• お問い合わせはこちらから
メニュー

遺産分割はどのようにするか

最終更新日 2021年 06月09日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

【動画解説】遺産分割を簡単に解説します。

遺産分割の種類

相続は被相続人の死亡によって開始し、相続人が複数あるときは、遺言書がなければ相続財産は共有となります。

その場合、遺産分割によって最終的な所有の帰属が確定することになります。

遺産分割請求権には消滅時効がないので、いつまででも遺産分割を求めることができます。

ただし、被相続人は、遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産分割を禁止することができます(民法第908条)。

また、共同相続人の合意によっても、5年以内の期間を定めて分割を禁止することができます(民法第256条)。

さらに、家庭裁判所は、特別の事情のあるときに限り、5年を超えない範囲で如何を定めて分割を禁止することができます(民法第907条3項、家事審判法第191条)。

遺産分割は、遺言により遺産分割方法が指定されていればそれに従い、遺言がない場合には、①協議分割、②調停分割、③審判分割のいずれかの方法で行います。

遺言があったとしても、共同相続人全員が遺言と異なる方法で分割を望む場合には、全員の合意により分割することもできます。

また、具体的に相続財産をどのように分割するかについては、次の4種類の分割方法があります。

●現物分割

現物分割は、相続財産の現物を分割する方法です。

たとえば、一筆の土地があり、相続人が2人いるときに、その土地を二筆に分筆して分割するような方法です。

●換価分割

換価分割は、相続財産を金銭に換価して分割する方法です。

たとえば、一筆の土地があり、相続人が2人いるときに、その土地を第三者に売却して、その売却代金を2人で分割するような方法です。

遺産が未分割のまま換価された場合には、換価代金は遺産から離脱しますので、相続人は、各自の相続分に応じて資産を売却したものとして、譲渡所得の計算を行うことになります。

●代償分割

代償分割は、相続財産を特定の相続人が取得する代わりに他の相続人に金銭を支払う方法です。

たとえば、一筆の土地があり、相続人が2人いるときに、その土地を1人の相続人が取得し、その代わりに他方の相続人に金銭を支払うような方法です。

代償分割がされた場合の課税価格の計算では、代償財産を交付した者と交付された者の区分に応じ、次のとおり計算されることになります(相続税基本通達11-2-9)。

(ア) 代償財産の交付を受けた者は、相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額と交付を受けた代償財産の価額との合計額

(イ) 代償財産の交付をした者は、相続又は遺贈により取得した現物の財産の価額から交付をした代償財産の価額を控除した金額

●共有分割

共有分割とは、遺産の一部または全部を物権法上の共有取得とする方法です。

共有分割にした場合は、共有関係を解消するために、持分の贈与、売買または共有物分割訴訟などを行うこととなります。

協議分割

協議分割は、共同相続人全員の合意により遺産分割をする方法です。

共同相続人全員で合意した場合には、その内容を遺産分割協議書に記載し、共同相続人全員が署名押印するのが通常です。

協議分割では、特定の共同相続人の具体的相続分をゼロにすることも可能です。

相続放棄ができない場合で相続を望まない共同相続人がいる場合には、当該共同相続人の具体的相続分をゼロにして遺産分割協議をします。

この場合、遺産分割協議書を作成せずに、自らの具体的相続分がゼロであることを証する書面として、「相続分皆無証明書」や「相続分不存在証明書」あるいは、自らは特別受益を得ているので具体的相続分はゼロであるという趣旨の「特別受益証明書」などを作成することもあります。

協議分割は、共同相続人全員の合意に基づいて行いますので、錯誤や詐欺などの意思表示の無効や取消事由が適用され、遺産分割協議が無効または取り消されることがあります。

ただし、過去の判例では、相続財産の評価額を誤信して遺産分割した場合に錯誤による無効を主張できない、とした東京高裁昭和59年9月19日判決(判例時報1131号85頁)があります。

遺産分割協議が成立した後に、共同相続人の1人が遺産分割協議において負担した債務について不履行があったとき、他の共同相続人は、債務不履行を理由として遺産分割協議を解除できるか、という問題があります。

この問題について、最高裁平成元年2月9日(民法百選Ⅲ69)は、解除することはできない、としています。

その理由としては、「遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人間の債権債務関係が残るだけと解すべきであり、しかも、そのように解さなければ民法909条により遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるからである」と判示しました。

次に、遺産分割協議が詐害行為取消権の対象になるか、という問題があります。

詐害行為取消権とは、債務者が債権の全額を払えなくなることを知りつつ、贈与などの財産減少行為をした場合に、その行為の効力を否認して、責任財産の維持を図ることを目的とする制度です。

民法第424条1項は、詐害行為取消権について、「債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。

ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない」と規定しています。

判例は、相続放棄については、「身分行為」であるとして、詐害行為取消権の対象とはならないとしています(最高裁昭和49年9月20日判決、民集28巻6号1202頁)。

しかし、遺産分割協議について、最高裁平成11年6月11日(民法百選Ⅲ68)は、詐害行為取消権の対象となるとしています。

その理由については、「遺産分割協議は、相続の開始によって共同相続人の共有となった相続財産について、その全部又は一部を、各相続人の単独所有とし、又は新たな共有関係に移行させることによって、相続財産の帰属を確定させるものであり、その性質上、財産権を目的とする法律行為であるということができるからである」と判示しています。

したがって、ある1人の共同相続人に多額の債務がある場合に、債権者からの差押を回避するため、その共同相続人の取得分をゼロにするような遺産分割協議をするよう助言すると、当該遺産分割協議が詐害行為として取り消される可能性があるので、注意が必要です。

遺産分割により不動産の持分を取得したときに、その持分の登記をしないうちに、当該持分を差押、または譲り受けた第三者が現れた場合、当該持分を遺産分割により取得した共同相続人は、登記なくして所有権を第三者に取得できるか、という問題があります。

この問題については、最高裁は、民法909条但書「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。

ただし、第三者の権利を害することはできない。」の問題ではなく、民法177条の適用があるとしています。

その結果、遺産分割により「相続分と異なる権利を取得した相続人は、その旨の登記を経なければ、分割後に当該不動産につき権利を取得した第三者に対し、自己の権利の取得を対抗することはできない」(最高裁昭和46年1月26日判決、民法百選Ⅲ71)ことになります。

遺言がある場合に、その遺言の内容と異なる遺産分割ができるか、という問題がありますが、一般的に有効と解されています。

いったん有効に遺産分割が成立した場合には、相続開始のときにさかのぼってその効力を生じます(民法第909条)。

しかし、この場合において、相続人全員が合意して、再度遺産分割をやり直す場合があります。

この点に関し、最高裁平成2年9月27日判決(判例時報1380号89頁)は、「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部または一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然に妨げられるものではなく」「共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解される」と判示しています。

しかし、税務上は注意しなければなりません。

相続税基本通達19の2-8は、「分割」の意義について、次のように定めています。

法第19条の2第2項に規定する「分割」とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により取得した財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい、その分割の方法が現物分割、代償分割若しくは換価分割であるか、またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割であるかを問わないのであるから留意する。

ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。

この通達により、税務行政においては、いったん遺産分割が成立した後の再分割は、遺産分割とはみなされず、新たな資産の譲渡と認定させることに注意が必要です。

調停分割

【動画解説】遺産分割調停の手続を弁護士がざっくり解説します。

共同相続人の協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、共同相続人は、家庭裁判所に対して遺産の分割を請求することができます(民法第907条2項)。

遺産分割については、調停前置主義(審判をするには調停を経なければならない制度)ではありませんが、審判を申し立てたとしても、調停手続になじまないことが明らかな場合を除き、職権により調停に付するのが通常です(家事審判法第274条1項)。

したがって、実務では、遺産分割審判の前に、調停を申し立てることが多いです。

年間の調停受理件数は、司法統計を見ると出ています。

グラフにしてみました。

【出典】裁判所ホームページ司法統計
http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search

これを見ると、若干の増加傾向にあることがわかります。

遺産分割調停は、相手方の住所地または合意で定める家庭裁判所に対して申し立てます。

遺産分割調停の申立があると、次の順序で手続が進行します。

●相続人の確定

相続人の確定で養子縁組や婚姻の無効など争いがある場合には、その点について人事訴訟で解決することが先決となります。

●遺産の範囲の確定

遺産の範囲に争いがある場合には、遺産確認の訴えなど、民事訴訟で確定させることが先決となります。

●遺産の評価

●具体的相続分の合意

●分割方法の合意

●調停成立

遺産分割調停は、当事者全員に合意が成立し、調停機関がその合意が相当であると認めて調停調書を作成すると、調停は成立します(家事審判法第268条)。

当事者間に合意が成立する見込がない場合または成立した合意が相当でないと認められる場合は、調停機関は調停を成立しないものとして事件を終了させることができます(家事審判法第272条1項)。

実務家の間では、「不調」(ふちょう)と呼んでいます。

この場合、調停申し立てのときに、家事審判の申立があったものとみなされて(家事審判法第272条4項)、審判手続に移行することになります。

審判分割

共同相続人の協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、共同相続人は、家庭裁判所に対して遺産の分割を請求することができます(民法第907条2項)。

遺産の分割請求権は、消滅時効にかかることはありません。

家庭裁判所は、遺産に属する物または権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮して審判を行うことになります(民法第906条)。

遺産分割審判の際に、当事者間で取得希望が競合した場合は、次の要素を検討して帰属を判断しているようです(「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務」第3版、片岡武・管野眞一編著、日本加除出版株式会社)。

①相続人の年齢、職業、経済状況、被相続人との間の続柄等
②相続開始前からの遺産の占有・利用状況(誰がどのように遺産を利用していたか)
③相続人の財産管理能力(誰がどのように遺産を管理していたか、管理が適切であったか)
④遺産取得の必要性(なぜ遺産を取得したいのか)
⑤遺産そのものの再有効利用の可能性(遺産をどのように利用・再利用するのか)
⑥遺言では現れていない被相続人の意向
⑦取得希望者の譲歩の有無(遺産を取得する見返りとして他の部分で譲歩できるか)
⑧取得希望の程度(入札により高い値を付けた方が取得するという意向があるか)
⑨取得希望の一貫性(調停の経過から取得希望の一貫性があるか)

裁判所が審判で分割を命じる際に、どのような分割方法を採用するかについて、最高裁昭和30年5月31日判決(民集9巻6号793頁)は、「遺産の分割は現物分割を原則とし、分割によって著しくその価値を損する虞があるときは、その競売を命じて価格分割を行うことになる」と判示しています。

代償分割については、特別の事由があると認められるときに、共同相続人の1人または数人に他の共同相続人に対し債務を負担させて現物分割に代えることができるとされています(家事審判法第195条)。

この「特別の事由」について、大阪高裁昭和54年3月8日決定(家裁月報31巻10号71頁)は、「特別の事由とは、相続財産が農業資産その他の不動産であって細分化を不適当とするものであり、共同相続人間に代償金支払の方法によることにつき争いがなく、かつ、当該相続財産の評価額が概ね共同相続人間で一致していること、及び相続財産を承継する相続人に債務の支払能力がある場合に限ると解すべきである」と判示しています。

遺産分割審判後に遺産に属する物や権利が出現した場合には、分割が無効になるわけではなく、その分について改めて遺産分割を行うことになります。

各分割方法の選択の順序について判示したものに、大阪高裁平成14年6月5日決定(家月54巻11号60頁)があります。

この決定では、「遺産分割は、共有物分割と同様、相続によって生じた財産の共有・準共有状態を解消し、相続人の共有持分や準共有持分を、単独での財産権行使が可能な権利(所有権や金銭等)に還元することを目的とする手続であるから、遺産分割の方法の選択に関する基本原則は、当事者の意向を踏まえた上での現物分割であり、それが困難な場合には、現物分割に代わる手段として、当事者が代償金の負担を了解している限りにおいて代償分割が相当であり、代償分割すら困難な場合には換価分割がされるべきである」「共有とする分割方法は、やむを得ない次善の策として許される場合もないわけではないが、この方法は、そもそも遺産分割の目的と相反し、ただ紛争を先送りするだけで、何ら遺産に関する紛争の解決とならないことが予想されるから、現物分割や代償分割はもとより、換価分割さえも困難な状況があるときに選択されるべき分割方法である」としています。

審判分割で遺産として分割した相続財産が後日の訴訟で遺産でないことが確定した場合にも、審判は当然には無効となるものではありません。

遺産分割審判を申し立てる場合は、相続開始地の家庭裁判所に申し立てることになります。

管轄地ではない家庭裁判所での遺産分割調停が不調になり、審判に移行する場合には、そのままの管轄で処理するか、改めて相続開始地へ移送するか家庭裁判所が判断することになります。

共同相続人の一部が行方不明の場合の処理

共同相続人の一部が行方不明の場合には、利害関係人の請求によって、家庭裁判所が不在者財産管理人を選任します(民法第25条)。

そして、不在者財産管理人を参加させて遺産分割を行うことになります。

不在者財産管理人が遺産分割協議をするには、家庭裁判所の許可を得ることになります(民法第28条)。

不在者財産管理人が遺産分割をした後に、相続人である行方不明者が相続開始前に死亡していたことが判明した場合に、遺産分割協議や審判が無効になるかどうかについては、有効説と無効説があります。

これに対し、不在者財産管理人が遺産分割をした後に、相続人である行方不明者が相続開始後に死亡していたことが判明した場合には、遺産分割協議や審判は有効とされています。

弁護士が経営者を全力でサポート!!
ご相談フォーム

出版物のご紹介