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弁護士法人みらい総合法律事務所

調査非協力・虚偽答弁・証拠隠滅

調査非協力で重加算税取消判決

横浜地裁昭和53年3月13日判決(TAINS Z097-4150)

本事案は、建物内装工事業者が、帳簿書類を備え付けず、税務調査に非協力的であり、取引先からの入金を父親名義の預金口座に入金していたという事案です。

裁判所は、

・原告およびその意向を受けた同人の妻は、税務調査に対し非協力的な態度を取り、調査担当者の質問に対しあいまいな応答を繰返し、領収証、請求書控等の原始記録の提示の求めに対しても、調査の最終段階に至って初めて昭和40年分の請求書控および領収証の一部を提示したに過ぎず、「昭和38年分と39年分の領収証等はない。」旨事実に反する(原告は、本訴に至って右両年分の請求書控の一部を証拠として提出した。)供述をなしている。

・取引銀行についての質問に対しても、「取引銀行は住友銀行川崎支店のほかにはない」旨応答し、原告が昭和39年において大建から収入した小切手を同人の父であるA名義の三菱銀行川崎支店の普通預金口座に預入れした事実を供述していない。

・しかし・・・原告は、本件係争年当時においては未だ大工として独立して間もない頃で税務申告等にうとく、前示のように白色申告者で帳簿書類の備付け、記帳等を行っておらず、また領収証等の原始記録の整理、保管も十分でなかつた(このようなことは、原告と類似の大工等においてはありふれたことであつたと推察される。)。

・税務調査に対し、非協力的な態度であつた事実のみをもって、原告が、昭和38年ないし40年分所得税の申告に関し、通則法68条1項、2項所定の「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出した(昭和39年および40年分につき)、あるいは右に基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかつた(昭和38年分につき)。」との事実の存在までを推認することはできない。

・取引銀行の秘匿の事実についてみても、昭和38年および昭和40年については、原告が住友銀行川崎支店以外に取引銀行を有していたことを認めるに足りる証拠はなく、かつ昭和39年にしても、前示大建からの収入(小切手)を父親名義の口座に預入れているのは、9月に2件、12月に1件金額合計139、000円のみであって、昭和38年と昭和40年においては右のような事実が認められない(なお、右39年についても、原告が三菱銀行川崎支店に自己名義の普通預金口座を有していたとの事実を認めるに足りる証拠はない。)ことに徹しても、右が果して前示の「事実を隠ぺいし、又は仮装」する意図の下になされたものであるか疑いが残る。

「申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」には、
第1 賦課基準
(隠蔽又は仮装に該当する場合)
1(8)
「調査等の際の具体的事実についての質問に対し、虚偽の答弁等を行い、又は相手先をして虚偽の答弁等を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること。」

というものがあります。

後半部分の「その他の事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること。」の部分は、「申告後」の虚偽答弁がただちに「隠蔽又は仮装」になるのではなく、「申告時」に「隠蔽又は仮装」がなければならないということです。

以下の最高裁判決に配慮をしているものと考えられます。

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(1)各確定申告の時点において、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図を持っており
(2)必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことも予定して、
(3)会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出した
というような事情が認められる場合には、重加算税の賦課要件を満たすことになる
(最高裁平成6年11月22日判決)。

納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされる(最高裁平成7年4月28日判決)。

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税務調査における虚偽答弁で重加算税の主張をされることは多いと思いますが、虚偽答弁だけでは重加算税の賦課要件を満たさず、あくまで「申告時」において隠蔽又は仮装があったかどうかに論点を集中させるようにしましょう。

香典メモを破棄しても重加算税取消裁決

国税不服審判所平成28年3月30日裁決です。

【事案】

・被相続人は、平成24年3月に死亡し、被相続人は請求人である配偶者と子2人である。

・請求人らは、法定申告期限までに相続税の申告をしなかった。

・平成26年9月に、税務調査が開始された。

・調査担当職員から証券会社との取引はなかったか、と問われ、請求人らは、「知らない」と回答したが、実際には取引があった。

・切り取られた香典メモが発見され、同メモには、「A証券 5,000」の記載があった。

・請求人らは、平成27年1月に期限後申告をした。

・処分庁は、重加算税賦課決定をした。

【処分庁の主張】

・請求人らは、相続税の申告をしない旨の合意をして、法定申告期限までに申告をしなかった。

・請求人は、調査担当職員に対し、P証券と取引していたことを隠すため、虚偽答弁、香典メモ破棄行為をし、相続財産を隠蔽する態度、行動をできるだけ貫こうとしている。

・請求人には、不申告の意図を外部からもうかがい得る特段の行動がある。

【裁決】

・請求人らは、申告義務は認識していた。

・法定申告期限までに相続税申告をしない旨の意思の合致があったとまではにわかに認めることはできない(合意の合致の立証責任)。

・請求人らは、事前通知から実地調査までの間に、調査に対し積極的には協力しない旨の漠然とした合意が形成された。

・虚偽答弁やメモ破棄は、申告期限から約1年8ヶ月後であり、準備を要するような計画的なものではなく、とっさにとった行動とも評価しうる。

・相続税を申告しない意図を外部からうかがい得る特段の行動をしたとまでは認めることができない。

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【解説】

この裁決では、最高裁平成7年4月28日判決 民集49巻4号1193頁、TAINS Z209-7518)及び最高裁平成6年11月22日判決の規範が意識されています。

「納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされる」(最高裁平成7年4月28日判決)

「各確定申告の時点において、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図を持って」いることが必要。(最高裁平成6年11月22日判決)

本件は、無申告の事案ですが、無申告の場合には、法定申告期限において隠蔽又は仮装の故意が必要であり、申告期限後に隠蔽仮装の確定的意図が生じても要件を満たしません。
本件では、

①申告期限までに不申告の意思の合致が認定できない、

②虚偽答弁、メモ破棄は、とっさにとった行動とも評価できる。

と判断され、法定申告期限において、隠蔽又は仮装の故意がなかった、とされたものです。

なお、相続税の重加算税通達には、次の記述があります。

「1(4) 相続人等が、自ら虚偽の答弁を行い又は取引先その他の関係者をして虚偽の答弁を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、相続人等が課税財産の存在を知りながらそれを申告していないことなどが合理的に推認し得ること」

以上から、税務調査時の虚偽答弁や証拠隠滅により重加算税を賦課された場合には、隠蔽又は仮装の意図は、法定申告期限又は申告時点で必要であることを意識します。

そして、虚偽答弁や証拠破棄などがあった時は、とっさに行ったものか、あるいは、当初より計画され、又は予定されていたものかどうかを検討します。

また、申告時点等から調査時点まで、隠蔽又は仮装の意図が一貫しているか、あるいは意図と矛盾した行動があるか、などを検討します。

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