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相続の効力(相続法改正)

最終更新日 2019年 02月11日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

権利の承継に関する対抗要件主義の採用

特定遺贈の場合には、所有権の移転を第三者に対抗するには、対抗要件を具備する必要があります(最高裁昭和39年3月6日判決、民法百選Ⅲ73)。

ただし、遺言執行者がいる場合には、受遺者は登記その他の対抗要件を具備することなしに、第三者に対抗することができる、とされています。

これに対し、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)による不動産の権利の取得について、最高裁は、登記なくして第三者に対抗することができるとしています(最高裁平成14年6月10日判決、百選Ⅲ74)。

しかし、これでは、遺言の内容を知り得ない第三者の取引の安全を害するとともに、登記制度に対する信頼も害される、との指摘がありました。

そこで、改正相続法では、次のとおり、相続による権利の承継については、対抗要件主義を採用しました。

①相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない(民法第899条の2第1項)。

②①の権利が債権である場合には、法定相続分を超えて債権を承継した相続人(遺言執行者も)が、遺言の内容(遺産分割の場合には遺産分割の内容)を明らかにして債務者に承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなす(同条2項)。

民法第899条の2の規定については、施行前に開始した相続に関して、同日以後に承継の通知がされるときにも適用されることとされています(附則第3条)。

義務の承継

債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じて債務を承継します(最高裁昭和34年6月19日判決、民法百選Ⅲ62)。

相続人間においては、1人に対して「全部を相続させる」旨の遺言がある場合には、遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り、相続人の間では、当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務を全て承継することになります(最高裁平成21年3月21日判決、民法百選Ⅲ87)。

しかし、このような遺言による相続分の指定は、債権者の関与なくされるものですから、遺言による相続分の指定は、債権者に対抗できません。

したがって、債権者は、各相続人に対し、法定相続分に従った相続債務の履行を請求することができます。

ただし、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し、指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは可能です(最高裁平成21年3月21日判決、民法百選Ⅲ87)。

そこで、改正相続法では、これら裁判例を整理し、次のように定められました(民法第902条の2)。

①相続分の指定がなされた場合であっても、相続債権は、各共同相続人に対して、その法定相続分の割合でその権利を行使することができる。

②相続債権者が共同相続人の一人に対して指定相続分の割合による義務の承継を承認したときは、各共同相続人に対して、その法定相続分の割合でその権利を行使することはできず、その指定相続分の割合でその権利を行使することができる。

遺言執行者がいる場合の相続人の行為の効力

遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務があります(民法第1012条1項)。

そして、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることができません(民法第1013条)。

判例では、この規定に違反して、相続人が相続財産を処分した場合には、その処分行為は無効とされていました(大審院昭和5年6月16日判決、民集41巻3号474頁)。

この場合には、受遺者は、登記なくして第三者に対抗することができることとなります。

しかし、改正相続法では、この場合の効力を次のとおり修正しています。

①遺言執行者がいる場合には、相続財産の処分その他相続人がした遺言の執行を妨げるべき行為は無効とする。

ただし、善意(遺言執行者がいることを知らないこと)の第三者に対抗することができない。

②①は、相続債権者または相続人の債権者が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

この規律は、2019年7月1日より施行されます。

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