交通事故の死亡事故・後遺障害被害者の質問に回答
交通事故弁護士相談Q&A|みらい総合法律事務所

加害者に処罰(厳罰)を望む場合の被害者の対応

2022年12月07日

Q)交通事故で警察からの事情聴取の際、「加害者に寛大な処罰を望む」と言った場合、今後の示談交渉で不利になることはあるのでしょうか?
また、加害者に処罰(厳罰)を望む場合はどのように対応したら、よいのでしょうか?

片側2車線の幹線道路で、娘が自転車で青信号の交差点を横断中、赤信号無視の乗用車にノーブレーキで衝突されました。

右上腕部骨折と骨盤骨折、胸椎骨折の重傷で、医師の診断は「3か月の加療が必要」とのことです。

近々、警察から事情聴取があるようですが、その時に加害者の処罰に対する意見を聞かれるということを知りました。

仮に、「加害者に寛大な処罰を望む」と言った場合、今後の示談交渉に不利になるようなことがあるでしょうか?

反対に、加害者に処罰(厳罰)を望む場合はどのように対応したら、よいのでしょうか?

事故当時の現場検証では目撃者がいて、加害者は信号の見落としを認めています。

事故後、毎日病院に謝罪に来てくれ、「どんな処罰も受ける」と猛省しています。

私は、加害者は社会的にしっかりした人だと感じています。

警察の話では、娘の事故は「重傷事故であり、量刑はかなり重い」と言っていることから、加害者を少し気の毒にも思っています。

ただ、もし今後の示談交渉に影響があるようなら、こちらが不利な状況にはなりたくありません。

警察には「厳罰を求める」と言ったほうがいいのでしょうか?

弁護士からの回答

A)交通事故における加害者の処罰は、被害者から見ると、かなり軽いと感じることが多いです。したがって、「加害者に寛大な処罰を望む」と供述すると、さらに軽くなってしまいます。後で後悔しないよう、よく考えて対応することをおすすめします。

警察が作成する「実況見分調書」や「供述調書」は刑事事件だけでなく、民事での示談交渉でも重要な証拠になります。

しかし、加害者が不起訴となった場合には通常、実況見分調書しか謄写できず、供述調書は謄写できないため、その後の示談交渉に影響が出る可能性があります。

つまり、加害者に「寛大な処罰」を望んだことで、被害者の方が示談交渉で不利になる場合もあるので、一時の感情に左右されないように、慎重に判断するべきだと考えます。

動画でも解説しています

 

 

交通事故が発生した場合、民事上は加害者(または加害者の加入する任意保険会社)との間で損害賠償に関する示談(または訴訟)を行なうことになります。
その際、被害者側として過失が主張されそうな場合には、示談交渉に入る前、あるいは入った後に、刑事記録(実況見分調書、供述調書など)の謄写(コピー)をすることが多いです。

刑事記録を謄写する主な目的は、「過失割合」の判断のための事故状況の確認ですが、加害者が事故を発生させた理由を確認し、慰謝料の増額事由がないかを確認する目的もあります。

加害者が起訴された場合には、裁判を行なう際に用いられた刑事記録(実況見分調書、供述調書等)を謄写することができます。
しかし、加害者が不起訴となった場合には通常、実況見分調書しか謄写できず、供述調書は謄写できないことに注意が必要です。

被害者の方の処罰感情は刑事処分をの決定する際の考慮要素となるので、「寛大な処罰を望む」として、万が一不起訴になった場合には、供述調書の謄写が行なえなくなる可能性があります。

なお、警察の話では「重傷事故であり量刑はかなり重い」とのことですが、その話は鵜呑みにしないほうがいいと思います
なぜなら、処分を決めるのは検察官であって警察ではないからです。

そして、交通事故における加害者の処罰は、被害者から見ると、かなり軽いと感じることが多いです。したがって、「加害者に寛大な処罰を望む」と供述すると、さらに軽くなってしまいます。

そのため、「加害者に寛大な処罰を望む」と供述してしまったことを、後で後悔する人もいます。

処罰感情について注意していただきたいのは、当初は「寛大な処罰を望む」と思っていても、刑事事件と民事事件が進んでいく中で、次のような状況の変化が起きてくる場合があることです。

  • ・刑事事件で、思った以上に加害者の処分が軽くなった
  • ・加害者の態度が、あとになって変わった
  • ・初めに思っていたより、被害者の方の後遺障害が重度だった
  • ・示談交渉で加害者側の保険会社の対応が非常に不誠実だった

 

上記のような理由から、加害者への処罰感情については「寛大な処罰を望むなどと言わなければよかった」「別の意見を述べればよかった」と、あとになって後悔される方もいらっしゃいます。

 

処罰感情については、素直な気持ちを話されればいいと思いますが、上記の点などにも十分留意する必要があります。

これから、交通事故の発生から示談交渉までの流れや手続き、加害者に厳罰を望む場合の注意ポイントなどについて、わかりやすく解説していきますので、ぜひ最後まで進んでください。

交通事故の流れと各手続きについて

交通事故が発生してから示談交渉を行なっていくまでには、さまざまな手続きが必要になります。
まずは全体の流れを知ることが大切です。

詳しい解説はこちら
【フローチャート図解付き】交通事故の被害者が必ずすべきこと

交通事故は必ず警察に通報する

1.警察への通報は法的な義務

そもそも、交通事故が発生した場合に運転者等の加害者が警察に通報するのは法的な義務です。
これを怠ると、加害者は「道路交通法」で処罰されます。

加害者の中には、「警察には通報しないでほしい」とか「この場で示談しましょう」などと言ってくる人がいますが、被害者の方は受け入れてはいけません。

また、事故現場で加害者が茫然自失の状態になる場合もあります。
いずれにしても、加害者が通報しないような状況でも、被害者の方は必ず警察に通報してください

詳しい解説はこちら
「警察に通報しない」「加害者とその場で示談する」のがダメな理由

なお被害者の方は、ケガがある場合は「人身事故」扱いにしてもらうことを忘れずに。
そうしないと、あとで事故状況を検証した「実況見分調書」が取れなくなってしまいます。

実況見分調書は刑事事件だけでなく、民事上の示談交渉や裁判における過失割合の判断などでも必要になってきます。

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図解で解説!過失割合と過失相殺でもめないための知識

 

<コラム1.加害者は3つの責任を負う>

交通事故の加害者は、次の3つの責任を負います。

1.刑事責任

自動車運転死傷行為処罰法」や「道路交通法」などの法律により加害者が罰金刑、懲役刑、禁錮刑などの刑罰に処せられる刑事上の責任です。

2.民事責任

被害者に与えた損害を賠償する責任です。
損害賠償のための示談交渉や民事裁判に関わってきます。

3.行政責任

運転者(加害者)が道路交通法規に違反している場合には、違反点数が課せられます。
違反点数が一定以上になると、免許取消や免許停止、反則金等の行政処分を受けることになり、加害者はその責任を負います。

これらは別々の制度のため、たとえば刑事処分を受けたからといって民事上の責任や行政処分を免れる、ということはありません。

 

詳しい解説はこちら
加害者の刑事手続はどのようになるのか?

2.交通事故証明書が作成されないと交通事故でなくなる!?

交通事故が交通事故として扱われるためには「交通事故証明書」が必要です。
交通事故証明書には、その後の交通事故の手続に必要な情報が記載されています。

交通事故を警察に通報しないと、当然ですが交通事故証明書が発行されません。
ということは、交通事故として扱われないのですから、示談交渉をするにしても「交通事故が起きたこと」の証明から始めなければいけません。

これでは示談交渉で被害者の方が、かなり不利になってしまいます。

3.実況見分調書と供述調書が重要な理由

交通事故を通報すると警察官が現場に直行し、実況見分(現場検証)を行ないます。

この時、被害者と加害者は当事者として実況見分に立ち合い、警察からの聞き取り調査に協力しなければなりません。

これらの結果をもとに、警察が「実況見分調書」「供述調書」を作成し、検察に送られます。

加害者を起訴するか、不起訴とするかの決定は検察が行ない、起訴となれば最終的な刑の確定が行なわれます。

また、病院に入院・通院した際の治療費の支払や、加害者側の任意保険会社との示談交渉の際も、これらは重要な証拠、判断材料として使われます。

なお、被害者の方が重傷で緊急搬送された場合は後日、行なわれます。
ケガの状態を見ながら、できるだけ早く、警察に被害者立会の実況見分調書を作成してもらう必要があります。

詳しい解説はこちら
実況見分により慰謝料が減額される理由とは?

加害者への厳罰を望む場合の注意ポイント

1.実況見分では曖昧な発言をしない

前述したように、実況見分調書や供述調書は、加害者の刑事事件においても、慰謝料などの損害賠償金の示談交渉においても、重要な証拠、判断材料になります。

加害者に対して厳罰を望むのであれば、警察の聞き取り調査の際には曖昧な証言をせず、厳罰を望む旨をしっかりと伝えるべきです。
そうした被害者の方の処罰感情は調書に反映されますし、裁判での判断材料の一つにもなる可能性があるからです。

なお、実況見分調書も供述調書も、一度作成されたあとでは書き直すことができないので注意が必要です。

2.刑事裁判の被害者参加制度を利用する

刑事裁判というのは国が加害者を裁くものであるため、被害者の方やご遺族などは当事者として関わりません。

しかし、「被害者参加制度」というものがあります。

動画でも解説しています

 

 

<コラム2.被害者参加制度とは?>

被害者の方やご遺族が刑事裁判に直接関与することができる制度です。

一定の重大事件の場合に、裁判所の許可を受けて裁判に参加することができます(刑事訴訟法290条の2)。

  • ・故意の犯罪行為により人を死傷させた事件(殺人、傷害、危険運転致死など)
  • ・その他、強制わいせつ、強姦、逮捕・監禁、過失運転致死など

被害者参加人として刑事裁判に参加できる人は次のとおりです。

  • ・被害者本人
  • ・配偶者(被害者が死亡もしくはその心身に重大な故障がある場合)
  • ・直系の親族もしくは兄弟姉妹など
  • ・被害者の法定代理人(弁護士)など

被害者参加をすると次のことができます。

  • ・検察官に対する意見陳述
  • ・情状事項に関する証人尋問
  • ・被告人への質問
  • ・事実や法律の適用に関する意見陳述

被害者参加をすると、検察官に対して質問したり、どのような法律が適用されるべきかといった意見を述べることができます。
その場合、弁護士を代理人とすることもできます。

 

3.被害者参加のメリットを十分に使う
①刑事記録の閲覧謄写ができる

被害者参加制度を利用するメリットとしては、刑事記録の閲覧謄写ができることがあげられます。

刑事事件の捜査では、捜査段階で事故の詳しい状況加害者の供述内容等被害者側に明かされることは少ないです。

そのため、通常は刑事裁判になって初めて、加害者側がどのような供述をしているのかを知ることができます。

しかし、被害者参加をすれば、第一回公判期日(裁判)の前に、刑事記録の閲覧謄写が可能になります。

早い段階で刑事記録を閲覧することで、加害者の供述の嘘や矛盾を把握し、公判期日で追求することができる場合もあるわけです。

【参考情報】
「刑事手続における犯罪被害者のための制度」(裁判所)

②裁判官に直接訴えることができる

加害者が罪を認めている場合では、通常、検察官の立証では書類のみを裁判所に提出することが多いのですが、それだと裁判官は書面だけを見て、被害者感情などを知ることになります。

しかし、被害者参加制度を利用すれば、実際に公判期日(裁判)で被害者の方が意見を陳述することができます。

そうすることで、被害者の方のリアルな感情や思いを裁判官に直接伝えることができるのです。

詳しい解説はこちら
刑事裁判の被害者参加制度とは?

4.刑事裁判が終了するまで示談を成立させてはいけない

もし、加害者に厳罰を望むのであれば、加害者の刑事裁判の判決が出るまでは、加害者側との示談を成立させないようにしましょう。

というのは、先に示談を成立させてしまうと、慰謝料などの損害賠償金を支払うことになり、「加害者は一定の罪の償いをした」と判断されて、判決での量刑が軽くなってしまう場合があるからです。

5.被害の重大性を主張する

被害者参加の際、被害者の方が死亡した場合や、重大な後遺障害が残ってしまった場合などでは、被害の重大性を主張することができます。

また、加害者側に無免許、飲酒運転、スピード超過、ひき逃げ、信号無視などの重大で悪質な過失があった場合や、?の供述や被害者の方に悪態をつくなどの事実があった場合も、それらを主張していくことも大切です。

これらによって、慰謝料などを増額させることも可能です。

詳しい解説はこちら
慰謝料を相場以上に増額させる方法

被害者参加制度を利用するなら交通事故に強い弁護士に相談を!

被害者参加について、難しいと感じた方も多いと思います。

被害者参加を希望する場合は、事件を担当する検察官に申し出る必要があります。

検察官は、被害者の方が刑事裁判に参加することについて意見をつけて裁判所に通知し、裁判所の許可を得ることで刑事裁判に被害者参加人として参加することができるようになります。

また、ただ被害者感情を述べるだけではなく、法的な問題についても言及する必要があるので、現実問題として交通事故の被害者の方には難しいことは事実です。

そうした時は、交通事故に精通した弁護士にご相談下さい

交通事故に強い弁護士であれば、被害者参加の手続きから刑事裁判での意見陳述、その後の示談交渉まですべてワンストップで被害者の方をサポートすることができます。

みらい総合法律事務所では死亡事故と後遺症事案において無料相談を随時受け付けています。
ぜひ、ご利用ください。

よくわかる動画解説はこちら
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