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重加算税に関する4つの最高裁判決と6つのルール

重加算税に関する4つの最高裁判決と6つのルール
重加算税に関しては、必ず押さえておきたい最高裁判決が4つあります。以下の4つです。

・最高裁平成6年11月22日第三小法廷判決
・最高裁平成7年4月28日判決
・最高裁平成17年1月17日判決
・最高裁平成18年4月20日判決

ここでは、4つの最高裁判決を紹介します。

最高裁平成6年11月22日第三小法廷判決(民集48巻7号1379頁、TAINS Z206-7415)

事案の概要
1Xの亡夫Aは、白色申告に係るサラリーマン金融業を営んでおり、昭和53年分ないし同55年分の所得税に係る確定申告をそれぞれ法定申告期限内に行いました。

2 亡Aは、その後4回にわたり修正申告をしました。

3 課税庁は、亡Aが、3年分にわたって真実の所得金額の大部分を脱漏し、過少申告をしたことから、過少申告加算税、重加算税等の賦課決定をしました。

4 そこで、Xは、処分取消訴訟を提起しました。

5 本事案では、亡Aは、本件係争各年における営業につき正しい会計帳簿類を作成記載しており、取引記録及び貸付金・利息の入手金を集計した記録も揃えていました。

6 いわゆる「つまみ申告」の事案です。

二 判決
「亡Aは、会計帳簿類や取引記録等により自らの事業規模を正確に把握していたものと認められるにもかかわらず、

確定申告において、3年間にわたり最終申告に係る総所得金額の約3ないし4パーセントにすぎない額(差額で約8億円ないし16億円少ない額)のみを申告したばかりでなく、

その後2回ないし3回にわたる修正申告を経た後に初めて飛躍的に多額の最終申告をするに至っているのである。

しかも、確定申告後の税務調査に際して、真実よりも少ない店舗数や過少の利息収入金額を記載した本件資料を税務署の担当職員に提出しているが、

それによって昭和55年分の総所得金額を計算すると、最終修正申告に係る総所得金額の約17パーセントの額(差額で約14億円少ない額)しか算出されない結果となり、

本件資料の内容は虚偽のものであるといわざるを得ない。

その後右職員の慫慂に応じて修正申告をしたけれども、その申告においても、右職員から修正を求められた範囲を超えることなく、

最終修正申告に係る総所得金額の約7ないし13パーセントにとどまる金額(差額で約7億7600万円ないし15億2000万円少ない額)のみを申告しているにすぎない。」

「右のとおり、亡Aは、正確な所得金額を把握し得る会計帳簿類を作成していながら、

3年間にわたり極めてわずかな所得金額のみを作為的に記載した申告書を提出し続け、

しかも、その後の税務調査に際しても過少の店舗数等を記載した内容虚偽の資料を提出するなどの対応をして、

真実の所得金額を隠ぺいする態度、行動をできる限り貫こうとしているのであつて、

申告当初から、真実の所得金額を隠ぺいする意図を有していたことはもちろん、

税務調査があれば、更に隠ぺいのための具体的工作を行うことをも予定していたことも明らかといわざるを得ない。

以上のような事情からすると、亡Aは、単に真実の所得金額よりも少ない所得金額を記載した確定申告書であることを認識しながらこれを提出したというにとどまらず、

本件各確定申告の時点において、白色申告のため当時帳簿の備付け等につきこれを義務付ける税法上の規定がなく、

真実の所得の調査解明に困難が伴う状況を利用し、

真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図の下に、必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことも予定しつつ、

前記会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、

所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したことが明らかである。

したがつて、本件各確定申告は、単なる過少申告行為にとどまるものではなく、
国税通則法68条1項にいう税額等の計算の基礎となるべき所得の存在を一部隠ぺいし、

その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出した場合に当たるというべきである〔最高裁昭和46年(あ)第1901号同48年3月20日第3小法廷判決・刑集27巻2号138頁参照〕。

そうすると、これと異なり、本件各申告行為が殊更の過少申告に当たらず、

国税通則法68条1項に定める要件を満たさないとした原判決には、同条項の解釈適用を誤った違法があるものといわなければならず、

右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、

その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

そして、原審の確定した前記事実関係の下においては、Xの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきであって、これと結論を同じくする第一審判決は正当であるから、Xの控訴は棄却すべきものである。」

最高裁平成7年4月28日判決(民集49巻4号1193頁、TAINS Z209-7518)

最高裁平成7年4月28日判決(民集49巻4号1193頁、TAINS Z209-7518)
一 事案の概要
1 Xには、株式等の売買により、昭和60年に2600万円余、同61年に1億0800万円余、同62年に2億1000万円余の所得がありました。右売買の回数及び株数は、いずれの年分についても、有価証券の譲渡による所得のうち継続的取引から生ずる所得として、所得税法及び所得税法施行令が非課税所得から除外する所得の要件を満たしていました。

2 Xは、昭和60年分、同61年分及び同62年分の所得税について、課税庁に確定申告をしましたが、上記1の売買による所得を雑所得として申告すべきであるのに、これを申告書に全く記載しませんでした。しかし、Xは、右売買について、取引の名義を架空にしたり、その資金の出納のために隠れた預金口座を設けたりするようなことはしませんでした。

3 Xは、右売買による所得を雑所得として申告し、納税するつもりがなく、その計算すらしていませんでした。

そして、Xは、右各年分の確定申告書の作成を顧問税理士に依頼した際に、その都度、Xが株式等の売買をしていることを知っていた同税理士から、

株式の取引による所得についても課税要件を満たしていれば申告が必要であると何度も念を押され、

右所得の有無について質問を受け、資料の提示を求められたにもかかわらず、確定的な脱税の意思に基づいて、

同税理士に対し、課税要件を満たす所得はない旨を答え、他の所得に関する資料を交付しながら、株式等の取引に関する資料を全く示しませんでした。

4 そこで、課税庁は、Xに対し、重加算税の賦課決定処分をしました。

二 判決
1 この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もつて申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。

2 したがつて、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。

しかし、右の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、

納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、

その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされるものと解すべきである。

3 これを本件について見ると、Xは、昭和60年から62年までの3箇年にわたって、

課税庁に所得税の確定申告をするに当たり、株式等の売買による前記多額の雑所得を申告すべきことを熟知しながら、

あえて申告書にこれを全く記載しなかつたのみならず、
右各年分の確定申告書の作成を顧問税理士に依頼した際に、同税理士から、その都度、同売買による所得の有無について質問を受け、資料の提出も求められたにもかかわらず、

確定的な脱税の意思に基づいて、右所得のあることを同税理士に対して秘匿し、何らの資料も提供することなく、同税理士に過少な申告を記載した確定申告書を作成させ、これを課税庁に提出したというのである。

4 税理士は、納税者の求めに応じて税務代理、税務書類の作成等の事務を行うことを業とするものであるから(税理士法2条)、

税理士に対する所得の秘匿等の行為を税務官公署に対するそれと同視することはできないが、

他面、税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものであり(同法1条)、

納税者が課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装していることを知つたときは、

その是正をするよう助言する義務を負うものであつて(同法41条の3)、右事務を行うについて納税者の家族や使用人のようにその単なる履行補助者の立場にとどまるものではない。

5 右によれば、Xは、当初から所得を過少に申告することを意図した上、

その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものであるから、

その意図に基づいてXのした本件の過少申告行為は、国税通則法68条1項所定の重加算税の賦課要件を満たすものというべきである。

最高裁平成17年1月17日判決(判例タイムズ1174号248頁、TAINS Z255-09893)

一 事案の概要
(1) Xは、平成2年9月、昭和62年に6836万5000円で買い受けた川崎市所在の本件土地を1億3000万円で売却しました。Xは、従前、大学教授として得た収入等について税理士に委任することなく所得税の申告をしていましたが、本件土地の売却に伴う譲渡所得を得た平成2年分の所得税については、申告を税理士に委任することとし、平成3年2月ころ、知人から乙税理士(以下「乙税理士」という。)を紹介されました。
(2) 乙税理士は、平成3年2月末ころ、Xから本件土地の譲渡所得に係る所得税について相談を受け、裏付け資料等を示されることなく事情を聴取しながらメモを作成し、これをXに示して、税額約2600万円が経費を控除して2310万円となるところ、全部で1800万円で済ませることができ、800万円も税額を減少させて得をすることができる旨の説明をしました。同メモには本件土地の買手の紹介料等が経費として記載されていましたが、Xが上記紹介料を出費した事実はなく、出費した旨を乙税理士に告げたこともありませんでした。
(3) Xは、数日後に、同税理士に対し平成2年分の所得税の申告を委任し、平成3年3月6日、同税理士に対し税務代理の報酬5万円のほか1800万円を交付しました。
(4) 乙税理士は、昭和42年に税務署を退職後、税理士を開業していましたが、長年にわたり、受任した納税者の不動産の譲渡所得に係る課税資料を乙税理士に協力する税務署員をして廃棄させた上、その譲渡所得を申告しないという方法による脱税行為を実行し、納税者から受領した納税資金を領得していました。本件でも、乙税理士は、平成3年3月上旬ころまでに、Xについて脱税行為の協力者が勤務していた荻窪税務署管内に転居した旨の虚偽の転居通知をして、その譲渡所得に係る課税資料を同税務署に送付させ、同人にこれを廃棄させました。そして、乙税理士は、同月15日、Xの平成2年分の所得税について、総合課税の所得金額を999万3048円、納付すべき税額を7100円とする確定申告書を提出し、本件土地の譲渡所得については、申告も納税もせずに、Xから受領した1800万円を領得しました。Xは、後日、妻を通じて、乙税理士に対し申告手続の履行について確認し、申告が終了したとの返答を得たが、申告書の控えの交付を受けることはありませんでした。
(5) その後、乙税理士の上記の脱税行為が発覚し、課税庁は、Xに対し、過少申告加算税賦課決定及重加算税賦課決定をしました。

二 裁判所の判断
(1)国税通則法70条5項の文理及び立法趣旨にかんがみれば、

同項は、納税者本人が偽りその他不正の行為を行った場合に限らず、

納税者から申告の委任を受けた者が偽りその他不正の行為を行い、これにより納税者が税額の全部又は一部を免れた場合にも適用されるものというべきである。

(2)原審は、前記事実関係の下において、次のとおり認定判断した。

Xは、乙税理士が違法な手段により税額を減少させるのではないかとの疑いを抱いたと推認されるが、

①税理士は、国が資格を付与し、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものであり、職務違反行為等について懲戒処分が科される我が国の税理士制度の下では、納税者は、一般に、税理士に対し税務申告手続の煩わしさから解放されるとともに、法律に違反しない方法と範囲で必要最小限の税負担となるように節税することを期待して委任するのであり、これを超えて脱税をも意図して委任するわけではないこと、

②乙税理士が税務署勤務の経験を有し、税務当局から不正行為の疑いを抱かれることもなく長年業務に従事してきた税理士であることからすると、Xが、上記の疑いを取り除くことなく、同税理士に申告を委任したからといって、脱税を意図し、その意図に基づいて行動したと認めることはできない。

したがって、本件は、国税通則法68条1項に規定する課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、これに基づき納税申告書を提出した場合には当たらない。

(3) しかしながら、原審の上記認定判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

前記事実関係によれば、乙税理士は、本件土地の譲渡所得に関し、Xに対し、本件土地の買手の紹介料等を経費として記載したメモを示しながら、800万円も税額を減少させて得をすることができる旨の説明をしたが、

Xは、上記紹介料を実際に出費していなかったし、出費した旨を同税理士に告げたこともなかったにもかかわらず、

上記の説明を受けた上で、同税理士に対し、平成2年分の所得税の申告を委任し、税務代理の報酬5万円のほか、1800万円を交付したというのである。

(4)そうであるとすれば、Xは、乙税理士が架空経費の計上などの違法な手段により税額を減少させようと企図していることを了知していたとみることができるから、

特段の事情のない限り、Xは同税理士が本件土地の譲渡所得につき架空経費を計上するなど事実を隠ぺいし、

又は仮装することを容認していたと推認するのが相当である。原審が掲げる上記1の(1)の①及び②の事情だけによって、

上記特段の事情があるということはできない。そうすると、Xが脱税を意図し、その意図に基づいて行動したとは認められないとした原審の認定には、経験則に違反する違法があるというべきである。

(5)そして、本件において、Xと乙税理士との間に本件土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし、

又は仮装することについて意思の連絡があったと認められるのであれば、

本件は、国税通則法68条1項所定の重加算税の賦課の要件を充足するものというべきであるところ、
記録によれば、乙税理士においても、同税理士が本件土地の譲渡所得につき事実を隠ぺいし、

又は仮装することについて、Xがこれを容認しているとの認識を有していたことがうかがわれる。

そうすると、原審の上記の経験則違反の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。

(6)以上によれば、原判決は破棄を免れない。そして、Xと乙税理士との間に前記の意思の連絡があったと認められるかどうかなどについて、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのが相当である。

最高裁平成18年4月20日判決(判例時報1939号12頁、TAINS Z256-10374 )

最高裁平成18年4月20日判決(判例時報1939号12頁、TAINS Z256-10374 )
一 事案の概要
(1)Xは、平成8年に居住用財産である練馬区所在の土地建物(以下「本件物件」という。)を9600万円で譲渡するとともに、大田区所在のマンション及びその敷地共有部分を5780万円で購入して転居した。

(2)Xは、本件物件の譲渡に係る所得税の確定申告手続を夫の丁に依頼したところ、

丁は、確定申告時期が近づいた同9年2月ころ、雪谷税務署に相談に行き、
税務署職員から上記譲渡に係る税額が国税と地方税とを合わせて800万円程度であると言われた。

それは、以前から、練馬区の区民相談において説明を受けていた金額と同程度のものであった。

(3)丁から相談を受けた乙税理士は、丁らが持参した書類等を見ながら自ら計算した上、

長男作成のメモに記載された税額である804万円について「大体、そんなものでしょう。」と述べた上、

自らメモを作成しながら、「550万円で税金はあがるでしょう。その他に10万円を手数料として事務員に渡してくれ、全部で560万円。」と言った。

丁は、どうしてそんなに安くなるのかと聞いたところ、乙税理士は、「私は、長いこと税務署に勤めていたから、素人と計算が違う。ちゃんと計算ができるから間違いありませんよ。」と答えたため、更に質問をすることはなかった。

丁らは、確定申告手続を乙税理士に委任することとし、翌日、同税理士の事務所を訪れて560万円を同税理士に交付した。

(4)乙税理士は、Xが住所を練馬東税務署管内に移した旨の虚偽の通知をした上、同年3月5日、練馬東税務署の資産課税部門統括国税調査官(以下「統括官」という。)に対し、Xの平成8年分の所得税について、

Xを代理して、税理士名欄を空欄とし、被上告人の住所欄に練馬区内の虚偽の住所を記載し、虚偽の必要経費等を記載した上、

課税譲渡所得金額及び納付すべき税額をいずれも0円とする確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を提出し、併せて、本件物件を平成2年に1億0600万円で取得したとの虚偽の記載をした「譲渡内容についてのお尋ね」と題する書面(以下「本件お尋ね文書」という。)を提出した(以下、この確定申告を「本件確定申告」という。)。

統括官は、本件確定申告書に受理印を押捺し、

表面の検算欄及び裏面の分離長期譲渡所得記載欄外の2か所に自己の印を押捺した上、

控えを乙税理士に交付した。なお、統括官が賄賂を受け取ったとか、乙税理士の依頼により故意に脱税に加担したという事実は認められない。

(5)乙税理士は、本件確定申告書及び本件お尋ね文書につき、丁らにその内容を説明したり、Xの署名押印を求めたりすることもなく、上記のような申告手続をし、Xから預かった550万円を納付せずに取得した。

他方、X及び丁らは、確定申告手続を乙税理士に依頼した後、

平成9年10月に東京国税局査察部による調査があるまで、同税理士に対し、確定申告書の控えや納税に係る領収書等の交付を要求したり、申告について税務署に問い合わせたりはしなかった。

(6)乙税理士は、平成8年暮れころから、従前の税務申告につき不正申告の疑いを抱かれ、

東京国税局査察部の調査を受けるなどし、同9年10月に逮捕され、同10年7月、贈賄、所得税法違反等の罪により懲役刑の実刑判決を受けた。

(7)東京国税局査察部は、同9年10月21日、Xに対する臨場調査に着手した。Xは、上告人の指導に基づき修正申告をした。

(8) 上告人は、Xに対し、重加算税を賦課する決定処分を行った。

二 裁判所の判断
(1)重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき隠ぺい又は仮装という不正手段を用いていた場合に、

過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を課すことによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。

(2)同項は、「納税者が・・・隠ぺいし、又は仮装し」と規定し、隠ぺいし、又は仮装する行為(以下「隠ぺい仮装行為」という。)の主体を納税者としているのであって、本来的には、納税者自身による隠ぺい仮装行為の防止を企図したものと解される。

しかし、納税者以外の者が隠ぺい仮装行為を行った場合であっても、それが納税者本人の行為と同視することができるときには、形式的にそれが納税者自身の行為でないというだけで重加算税の賦課が許されないとすると、重加算税制度の趣旨及び目的を没却することになる。

そして、納税者が税理士に納税申告の手続を委任した場合についていえば、納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができ、

法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず、

納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われ、それに基づいて過少申告がされたときには、当該隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができ、

重加算税を賦課することができると解するのが相当である。

他方、当該税理士の選任又は監督につき納税者に何らかの落ち度があるというだけで、当然に当該税理士による隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視することができるとはいえない。

(3)これを本件についてみると、前記事実関係によれば、Xは、乙税理士に確定申告手続を委任した際、

脱税の意図はなく、専門家である同税理士を信頼して適正な申告を依頼したものであり、

同税理士が脱税を行っていた事実を知っていたとうかがうこともできないというのである。

そして、税理士は、適正な納税申告の実現につき公共的使命を負っており、それに即した公法的規律を受けているのであるから、
Xにおいて、そのような税理士資格を有し、長年税務署に勤務していたという乙税理士が、税法上許容される節税技術、計算方法等に精通していると信じたとしてもやむを得ないところであり、同税理士がそのような専門技能を駆使することを超えて隠ぺい仮装行為を行うことまでを容易に予測し得たということはできない。

また、乙税理士による確定申告後、東京国税局による臨場調査を受ける以前に、Xが本件確定申告書に虚偽の記載がされていることその他同税理士による隠ぺい仮装行為を認識した事実も認められず、

同税理士を信頼して委任したXにおいて、これを容易に認識し得たというべき事情もうかがわれない。

他方、税務署職員や長男から税額を800万円程度と言われながらこれが550万円で済むとの乙税理士の言葉を信じた点や、本件確定申告書の内容をあらかじめ確認せず、申告書の控えや納付済みの領収証等の確認すらしなかった点など、Xにも落ち度はあるものの、これをもって同税理士による前記隠ぺい仮装行為をX本人の行為と同視することができる事情に当たるとまでは認められないというべきである。

そうすると、前記事実関係の下においては、乙税理士の前記隠ぺい仮装行為をもって納税者であるX本人の行為と同視することはできず、Xにつき国税通則法68条1項所定の重加算税賦課の要件を満たすものということはできない。これと同旨の原審の判断は是認することができ、論旨は採用することができない。

最高裁の採用する重加算税ルール


最高裁判例の重加算税ルールは、以下の6つです。
重加算税指摘を受けた場合には、以下の6つのルールに当てはまるかどうか、検討することになります。

【ルール1】 隠ぺい又は仮装行為と過少申告行為との関係

重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要する(最高裁平成7年4月28日判決)

【ルール2】 つまみ申告について

(1)各確定申告の時点において、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図を持っており
(2)必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことも予定して、
(3)会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出した
というような事情が認められる場合には、重加算税の賦課要件を満たすことになる(最高裁平成6年11月22日判決)。

【ルール3】 納税者自身の積極的な行為がない場合

納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされる(最高裁平成7年4月28日判決)。

【ルール4】税理士が納税者に無断で隠ぺい又は仮装行為をした場合

以下の場合には、隠ぺい仮装行為を納税者本人の行為と同視できるとして、重加算税の賦課要件を満たす、ということになる(最高裁平成18年4月20日判決)
(1)納税者において当該税理士が隠ぺい仮装行為を行うこと若しくは行ったことを認識し、又は容易に認識することができたこと
(2)法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたこと
(3)納税者においてこれを防止せずに隠ぺい仮装行為が行われたこと
(4)に基づいて過少申告がされたこと

【ルール5】 隠ぺい、仮装と過少申告との因果関係

隠ぺい、仮装行為と過少申告との結果との間に因果関係が存することを意味する(最高裁昭和62年5月8日判決)

【ルール6】 過少申告の認識

納税者が故意に課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい、仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではない(最高裁昭和62年5月8日判決)。

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