遺産分割調停とは|手続きと流れを弁護士が解説
遺産相続は難しくて厄介!?
被相続人(親など)が亡くなり、遺産の相続が発生すると、相続人(子供など)は相続に関するあれこれを行なわなければなりません。
たとえば、次のようなことです。
- 遺言書の有無の確認
- 法定相続人の確定
- 相続をするか放棄するかの決定
- 遺産の種類や金額の調査
- 遺産の分割方法や割合の決定 など
これらの中で、兄弟姉妹などの親族間でもめることが多いのは「遺産分割」に関わることでしょう。
遺産分割調停のメリットとは?
通常、遺言書がなければ、法定相続人全員で遺産分割についての話し合い = 「遺産分割協議」を行ない、合意できたら「遺産分割協議書」に各自が署名・捺印し、保管します。
しかし、ここで話し合いがまとまらない場合、つまり遺産の相続割合や分割方法などで合意に至らない場合は「遺産分割調停」に進み、合意・解決を目指すという方法があります。
遺産分割調停は家庭裁判所に申立てを行ない、相続人全員が参加することが条件になるのですが、メリットとしては次のことがあげられます。
- 相続人同士が顔を合わせなくてもいい
- 直接の話し合いをしなくて済む
- 第三者が入ることで冷静に対応できる など
そこで、本記事では遺産分割にフォーカスしながら、「遺産の分割方法」、「遺産分割協議のポイント」、「遺産分割調停の手続き・進め方・注意点」などについて解説していきます。
遺産分割調停の手続を弁護士がざっくり解説します。
遺産相続の手続き/
流れとキーワード解説
「遺産分割調停」の説明の前に、まずは遺産相続の手続きと流れ、重要なキーワードについて解説します。
フローチャートで確認!
遺産相続の手続き
相続開始(被相続人の死亡)
⬇︎
相続人の調査/確定
⬇︎
遺言書の有無を確認
※ある場合 → 家庭裁判所の検認 → 遺言の執行
※ない場合 → 相続放棄・限定承認・
単純承認の決定(3か月以内)
⬇︎
準確定申告
※4か月以内
⬇︎
遺産の範囲の確定
⬇︎
遺産の内容・金額の調査・
評価・鑑定
- 各銀行での全店照会、残高証明書発行
- 証券保管振替機構への開示請求
- 市区町村役場での名寄帳・課税台帳の閲覧(不動産の調査)
- 個人信用情報機関への開示請求
(負債の調査) など
⬇︎
遺産分割協議
※合意に至らない場合は遺産分割調停・審判に進む
⬇︎
相続税の申告・納税
※相続税の申告書の作成 → 納税資金準備 → 延納・物納の検討
※10か月以内
【参考資料】:遺言書の検認(裁判所)
【参考資料】:相続税のあらまし(国税庁)
遺産相続に関する
キーワード解説
遺言書
大きく分けて、遺言には「普通方式」と「特別方式」の2種類があり、さらに普通方式には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類がある。
自筆証書遺言は、遺言者が自筆で書く遺言書。公正証書遺言は、公証人が関与して作成し、原本が公証役場に保管される遺言書。秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも知られたくないときに利用する遺言書。
遺言書がある場合は、家庭裁判所の検認の後、遺言の執行に進む。
遺言書がない場合、相続人は「相続放棄」、「限定承認」、「単純承認」のいずれかを決定する。
法定相続人
民法で規定された、遺産を相続する人を「法定相続人」という。
法定相続人には、第1から第3順位までの相続順位と法定相続分(割合)が決められている。
配偶者がいれば、つねに相続人になる。
【参考資料】:No.4132 相続人の範囲と法定相続分(国税庁)
被相続人
法律・税務上の用語で、財産を残して亡くなった人のこと。一般的にいう故人を指す。
たとえば、財産を残して亡くなった方(父であり夫)は被相続人、その財産を引き継ぐ権利のある配偶者(妻)と子などが法定相続人、という関係になる。
相続放棄
相続人が、被相続人の財産を相続するという権利を放棄すること。
相続では、プラスの財産だけではなくマイナスの負債も対象になることに注意が必要。
相続放棄は、相続開始後に家庭裁判所に申立てをする(民法第938条)必要がある。
相続放棄の申立て期間は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内(延長も可能)。
【参考資料】:相続の放棄の申述(最高裁判所)
限定承認・単純承認
限定承認は、相続人がプラスの財産の範囲内でマイナスの財産(負債)を引き継ぎ、支払うこと。
単純承認は、相続財産のすべて(プラスもマイナスも)を無条件で相続すること。
準確定申告
納税者が亡くなった場合の確定申告のこと。4か月以内に行う必要がある。
【参考資料】:No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)(国税庁)
遺産分割
相続財産の分割については、主に次の4種類がある。
①現物分割
たとえば、一筆の土地(現物)を、相続人である2人が二筆に分割して、それぞれ相続する場合などが該当する。
②換価分割
相続財産を金銭に換価して分割する方法。
たとえば、一筆の土地がある場合、これを第三者に売却し、売却代金を相続人で分割するような場合が該当する。
③代償分割
相続財産を特定の相続人が取得し、その代わりに他の相続人には金銭を支払う方法。
④共有分割
遺産の一部または全部を物権法上の共有取得とする方法。
遺産分割協議
相続人全員で、「誰が」「どの遺産を」「どれだけ取得するか」について話し合う(協議する)こと。
遺産分割協議では、次のような手続きが必要。
- 相続人全員の確定
(戸籍の調査・収集) - 遺産の調査と目録作成
(現金・不動産・預貯金・有価証券・投資信託・
貸借権など) - 遺産分割協議書の作成
(協議内容の記録)
遺産分割協議には強制力がないので、話し合いで解決していくことになる。相続人のすべてが内容に同意している必要があり、1人でも納得しない相続人がいれば遺産分割は成立しない。
特に、不動産などの分割しにくい資産はもめやすいといえる。
合意が得られたら、その内容・事項を記載した「遺産分割協議書」を作成するが、これにより最終的な合意事項に効力をもたせることができるため、被相続人(亡くなった方)の預貯金の引き出しや、不動産の名義変更などが可能になる。
【参考資料】:登記申請手続きのご案内(相続登記①/遺産分割協議編)(法務局)
遺産分割調停とは?
遺産分割協議が
破談になったら……
相続が発生した際、遺言書があれば、その内容にしたがって遺産分割が行なわれます。
一方、遺言書がない場合は、兄弟姉妹などの相続人の間で、「誰が」、「何を」、「どのように相続するのか」を決めなくてはいけません。
この話し合い = 遺産分割協議は、相続人全員で行う必要があるため、すんなりとは進まず、なかなか合意に至らないケースもあります。
最終的に合意できない場合、遺産分割案に不服のある相続人は「遺産分割調停」を利用することができます。
遺産分割調停の概要
家庭裁判所で遺産分割の調停手続を利用する場合は、遺産分割調停事件として申し立てる必要があります。
調停は、相続人のうちの1人もしくは何人かが、他の相続人全員を相手方として申し立てるものです。
裁判官と、民間から選ばれた調停委員(2名以上)の立ち合いのもとで合意を目指した話し合いを行なっていきます。
話し合いでは主に2人の調停人が調停室で、当事者双方から交互にそれぞれ事情を聞きながら調整を行ないます。
そのため、当事者全員が顔を合わせて話し合いをすることはありません。
また、必要に応じた資料等の提出、遺産についての鑑定などが行なわれ、各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているのかを踏まえたうえで、解決案の提示や必要な助言がなされ、合意を目指していきます。
話し合いがまとまらず、調停が不成立になった場合は自動的に審判手続が開始されます。
調停の申立て先
相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てをします。
【参考資料】:申立書提出先一覧(家庭裁判所)
必要な費用
- 収入印紙1,200円分(被相続人1人につき)
- 連絡用の郵便切手
必要な書類
- 申立書1通および、その写しを相手方の
人数分 - 申立添付書類/事情説明書(遺産分割)、進行に関する照会回答書(遺産分割)
- 被相続人の出生時から死亡時までの
すべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 - 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の住民票または戸籍附票
- 遺産に関する証明書
(不動産登記事項証明書および
固定資産評価証明書、預貯金通帳の写し、
または残高証明書、有価証券写し等) など
※被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している人がいる場合は、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本が必要。
※戸籍等の謄本は、全部事項証明書と呼ばれる場合がある。
申立書の記載項目例
申立書には次のような記載が必要になります。
- 申立人の記名押印
- 添付資料のチェック欄
- 被相続人の住所、氏名
- 申立ての趣旨
- 申立ての理由
- 相手方申立人
- 遺産目録
- 特別受益目録
- 分割遺産目録 など
【参考資料】:遺産分割調停(最高裁判所)
【参考資料】:遺産分割調停の申立書の書式及び記載例(最高裁判所)
遺産分割調停の流れや
注意点を解説
遺産分割調停の流れを把握
遺産分割調停は裁判ではありません。
第三者(裁判官+調停委員)を交えて話し合いで和解を成立させるための制度です。
遺産分割調停は、基本的には次のような流れに沿って、手続きを行なっていきます。
<遺産分割調停の流れ>
家庭裁判所に申立て
⬇︎
必要書類の提出
(申立書、相続関係図、
遺産目録など)
⬇︎
調停期日の通知が届く
⬇︎
調停室で個別に事情の聴き取り
(通常、相続人同士は
直接対面しない)
⬇︎
数回の期日を経て合意形成を
目指す
※具体的な相続分や分割方法の合意など
⬇︎
調停成立
※調停調書を作成
※不成立の場合は審判へ進む
【参考資料】:遺産分割調停の手続について(大阪家庭裁判所)
遺産分割調停でかかる期間は?
調停成立までの期間は、半年以内のケースがある一方、1年ほどかかることも珍しくなく、3年以上もかかるケースもあります。
ケースバイケースではありますが、平均で見れば1年ほどが目安となるでしょう。
調停の流れと内容について
通常、申立てが受理されると、調停は次のような流れで進んでいきます。
第1回期日
家庭裁判所から期日調整の連絡が入り、調整後、第1回の調停期日(調停が行われる日時)の連絡が相続人に、郵送で届きます。
この期間は通常、申立ての1~2か月後というスケジュールになります。
家庭裁判所ごとに調停が行われる曜日が決まっているので、曜日の選択はできません。
通常、月曜から金曜(祝日・年末年始を除く)の10時〜17時の間で行なわれますが、日中の10時~12時、13時~16時が多いため、仕事などの時間調整が必要な場合も多いでしょう。
当日は、相続人が家庭裁判所に出向くことになります。
一般的には、申立人と相手方がそれぞれ交互に調停室に入り、30分ほど調停委員と話をすることを2回行ないます。
所要時間は、通常2時間ほどです。
仕事の都合や心身の状況、距離的な問題などによって参加が難しい場合は、弁護士に代理人として出頭してもらうことができます。
なお、現在では自宅から電話会議システムを利用して調停に参加することもできます。
ただし、希望したからといって必ず利用できるとは限りません。
「電話会議システム利用希望申出書」を提出し、調停委員が内容を判断したうえで、利用の可否が決定されます。
当日までに必要な書類として「事情説明書」や「進行に関する照会回答書」などがあります。
申立人である相続人は、申立て時に作成しているのでいいのですが、相手方となる相続人は、申立てされた後に作成することになるので注意が必要です。
その日の調停が終了すると、調停委員が「合意できた内容」や「次回の期日以降に解決する課題」についての説明があります。
第2回期日以降
通常、1~2か月に1度のペースで調停は行なわれ、大体、6~10回が平均的な調停回数になっているようです。
なお、自分の主張は、口頭で述べるだけでなく、書面にして調停委員に提出することも可能です。
書面にした内容は相手方から否定されない限り有効なものとなります。
そのため、必要に応じて書類を作成しておくと、その事実を後から覆されることがなくなる、という利点もあります。
遺産分割調停には
相続人の全員参加が原則
相続人に行方不明者がいる場合は、「不在者財産管理人」の選任が必要です。
また、相続人に未成年者や認知症の方がいる場合は、「特別代理人」や「後見人」の選任が必要になります。
・家族が認知症になった場合の財産管理方法【成年後見】
なお、相続人が全員そろわなくても調停は実施されます。
しかし、連続して何度も欠席している相続人がいる場合、調停成立の見込みがないことを理由に、調停不成立の判断がされる可能性があるので注意が必要です。
相続税の申告には要注意
遺産分割の問題に意識が行き過ぎてしまい、相続税の申告を忘れてしまう方もいます。
期限を過ぎると「無申告加算税」も納めなければいけなくなるので、注意してください。
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知ってから「10か月以内」です。
遺産分割が完了していない場合は、そのまま「法定相続分で遺産分割した」として、未分割のまま、まずは相続税の申告を行うのがいいでしょう。
その後、遺産分割が正式に決定したら「修正申告」「更正の請求」をします。
各種特例を利用した税額の軽減が可能な場合もあるため、税理士に相談してみることをおすすめします。
遺産分割調停が成立した場合にできること
調停が成立した場合は、その内容を記した「調停調書」が作成されます。
内容は、「遺産の内容と取得者」、「被相続人関連で支出した費用(葬儀、債務の支払いなど)の負担者の確認」、「今後はお互いに何らの債権債務関係もないこと」、「調停費用の負担割合」などになります。
これらをもとに、相続手続きを行なっていくことになります。
なお、調停調書の記載内容は、確定した審判と同じ効力を持つことになるため、次のようなことが可能になります。
強制執行
たとえば給付条項(遺産を取得する代償金として誰が誰にいくら支払うのかといった内容など)に従わない相続人がいる場合は、給付を請求する権利がある人は相手方に対して強制執行をかけて、財産の差し押さえをすることができます。
相続登記
遺産分割調停調書を保有していれば、遺産分割協議書(他の相続人の同意を示すもの)がなくても、単独で不動産の相続登記を行うことができます。
預貯金の解約
遺産分割協議が成立した場合は、遺産分割協議書を提示して預貯金の解約手続きを行ないますが、調停が成立した場合は調停調書を利用して預貯金の解約を行うことができます。
遺産分割調停が
成立しない場合の対応
調停を繰り返しても合意に至らない場合は「遺産分割審判」に移行します。
審判は話し合いではなく、裁判官が遺産分割方法を決定し、相続人はそれに従って遺産分割を進めていくことになります。
遺産分割調停を弁護士に
相談・依頼するべき理由
ここまで、相続における遺産分割協議と遺産分割調停についてお話してきましたが、どのようにお感じになったでしょうか。
兄弟姉妹などの親族間で遺産の分割方法や割合を決めることは、じつは思った以上に難しいものです。
また、相続は法律問題のため、正しい知識や経験がないと対応するのが難しい場面が多くあるのも現実ですから、まずは弁護士に相談・依頼されることをおすすめします。
メリット>
- 相続人の調査を依頼できる
- 遺産の法的な範囲・内容の判断を
依頼できる - 遺産分割の方法について相談できる
- 遺産分割協議を適切に
まとめてもらえる - 遺産分割調停・審判で代理人を依頼
すれば有利な条件で解決してもらえる - 特別受益や寄与分など専門知識が
必要な主張や、過去の裁判例を
参照した反論も行なってもらえる。
遺産相続の問題は一人で悩まず、われわれ弁護士にお任せください。
まずは無料相談の利用をおすすめしています(※随時受け付けていますが、事案によるので、お問い合わせください)。



























