麹町道草日和
ちょっと一息。みらい法律事務所の所属弁護士によるコラムです。

生涯学習「死ぬまで勉強だ!」

放送大学で面接授業を担当して多くの聴講生に接していますが、いかにも定年後と思われる方や、年配の女性の方が多いのに感心させられます。私の授業は法律関係なので、文学や歴史などの授業と違って到底面白いとは思われないのですが、毎回熱心に聴講される高齢の方々が目立ちます。「死ぬまで勉強だ」という意識をお持ちの方々増えているのはとてもいいことで、なによりもボケ防止になりますが、「人間は、知という造物主がこしらえた最近の被造物」である(M.フーコー)ことを考えると、死ぬまで知的活動を止めないことが、その人を人間として存在し続けさせる効果があるのではないでしょうか。 「死ぬまで勉強だ」ということについて、私の好きな名言はマリア・ミッチェルMaria Mitchell (1818-89)という女性で初めてアメリカ科学芸術アカデミーの会員となったアメリカの天文学者が残したものです。 Study as if you were going to live forever; live as if you were going to die tomorrow. 「永遠に生きるかのように勉強し、明日死ぬかのように生きなさい」 生涯学習について、文科省は平成24年2月「人生の締めくくり方」の学習も加えるようにという報告書をまとめました。確かにぼけてからでは、自分が死ぬんだという意識もなく、その準備など到底おぼつかないでないでしょうが、「死ぬ準備の学習が未完成なので、死ぬのは待って」という訳にもいきません。勉強は、死には「いつでもいらっしゃい」という覚悟をしながら、しかもずっと続けること自体に意味がある、このミッチェルの言葉こそ生涯学習の「知」の精神に相応しいのではないでしょうか。 この名言は「永遠に生きる」と「明日死ぬ」という反対の状況をワンセットにしたところも機知に富んでいますが、面白いことに、インド独立の父ガンディMahatma Gandhi(1869-1948)も同じような名言を残しています。 Live as if you were to die tomorrow. Learn as if you were to live forever. 「明日死ぬかのように生き、永遠に生きるかのように学びなさい」 ガンディの方は順序が逆で「生きなさい」が前に来て、studyがlearnとなっています。 オックスフォード現代英英辞典の説明を直訳すれば、studyスタディは「主に本から、ある主題について知識を得る手順process of gaining knowledge of a subject,esp from books」とあり、learnラーンの方は「知識や技能をstudyや経験、教育によって得ることgain knowledge or skill by study,experience or being taught」とありますので、learnの方はstudyや経験などから学ぶことも含む広い意味に使われるようです。例えばアメリカ第26代大統領のセオドア・ルーズベルトは「listen and learn(耳を澄まして、学べ)」という名言を残していますが、自分の周囲に注意して耳を澄ませていれば、多くのことを学ぶ(learn)ことができる、という具合に使われています。宮本武蔵の言葉と言われる「我以外皆師也」(自分以外はすべて何かを教えてくれる自分の教師である)もlearnと同様な意味に理解されるでしょう。周囲に気を配って謙虚に生きていけば、learnという意味では人は常に何かの教訓を得ることができる、という訳です。 さて、そうであれば、あえて「永遠に生きるかの如く」でなくてもlearnとしては学ぶんではないでしょうか。 ミッチェルの方のstudy「学びなさい」は「刻苦勉励」「自分で学習せよ」というメッセージが感じられます。また「学びなさい」が「生きなさい」より前に来ていることでも、生涯学習への意志がより強く感じられます。そして「生きなさい」という後段の表現も、前段終わりのlive foreverの直後に live as if…と続いており、表現上のリズムにも妙味があります。 という訳で、「死ぬまで勉強だ」には、スタディstudyというミッチェルの名言が相応しいと私は思うのですが、皆様のご意見はどうでしょうか。