責任が重い。
- 報酬が見合わない。 など
叔父が、遺言執行者に古くからの友人を指定していた。
しかし、その友人は高齢を理由に就任前に辞退したため、別の友人に依頼した。
ところが、その友人は就任後に体調を崩してしまったため、家庭裁判所の許可を得て辞任した。
叔父は、依頼する人物の状態、状況はしっかり把握し、検討しなければいけないと言っていた。
遺言執行者になるメリットと
デメリットとは?
Q)遺言執行者になった場合の
メリットとデメリットについて
知りたいです。
A)
遺言執行者に就任した場合のメリットとデメリットについては、次のことがあげられます。
メリット
- 故人の意思を実現しやすい。
- 手続の窓口を一本化でき、相続手続きの
主導権を持てる。 - 報酬を受け取れる。 など
デメリット
- 手続きが多く、時間がかかる。
- 相続人からの問い合わせや不満の矢面に
立たなければいけない。 - 財産管理の責任が重い。
- ミス(過失)があると損害賠償責任を
負う可能性がある。 など
遺言執行者を選ぶ際の
注意ポイントは?
Q)遺言執行者を選ぶ際、
どういったことに
注意するべき
でしょうか?
A)
次の点に注意して遺言執行者を選任してください。
専門家と親族のどちらを
選ぶかを慎重に判断する
家族として信頼できても、事務処理が苦手だったり、他の相続人との関係が悪かったりすると実務が止まることがあります。
信頼性と実務能力は別ものと考えるべきです。
利害対立が強い人は
慎重に検討する
特定の相続人が大きく利益を受ける遺言の場合、その人を執行者にするのは説明責任の面で争いを招きやすいといえます。
他の相続人の理解を得ることが必要です。
高齢者は指定しない
高齢者の場合、辞退や辞任の可能性が高くなり、指定した人が就任できない場合は改めて家庭裁判所への選任申立てが必要になります。
高齢者を指定するなら代替案も考えておくべきです。
報酬の有無をあいまいにしない
無報酬なのか有報酬なのか、金額はいくらにするか、遺言書や事前確認である程度明確にしておくとトラブルを防ぎやすいです。
なお、報酬を定めていない場合は家庭裁判所が定める場合があります。
複雑な相続では初めから
専門家も検討する
相続人間の対立、事業承継、不動産が多数の場合、再婚家庭など複雑な事情があるケースでは、家族より専門家を選任したほうがリスクを回避して、スムーズな相続を実現することができます。
遺言執行者になった場合の
注意ポイントは?
Q)遺言執行者に
指定されました。
引き受ける場合に
注意するべきことを
教えてください。
A)
遺言執行者に就任するなら、次の点に注意するといいでしょう。
- 財産目録を作成して相続人に通知する。
- 財産管理は厳密に行なう(領収書や
記録を残す)。 - 相続人への説明責任を果たす。
- 中立性を保つ。
- 手続きは迅速に進め期限を守る。
以上、遺言執行者について網羅的に解説しました。
相続は複雑で、トラブルに発展してしまうことも多いものです。
そうした場合は1人で抱え込まず、まずは弁護士にご相談ください。
あなたが思いもよらなかった解決法が見つかるはずです。
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