相続税は、誰が払うのか?
※以下は、2019年1月1日時点の法令に基づいています。
相続税の納税義務者は、原則として、相続もしくは遺贈により財産を取得した者または被相続人からの贈与について相続時精算課税制度の適用を受けた個人です(相続税法第1条の3)。
相続税の申告書は、被相続人の死亡の時における住所が日本国内にある場合は、被相続人の住所地を所轄する税務署長に提出することとなります。
相続税の納付期限については、期限内申告書を提出した者は、申告書の提出期限であり(相続税法第33条)、期限後申告書または修正申告書を提出した者は、それらの申告書を提出した日となります(国税通則法第35条2項1号)。
相続税の納付については、現金納付が原則ですが、一時に納付することが困難な場合は、延納制度(相続税法第38条~40条)および物納制度(相続税法第41条~48条の3)が設けられています。
延納が許可されるための要件は、次のとおりです。
①申告・更正又は決定による納付すべき相続税額が10万円を超えること。
②金銭納付を困難とする事由があること。
③必要な担保を提供すること(ただし、延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合は不要です)
④相続税の納期限又は納付すべき日までに延納申請書を提出すること。
相続税申告業務を受託した税理士について、「相続税の納付がいつ必要であるのかを相続人に説明し、その納付が可能であるかどうかを確認し、これができない場合には、延納許可申請の手続をするかどうかについて意思を確認するのは、相続税の確定申告に付随する義務」であるとして、説明助言義務違反を認めた事例があります(東京高裁平成7年6月19日判決・判例時報1540・48頁)ので、注意が必要です。
可能であれば、書面で説明したことを証拠化しておきたいところです。
目次
納税義務者の種類
居住無制限納税義務者
相続又は遺贈により財産を取得した次に掲げる者であって、その財産を取得した時において日本国内に住所を有するものをいいます。
① 一時居住者でない個人
② 一時居住者である個人(その相続又は遺贈に係る被相続人(遺贈をした人を含みます。)が、一時居住被相続人又は非居住被相続人である場合を除きます。)
非居住無制限納税義務者
相続又は遺贈により財産を取得した次に掲げる者であって、その財産を取得した時において日本国内に住所を有しないものをいいます。
① 日本国籍を有する個人であって、(ア)その相続又は遺贈に係る相続の開始前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがあるもの、又は(イ)その相続又は遺贈に係る相続の開始前10年以内のいずれの時においても日本国内に住所を有していたことがないもの(その相続又は遺贈に係る被相続人(遺贈をした人を含みます。)が一時居住被相続人又は非居住被相続人である場合を除きます。)。
② 日本国籍を有しない個人(その相続又は遺贈に係る被相続人(遺贈をした人を含みます。)が一時居住被相続人、非居住被相続人又は非居住外国人である場合を除きます。)。
但し、平成27年7月1日以降に「国外転出時課税の納税猶予の特例」の適用を受けていたときは、上記と取り扱いが異なる場合があります。
制限納税義務者
相続又は遺贈により日本国内にある財産を取得した個人で、その財産を取得した時において、
(ア)日本国内に住所を有するもの(居住無制限納税義務者を除きます。)、又は(イ)日本国内に住所を有しないもの(非居住無制限納税義務者を除きます。)。
特定納税義務者
贈与により相続時精算課税の適用を受ける財産を取得した個人(上記無制限納税義務者及び制限納税義務者に該当する人を除きます。)。
●社団や財団、相続人が外国に住んでいるときの「一時居住者」、「一時居住被相続人」、「非居住被相続人」、「非居住外国人」の場合についての説明については割愛します。
平成30年度税制改正における相続税および贈与税の納税義務に関する内容
相続開始又は贈与の時において国外に住所を有する日本国籍を有しない者が、国内に住所を有しないこととなった時前15年以内において国内に住所を有していた期間の合計が10年を超える被相続人又は贈与者(この期間引き続き日本国籍を有していなかった者であって、相続開始又は贈与の時において国内に住所を有していないものに限ります。)から相続若しくは遺贈又は贈与により取得する国外財産については、相続税又は贈与税を課さないこととされました。
ただし、その贈与者が、国内に住所を有しないこととなった日から同日以後22年を経過する日までの間に国外財産を贈与した場合において、同日までに再び国内に住所を有することとなったときにおけるその国外財産に係る贈与税については、この限りではありません。
国籍の判例の誤りにより、税理士が損害賠償請求を受け、損害賠償責任が認められた事例として、東京地裁平成26年2月13日判決(TAINS Z999-0145)があります。
この事例は、相続税申告業務において、税理士は、相続人の1人が長期間アメリカ合衆国で生活していることから、アメリカ合衆国に帰化して日本国籍を喪失しており、制限納税義務者に該当する可能性があると考え、関係者に確認したところ、関係者からは、「確かにアメリカ合衆国の国籍を取得したが、日本国籍を放棄していないため、二重国籍である」と回答があったので、税理士は、これを前提に制限納税義務者ではないことを前提として、申告書を作成したものです。
ところが、本件では、国籍法によると、アメリカ合衆国の国籍を取得した時点で日本国籍を喪失していた、というものです。
この事例において、裁判所は、まず一般論として、「確かに、税理士は、税務に関する専門家であるから、一般的には租税に関する法令以外の法令について調査すべき義務を負うものではない」と述べて、一般的法令調査義務はない、と判示しましたが、相続税申告にあたっては、相続人が日本国籍を有しない制限納税義務者かどうか確認する必要があり、国籍を有するかどうかは国籍法が規定しているから、国籍法を確認する義務を負う、としました。
国籍法第11条1項は、「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。」と規定し、戸籍の記載の有無にかかわらず、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、何らの手続を要せずに当然に日本国籍を失うこととなります。
相続税額2割加算
相続または遺贈によって財産を取得した者が、その相続または遺贈にかかる被相続人の一親等の血族、配偶者以外の者である場合には、その者について算出された相続税額に対して2割を加算します(相続税法第18条1項)。
この一親等の血族には、被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となっている場合を含まないこととされています(同条2項)ので、孫やひ孫と養子縁組にすることにより、2割加算を潜脱することはできません。
連帯納付義務
相続税および贈与税においては、自己が取得した財産にかかる相続税または贈与税だけでなく、他人にかかる相続税または贈与税について連帯して納付する義務がある場合があります。
これを連帯納付義務といいます。
連帯納付義務を負担するのは、以下のような場合です。
(一)相続人または受遺者が2人以上ある場合は、その相続または遺贈により取得した財産に係る相続税について、その相続または遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として連帯納付義務があります(相続税法第34条1項)。
(二)相続税または贈与税の申告をすべき者が、これらの申告書を提出する前に死亡した場合で、その者の相続人または受遺者が2人以上いるときは、これらの者は、被相続人の納付すべき相続税または贈与税について、相続または遺贈により受けた利益の価額に相当する金額を限度として、相互に連帯納付義務を負担します(相続税法第34条2項)。
(三)相続税または贈与税の課税価格の計算の基礎となった財産について、贈与、遺贈または寄付行為による移転があった場合は、その贈与もしくは遺贈により財産の取得をした者または寄付行為により設立された法人は、その贈与、遺贈または寄付行為をした者が納付すべき相続税または贈与税の額のうち、相続または遺贈を受けた財産の価額に対応する部分の金額について、その受けた利益の価額に相当する金額を限度として、連帯納付義務を負担します(相続税法第34条3項)。
(四)財産を贈与した者は、その贈与により財産を取得した者のその年分の贈与税額のうち、贈与した財産の価額に対応する部分の金額について、その財産に相当する金額を限度として、連帯納付義務を負担します(相続税法第34条4項)。
(五)ただし、申告期限から5年を経過した場合、延納の許可を受けた場合、納税猶予の適用を受けた場合は、連帯納付義務を負担しません(相続税法第34条1項1号~3号)。
(六)連帯納付義務を負担する者が、自己の負担部分を超えて連帯納付義務を履行した場合には、当該部分の納税義務を免れた相続人または受遺者に対し、求償権を取得します。
この場合、求償権を放棄したり、求償権を行使しないことで放棄したとみなされたりした場合には、贈与があったものとみなされる可能性があります(相続税基本通達8-3)。