相続税における各種控除について
※以下は、2019年1月1日時点の法令に基づいています。
●基礎控除
相続税法における遺産の基礎控除額は、次の計算式で計算した金額です(相続税法第15条1項)。
3000万円+(600万円×法定相続人の数)=遺産にかかる基礎控除額
但し、養子がある場合には制限があり、基礎控除の計算においては、養子の数は、次のように計算します。
①被相続人に実子がある場合は、養子が2人以上いても1人として計算する。
②被相続人に実子がない場合は、養子の数が3人以上でも2人として計算する。
但し、次の場合には、養子であっても、実子として計算することになります(相続税法第15条3項、相続税法施行令第3条の2)。
①特別養子縁組の場合
②被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子になった者
③被相続人の配偶者と特別養子縁組による養子になった者で、被相続人とその配偶者との婚姻後に被相続人の養子になった者
④相続人の養子で代襲相続人の地位を兼ねる者
なお、相続税法第63条では、養子の数を基礎控除における相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで計算することができるとしています。
基礎控除額を増額させるための節税策として、税理士の助言に従い、養子縁組をした事案において、民法第802条1号「縁組をする意思がないとき」に該当し、無効ではないか、が争われた裁判例があります。
この事案において、最高裁平成29年1月31日判決(百選Ⅲ第2版38)は、「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人となるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。
相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。
したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」と判示しました。
●配偶者控除
被相続人の配偶者については、その課税価格が、課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額までの場合、または、1億6000万円以下である場合、には、税額が控除され、相続税額は課されません。
これを「配偶者に対する相続税額の軽減」といいます(相続税法第19条の2第1項)。
ただし、隠ぺい仮装行為に基づいて相続税の申告をしたり、申告をしなかったり、という場合には、その隠ぺい仮装行為による部分については、税額軽減は適用されません(同条第5項、6項)。
配偶者に対する相続税額の軽減は、申告期限までに遺言や遺産分割によって配偶者が実際に遺産を取得したものに限って適用され、未分割の財産については適用されないのが原則です。
この場合には、配偶者に対する相続税額の軽減を受けずに相続税を一旦納付し、その後申告期限から3年以内に遺産分割等により配偶者の取得財産が確定したときは、確定した日の翌日から4ヵ月以内に更正の請求を行うことになります(相続税法第32条1項1号)。
申告期限から3年以内に遺産分割をすることがやむを得ず困難な場合は、その旨を記載した承認申請書を申告期限から3年を経過する日の翌日から2ヵ月以内に税務署長宛に提出し、その承認を得ておく必要があります(相続税法第19条の2第2項、相続税法施行令第4条の2第2項)。
未分割の場合の承認申請書を提出しなかったことについて、税理士の説明義務違反および任務懈怠に基づく損害賠償請求がされた事案があります。
東京地裁平成15年9月8日判決(TAINS Z999-0083)です。
この事案では、裁判所は、依頼者は弁護士の紹介で税理士に委任することになったところ、弁護士解任とともに遺産分割経過を税理士に報告しなくなってしまったことから、税理士が遺産分割が3年以上かかることまで予想して説明することを要求するのは酷であるとして説明義務を認めませんでした。
しかし、このような紛争が予想されることからすると、契約時または申告時において、上記取扱を説明する文書を交付し、受領印を得ておくことが望ましいでしょう。
また、東京地裁平成7年11月27日判決(TAINS Z999-0019)は、相続税の財産評価を誤るとともに、配偶者に対する税額軽減を適用せずに相続税申告書を作成、提出した事例についての判決です。
この判決では、税理士は、「税務の専門家として、租税に関する法令、通達等に従い、適切に相続税の申告手続をすべき義務を負うことはもちろん、納税義務者たる」依頼者の「信頼にこたえるべく、相続財産について調査を尽くした上、相続財産を適切に各相続人に帰属させる内容の遺産分割案を作成、提示するなどして、」依頼者に「とってできる限り節税となりうるような措置を講ずべき義務をも負う」と判示しています。
●未成年者控除
相続または遺贈により財産を取得した者が、被相続人の法定相続人で、かつ、未成年者である場合には、その者の計算した税額から満20歳に達するまでの年数の1年につき10万円を乗じた金額を控除します(相続税法第19条の3)。
以下の計算式となります。
10万円×(20歳-未成年者の年齢)=未成年者控除額
端数は、1年として計算します
たとえば、19歳4ヵ月の者の場合には、次のようになります。
20歳-19歳4ヵ月=0年8ヵ月→1年
未成年者控除が適用されるのは、次の者です。
①制限納税義務者でないこと
②被相続人の法定相続人であること
③20歳未満であること
●障害者控除
相続または遺贈により財産を取得した者が、被相続人の法定相続人で、かつ、85歳未満の障害者である場合には、その者の計算した税額から満85歳に達するまでの年数の1年につき10万円(特別障害者は20万円)を乗じた金額を控除します(相続税法第19条の4)。
以下の計算式となります。
10万円×(85歳-障害者の年齢)=障害者控除額
(特別障害者の場合)
20万円×(85歳-障害者の年齢)=障害者控除額
障害者とは、精神または身体に障害のある者で一定の者をいいます。
特別障害者とは、障害者のうち、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にある者など、精神または身体に重度の障害がある者で一定の者をいいます。
障害者控除が適用されるのは、次の者です。
①居住無制限納税義務者または相続税法の施行地に住所を有する特定納税義務者であること
②被相続人の法定相続人であること
③85歳未満であること
④障害者または特別障害者であること
●その他の相続税法上の控除
10年以内に2回以上相続が開始し、相続税が課せられる場合には、前回の相続につき課せられた税額の一定割合相当額を、後の相続の際の相続税額から控除する制度があります。
これを相次相続控除といいます(相続税法第20条)。
相続または遺贈により外国の財産を取得した場合に、外国の法令により相続税に相当する税が課せられたときは、その課せられた金額を相続税額から控除する制度があります。
これを在外財産に対する相続税額の控除といいます(相続税法第20条の2)。