麹町道草日和
ちょっと一息。みらい法律事務所の所属弁護士によるコラムです。

絶滅危惧種「スーツ・ネクタイ族」

私は、弁護士になってからずっと、「ダークスーツに長袖の白いワイシャツ、ネクタイ着用」のスタイルを夏でも仕事では通しています。

困ったのは最近の「クールビズ」です。9割以上のビジネスマンが、5月から9月まで、ネクタイはもちろん着けない、上着も着ない。私にはこのレベルの服装は「今こんなだらしない格好ですが、健康診断を受ける準備なので、ちょっと勘弁して下さい」というメッセージしか感じられません。

「万人向けのビジネス社会の制服」としての「スーツ・ネクタイ」というスタイルは、20世紀初頭のアメリカのビジネスシーンから世界に広がって一般化したようです。ダークスーツにネクタイ、これでないと私は「鎧も着けず戦場に臨む武士」のような不安な気分になってしまいます。

三島由紀夫は、Tシャツは鍛えた肉体でなければ似合わないが、スーツはデブでもチビでも、どんなひどい体形でも、誰でも格好がつく服装だ、と述べていました。スーツさえ着れば、どんな貧弱な肉体の持ち主でも「様になっている」と認めてもらえるんですから、こんな便利な「制服」はありません。現代社会が産みだした「服装の叡智」だと思います。

スーツにはネクタイが欠かせません。そしてワイシャツを無地の白色にすれば、ネクタイの色は青色系でも赤色系でも、ダークスーツなら大概どんなの色でも違和感は生じません。

村上春樹のエッセーに「世界で一番選ぶのが難しいプレゼントがネクタイで、一番もらうのもネクタイだ。どうしてかな。」というのがありました(「村上ラジオ3」新潮文庫)。
相手の好みと普段の服装、似合うどうかなど、色や柄の選択を考えて尽くしてネクタイを選んでも、貰った本人が「これが欲しかったんだ」と焦点がぴったり合うのは奇跡のようなものでしょう。

村上さんも、好みでないネクタイをもらって、着けたくはないが、着けないわけにもいかないと悩んだんでしょう。
私は、自分では選ばない赤色系のネクタイも、贈られたものは喜んでつけます。ネクタイは「制服の一部としてのネクタイ」の役割をはみ出さなければそれで十分です。

クールビズで「様になる」服装をアレンジするのは、私には至難の業に思えます。
どうすればネクタイ無しに、シャツだけで「みっともなくない」服装にできるのか、上着やズボンはどうしようか。そう悩むくらいなら、真夏も汗をかきながらスーツ・ネクタイで通そうと思います。

そうなると迷惑なのはアソシエイツ弁護士でしょう。
ボスの私がスーツ・ネクタイなのに、その隣にノーネクタイで座って居られると、返ってアソシエイツの方が偉そうに見えます。当然彼らも、来客時には上着はもちろんネクタイも着用です。

アソシエイツは、普段はネクタイを外して執務していながら、来客時にだけネクタイを着けようとするので、もたもたする。
私は常時着用ですから、イライラしながら「戦闘が始まってから鎧を着けるようなものだ」と嘆く、夏はその繰り返しが続きます。

亜熱帯化して行く日本では、夏のスーツ・ネクタイ姿はもはや「絶滅危惧種」ですが、滅びるには忍びない「服装の叡智」だと思います。

「スーツ・ネクタイ」にこだわる私の「保護活動」に、ぜひご理解を。