Have case
Have case ,will travel 「事件あり、どこでも参上」
これは、マイケル・コナリーのミステリーに登場する、弁護士ミッキー・ハラーのセリフです。
ハラーは、大型高級車リンカーンをオフィス代わりにして「リンカーン弁護士」と呼ばれる刑事専門の弁護士です。
コナリーのミステリー「ボッシュ刑事」シリーズで、ハラーは、いとこのボッシュ刑事とコンビを組んで一緒に事件を解決します。
遺産争いに巻き込まれた事件(“The wrong side of goodbye”2016)でボッシュが、刑事専門のハラーに、「遺産争いの事件も引き受けるのか?」と尋ねたのに対し、ハラーは“Have case ,will travel”、つまり「事件があれば、どこでも行きますよ」と答えるのです。
営業に貪欲なアメリカ人弁護士らしいと思います。
“Have gun, will travel(銃あり、どこでも参上)がこのセリフのオリジナルで、TV番組「西部の男パラディン」のキャッチ・コピー(宣伝文)でした。
雇われガンマンの主人公が、旅先でいろんなトラブルを解決していく西部劇で、黒ずくめのガンマン、パラディンがダンディでとてもカッコよく、子供の頃、ワクワクしながらTVを見ていいました。
このパラディンのセリフから、いろんなパロディが作られました。例えば“Have modem, will travel”「モデムあり、どこでも参上」、”Have PC, will travel”「パソコンあり、どこでも参上」などなど。
”Have jet, will travel”「ジェット機あり、どこでも参上」、世界中どこでも、すぐに駆けつけますよ、と言いそうな弁護士が登場するのが、ジェフリー・ディーバーのミステリー「リンカーン・ライム捜査官」シリーズの最新作(“The burial hour”2017)です。
ライムはthe composer(作曲家)と名乗る連続誘拐犯を追って、恋人のアメリア達とニューヨークからイタリア・ナポリに飛びますが、ライムに恩義を感じた弁護士が、なんとプライベイトジェット機を提供してくれます。
このアメリカの弁護士は、ヨーロッパでの証拠開示手続きにすぐ対応できるようにと、プライベイトジェット機を保有しているのです。なんとスケールの大きいことかと感心します。
アメリカのミステリーでは、わき役でも弁護士がよく登場します。
フィクションとはいえ、日米の弁護士の違いを改めて認識させられます。
ボッシュは先ほどの遺産を巡る事件で、相続人に指定された一人から、どうやって弁護士を探せばいいのか聞かれて、「信頼できる人かbankerの推薦を受けろ」とアドバイスします。
「信頼できる人から紹介を受けろ」というアドバイスは日本でも通用しますが、「banker(銀行員ではなく、銀行家・銀行の役員を指す)から」というのには、ちょっとびっくりです。
アメリカでは、弁護士は一般的に信頼できない人種だから、一番信頼できる人種のbankerに紹介してもらえという訳でしょうが、「銀行家」に弁護士を紹介してもらえ、というアドバイスは、日本人には違和感があります。
逆に、外国人から違和感を持たれるのは、日本で弁護士を「先生」と呼ぶことでしょう。
村上春樹さんが読者からの何万通ものメールでの質問への答えをまとめた「村上さんのところ」(新潮文庫)で、若い弁護士が「先生」と呼ばれる居心地の悪さについて質問していました。
村上さんは「弁護士どうしでも『先生』『先生』呼び合うんだと、最初聞いてびっくりしました」とコメントしていました。
日本人でも、知らない人が聞いたら驚く慣習です。
弁護士を「先生」と呼ぶのは、代議士を「先生」と呼ぶのと同じく、日本社会の後進性のシンボルのような気がします。
でも、私ひとりが「いや、そう呼ばないで」と遠慮すると、これはこれで「嫌味」にとられかねません。やれやれ(村上流?)。