交通事故の後遺障害等級認定がなぜこんなに重要か?
目次
交通事故の損害賠償は、どのように解決するか
交通事故の損害賠償の問題は、どのように解決されるのでしょうか。
今回は、交通事故の被害に遭って怪我をして、後遺症が残ってしまった場合のとても重要な問題「後遺障害等級認定」について解説をしていきたいと思います。
その前提として、まずは、交通事故の被害に遭った場合に、どのように損害賠償の問題が解決されるのか、について見ていきたいと思います。
交通事故の被害に遭って、怪我をしてしまった場合、まずは救急車で病院に運ばれるか、自分で病院に行くことになります。
そして、診断を受けて、治療を開始します。
この間、警察の実況見分に協力し、供述調書の作成をしたり、という刑事事件に関与することもします。
加害者が任意保険に加入していれば、保険会社から連絡が入り、怪我の状況を聞かれ、診断書等を提出して、治療費の支払いや休業補償を受けながら、治療を継続することになります。
自動車の修理等がある場合には、物損についての示談交渉をすることもあります。
そして、治療が終了するころになると、後遺症が残るかどうかがわかってきます。
後遺症が残る、ということになると、いつ「症状固定」にするか、という判断をすることになります。
症状固定というのは、それ以上治療を続けても改善できない、という状態のことです。
後遺症が残った場合には、自賠責の後遺障害等級認定の手続に入っていきます。
これは、自賠法施行令に定められた1級~14級までのどの後遺障害等級に該当するか、を判定する手続です。
その等級により、自賠責保険金額が定められています。
しかし、この後遺障害等級は、その後の慰謝料の示談交渉にも強い影響を与えることになります。
後遺障害等級認定が確定したら、ようやく示談交渉が始まることになります。
そして、示談交渉が成立すれば解決です。
もし、示談交渉が決裂した場合には、最終的には裁判で決着をつけることになります。
ここでは、このうち後遺障害等級認定に絞って解説をしていきます。
後遺障害等級認定とは
後遺障害の等級認定とは、交通事故により怪我をした被害者が治療をしても残ってしまった後遺症について、怪我をした部位や程度により類型化した後遺障害等級表に基づいて評価し、○○級○○号というように認定することをいいます。
後遺障害等級は、自賠法施行令に定められており、1級~14級までに細かく区分されています。
1級~14級のうち、後遺障害等級1級が最も重い後遺障害ということなり、慰謝料など損害賠償金額も高額となります。
たとえば、後遺障害等級1級というのは、四肢麻痺や遷延性意識障害、高次脳機能障害などで寝たきりになったような場合、両脚切断など、重篤な後遺症が残った場合に認定されることになります。
このように重篤な後遺症なので、働くことも難しく、介護費用などもかかるので、それらの損害賠償金を得ることになり、賠償金額が高額になるものです。
交通事故の怪我でもっとも多いのは、頸椎捻挫や腰椎捻挫などの、いわゆる「むち打ち」ですが、この場合、後遺症としては、神経症状が残ることになります。
この場合の後遺障害等級は、12級13号か、14級9号が該当することになります。
そして、認定された後遺障害等級に応じて、慰謝料や逸失利益などが計算されることになります。
慰謝料は、後遺障害等級に応じて、だいたいの金額の相場が決まっています。
したがって、後遺障害等級認定手続は、とても大切な手続きということになります。
交通事故における後遺障害等級認定の手続き
後遺障害等級は、「損害保険料率算出団体に関する法律」という法律に基づいて設立された「損害保険料率算出機構」(損保料率機構)という団体が調査して認定します。
具体的な調査は、全国の都道府県庁所在地等に設置した自賠責損害調査事務所が行うことになります。
交通事故で怪我をして、治療を続けても治らない状況を症状固定といいますが、症状固定と判断されると、後遺症が残った、ということになります。
症状固定と診断され、後遺症が残ってしまった場合には、医師に「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」(以下「後遺障害診断書」とします)を書いてもらいます。
この後遺障害診断書にどう書かれるかが、とても重要です。
後遺障害診断書と、その他の医学的な資料を提出して、後遺障害等級認定に進むことになります。
ところで、治療の途中で保険会社の担当者から、「もう症状固定なので、治療を打ち切りますよ」と言われることもあります。
しかし、この言葉に従う必要はありません。
あくまで、保険会社として「これ以上は治療費を払いませんよ」という保険会社の判断です。
症状固定は、治療を続ける必要があるかどうか、という医学的な判断ですので、医師と相談のうえ、症状固定の時期を決めていくことになります。
治療費が払われない部分は、仕方がないので、被害者が立て替えておき、後日の示談交渉の際に請求していくことになります。
交通事故における後遺障害等級認定の申請方法
次に、後遺障害等級認定の申請方法ですが、これには2種類あります。
「事前認定」と「被害者請求」の2つです。
後遺障害等級の事前認定とは、交通事故の加害者が加入している任意保険会社を通して後遺障害等級を申請する方法です。
自動車保険は、強制保険である自賠責保険と、任意で加入する任意保険がありますが、任意保険会社は任意一括払いサービスとして、任意保険会社の負担分の損害賠償額と、本来自賠責保険で支払われるべき損害額を被害者に一括して支払う方法を採用しています。
任意保険会社が一括払いを行う場合は、被害者に賠償金額を支払った後で、自賠責保険金分を請求することになりますが、もし自賠責保険の支払の対象にならない部分まで任意保険会社が支払ってしまうと、任意保険会社が損をしてしまいます。
そこで、被害者の後遺症が、自賠責保険のどの後遺障害等級に該当するかどうかを自賠責保険に事前に確認しておくことが必要になるのです。
このように、任意保険会社が示談解決の前に後遺障害等級が何級に該当するかを確認するという意味で、任意保険会社を通して申請することを事前認定というのです。
事前認定のメリットは、後遺障害等級の申請手続を加害者の任意保険会社が行ってくれるので手続きが楽であるということです。
デメリットは、保険会社が主導で行うため、どのような書類が提出されているのかなどが把握できなかったり、提出書類に不足があったために正しい後遺障害等級が認定されない場合があったりすることです。
交通事故の損害賠償額は、認定された後遺障害等級を基に算定されますので、低い後遺障害等級しか認定されなかったり、そもそも後遺障害はないとして後遺障害等級が認定されなかったりした場合には、損害賠償額が本来もらえる額より少なくなってしまう可能性があるので要注意です。
被害者請求とは、被害者が加害者の加入している自賠責保険会社に直接後遺障害等級を申請し、後遺障害等級の認定を受ける方法をいいます。
加害者の加入している自賠責保険会社に連絡をして、「被害者請求をしたいので、必要書類を一式送ってください」とお願いして、後遺障害等級認定に関する被害者請求に関する資料一式を送ってもらい、そこに書かれている方法に従って必要書類を自賠責保険会社に提出します。
主な必要書類は以下のとおりです。
•支払請求書兼支払指図書
•交通事故証明書
•交通事故発生状況報告書
•診断書
•診療報酬明細書
•通院交通費明細書
•休業損害証明書
•印鑑証明書
•委任状(被害者本人が請求できないとき)
•自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書
•レントゲン、MRI画像等
•その他症状を裏付ける検査結果や意見書等の医学的な資料
後遺障害等級における被害者請求のメリットは、被害者が直接やり取りをするので、手続きの流れや提出する資料などを被害者が把握することができることです。
また、後遺障害等級が認定されれば、等級に応じた損害賠償金が自賠責保険会社から被害者に直接支払われますので、最終的な示談の前にまとまった金額を受け取ることができます。
デメリットは、被害者が自分で請求を行うので、提出する資料を集めたり、直接損害調査事務所とやり取りをしたりと手続に手間がかかることです。
また、後遺障害等級の審査は、基本的に提出された書類のみで審査され、提出していない書類はないものとして扱われるため、医学的な知識がないと資料不足や検査不足などが起こる可能性があります。
これらメリットデメリットをよく検討したうえで、どちらの手続を選択するか、決めるようにしましょう。
後遺障害等級が認定されるためには
後遺障害等級が認定されるためには、後遺障害等級の認定システムについての理解が必要です。
自分のどの部位の、どのような症状が、後遺障害等級表の何級何号に当てはまる可能性があるのかを把握することです。
そして、その等級が認定されるために必要な医学的な資料を集めることです。
自分で自覚している症状のことを「自覚症状」といいます。
その自覚症状を証明する検査結果や画像など医学的な資料からの医師の所見のことを「他覚所見」といいます。
後遺障害等級が認定されるためには、この自覚症状と他覚所見、画像などが整合していることが必要となります。
たとえば、腰椎捻挫で腰の痛みや足のしびれなどの自覚症状が残った場合、神経症状の後遺症として、14級9号の「局部に神経症状を残すもの」、あるいは12級13号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に当てはまる可能性がありますが、後遺障害診断書に、「腰椎捻挫」等の診断名と、腰の痛み等の自覚症状が書いてあるだけでは、後遺障害等級は認定されません。
後遺障害等級12級13号と14級9号の違いは、その症状が医学的に証明できているかどうかです。
したがって、後遺障害等級12級13号が医学的に証明できた場合、14級9号が医学的に証明できたとまではいえないが、医学的に推定できる場合ということになります。
12級13号に認定されるためには、MRI画像で神経根の圧迫等が確認でき、神経学的検査で画像と整合性のある個所に陽性の結果が出ていることが必要です。
そして、症状と他覚所見、画像などにより症状が医学的に証明されることが必要ですので、これらの所見や検査結果が後遺障害診断書に記載されている必要があります。
後遺障害等級14級9号に認定されるためには、画像や神経学的検査では証明できないけれども、怪我をしたときの状態や治療の経過、自覚症状の経過等から継続性、一貫性があり、症状が事故による怪我が原因であることが医学的に推定できることが必要です。
そうなると、それらを医学的に推定できるような後遺障害診断書や診断書等を提出しなければなりません。
医師は診断、治療をするのが専門であり、後遺障害等級認定を受けさせることが専門ではありません。
したがって、医師は、後遺障害等級認定がされるための検査や書類を積極的に書いてくれるわけではない、ということを知っておきましょう。
交通事故で後遺障害等級認定が間違っていたときは
後遺障害等級の申請をした場合、書類不備がなければ通常1~2ヵ月で審査の結果が送られてきます。
重傷の場合や、高次脳機能障害など難しい判断の場合には、半年程度かかる場合もあります。
後遺障害等級の審査は、損保料率機構が行っていますが、後遺障害等級認定の結果は、事前認定で申請した場合には加害者の任意保険会社から、被害者請求で申請した場合には申請先の自賠責保険会社から送られてきます。
後遺障害等級認定の結果が送られてきたときには、その内容を精査し、正しい後遺障害等級認定がされているかどうかを確認することが必要です。
なぜなら、交通事故の慰謝料など損害賠償金額は、後遺障害等級に応じて計算する仕組みになっており、後遺障害等級が間違っていると、賠償金が数百万円や数千万円も違ってくることがあるからです。
したがって、後遺障害等級認定の結果が来たときには、その認定が正しいかどうか確認するため、必ず交通事故に精通した弁護士に確認するようにしてください。
注意が必要なのは、弁護士なら誰でもよい、というわけではないことです。
後遺障害等級認定が正しいかどうかを判断するためには、法律知識だけでは不十分です。
医学的知識、後遺障害等級認定判定基準の知識、仕組みなどの深い知識が必要なので、できるだけ交通事故に精通した弁護士を探すようにしてください。
後遺障害等級認定に対する異議申立
もし、弁護士に相談して、後遺障害等級認定が間違っていたときは、「異議申立」をして、正しい後遺障害等級を認定し直してもらうことが必要です。
後遺障害等級の異議申立とは、損保料率機構に対して、異議申立書等の書類を提出して、再度後遺障害等級の申請をすることです。
異議申立書のポイントは、審査結果の理由等をよく読んで、なぜ後遺障害等級が認定されなかったか、あるいは認定されているとしても自分が目指していた後遺障害等級よりも低い等級になってしまったのはなぜかをよく検討し、その理由を覆すような新たな医学的な資料を提出するとともに、積極的な主張をすることです。
たとえば、後遺障害等級が認定されなかった理由が、「他覚的所見に乏しい」ということであれば、他覚的所見を立証するため、新たな検査結果や画像、医師の診断書、意見書等の書面を提出しなければなりません。
異議申立をするには、後遺障害等級に関する審査基準を熟知し、それを立証するための医学的検査を認識したうえで、医証を集める必要がありますので、やはり交通事故に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。