今回は、相続税申告において、相続人が意思無能力者であった場合に、当該相続人に関する相続税申告期限はいつか、について判断した最高裁判決をご紹介します。
最高裁平成18年7月14日判決(TAINS Z999-5089)です。
これは、意思能力のない相続人に代わって相続税申告・納税をした他の相続人が、意思能力のない相続人に対して、事務管理に基づく費用償還請求をした、という事案です。
(当該修正申告が法律上有効かどうかを判断したわけではなく、あくまでも事務管理に基づく費用償還請求が認められるか、という事案であって、修正申告が有効かどうかは別問題です。)
この事案において、最高裁は、次のように判示しています。
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・相続税法27条1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者について、納付すべき相続税額があるときに相続税の申告書の提出義務が発生することを前提として、その申告書の提出期限を「その相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内」と定めているものと解するのが相当である。
・「その相続の開始があったことを知った日」とは、自己のために相続の開始があったことを知った日を意味し、意思無能力者については、法定代理人がその相続の開始のあったことを知った日がこれに当たり、相続開始の時に法定代理人がないときは後見人の選任された日がこれに当たると解すべきである〔相続税法基本通達27-4(7)〕
・意思無能力者であっても、納付すべき相続税額がある以上、法定代理人又は後見人の有無にかかわらず、申告書の提出義務は発生しているというべきであって、法定代理人又は後見人がないときは、その期限が到来しないというにすぎない。
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この最高裁判決によると、
・意思無能力者にも相続税の納税義務が発生している。
・意思無能力者に相続開始の時に法定代理人がないときは後見人の選任された日が相続税申告書の提出期限の起算点である「相続の開始があったことを知った日」に該当する。
ということになります。
したがって、相続人が意思無能力の場合には、「原則として」成年後見人を選任すると、選任された日が相続税申告書の提出期限の起算点である「相続の開始があったことを知った日」に該当するので、そこから10ヶ月以内に相続税申告をする、ということになります。
では、意思能力を喪失した人の親族から、当該意思無能力者の税務申告を依頼された場合、税理士は申告代理をすることができるでしょうか。
そのような事態に直面した場合は、【税理士を守る会】からご相談ください。


