今回は、税務調査における虚偽答弁と重加算税の関係です。
たとえば、所得税の税務調査において、調査官から、「事業収入が入金される他の預金口座はありませんか?」と質問され、実際には他の口座があるにもかかわらず、「ありません」と回答したとします。
しかし、その後の調査で、別口座にも事業収入が入金されていることが明らかになり、その分が収入から漏れていました。
この場合、調査官は、虚偽答弁があったとして、重加算税の指摘をしてくることが多いと思います。
税理士としては、「仕方ない」と思うかもしれませんが、精査が必要となります。
通達は、以下のとおりです。
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「申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」
第1 賦課基準
(隠蔽又は仮装に該当する場合)
1(8)
調査等の際の具体的事実についての質問に対し、虚偽の答弁等を行い、又は相手先をして虚偽の答弁等を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること。
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後半部分に注目して欲しいのですが、「その他の事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること。」と記載されています。
ポイントは、
・虚偽答弁「及び」その他の事実関係を総合的に判断することが必要であること。
・「申告時」における「隠蔽又は仮装」が合理的に推認できること。
です。
つまり、虚偽答弁だけでは、重加算税の賦課要件を満たさない、ということになります。
申告時における隠蔽又は仮装が必要なことについて、最高裁判決に以下のようなものがあります。
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(1)各確定申告の時点において、真実の所得金額を隠ぺいしようという確定的な意図を持っており
(2)必要に応じ事後的にも隠ぺいのための具体的工作を行うことも予定して、
(3)会計帳簿類から明らかに算出し得る所得金額の大部分を脱漏し、所得金額を殊更過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出した
というような事情が認められる場合には、重加算税の賦課要件を満たすことになる
(最高裁平成6年11月22日判決)。
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納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、重加算税の右賦課要件が満たされる(最高裁平成7年4月28日判決)。
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したがって、税務調査における虚偽答弁があった場合には、その他の事実関係を含め、「申告時に隠蔽又は仮装」があったと認定できるかどうかを検討しなければなりません。
過去の裁判例・裁決例においては、以下のようなものがあります。
・所得税の税務調査において、調査に非協力、かつ、預金口座があるのに「ない」と回答した事例について、重加算税賦課決定を取り消した裁判例(横浜地裁昭和53年3月13日判決)
・調査担当職員から証券会社との取引はなかったか、と問われ、請求人らは、「知らない」と回答し、実際には取引があったことに加え、関係メモを破棄したが、事例について、重加算税賦課決定を取り消した裁決例(平成28年3月20日裁決)
・相続税の税務調査で、調査の際、担当職員の「申告したE社の株式86株以外にはありませんでしたか。」との質問に、請求人は、配当の通知書で確認したので他の株はないと思う旨、虚偽の答弁を行った事例で、重加算税賦課決定を取り消した裁決例(平成23年5月11日裁決)
税務調査における虚偽答弁で重加算税の主張をされることは多いと思いますが、虚偽答弁だけでは重加算税の賦課要件を満たさず、あくまで「申告時」において隠蔽又は仮装があったかどうかに論点を集中させるようにしましょう。