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事業承継の前提として分散した株式を集約する方法(少数株主対策)

最終更新日 2019年 12月15日
監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠 監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠

株式集約の手順

会社を事業承継するということは、自分が行っている事業を、自分以外の者が行えるようにする、ということです。

そのためには、会社の支配権を承継しなければなりません。

株式会社の場合には、株主総会で役員を選任し、役員である取締役等が会社を経営していきます。

したがって、株式会社の場合には、株式を承継していくのが事業承継の基本型となります。

しかし、場合によって、株式が分散していることがあり、少数株主が存在することがあります。

少数株主がいるままで事業承継を行ってしまうと、後日、少数株主により株主総会が混乱したり、帳簿閲覧請求をされたり、場合によっては株主代表訴訟を提起されるリスクがあります。

そこで、事業承継を行う際には、分散してしまった株式を集約する手続を取ることが多くあります。

株式の集約方法については色々な方法がありますが、株式を集約するのは、どういう手順で行うことになるでしょうか。

株式の集約は、概ね次のように進んでいきます。


株主と各株主ごとの保有株式数の調査
    ↓
名義株の調査
    ↓
株式の集約

    

株主と各株主ごとの保有株式数の調査

まず、株主と各株主ごとの保有株式数の調査をするには、発行済み株式総数を確認します。

株主名簿が整備されていれば、株主名簿を確認すれば株主と各株主ごとの保有株式数が分かります。

株主名簿に記載されていないものが株主であると主張してきても、その氏名または名称及び住所が株主名簿に記載されていなければ会社に対抗することができません。会社法130条1項です。

株主名簿が作成されていない場合には、株式会社の履歴事項全部証明書等を確認し、発行済み株式総数を調査します。

そして、原始定款を確認して、設立時に誰が株主であったのかを確認し、その後の各種議事録等を調査し、合わせて株式会社の法人税確定申告書の中の別表2の記載を調査などします。

株主が死亡している場合には、当該株式の相続がどうなっているのかを調査することになります。

法定相続人に連絡をし、遺産分割がされているかどうか、株式については誰が相続したことになるのか、を聞き取り、遺産分割協議書等を確認できるのであれば確認させて貰います。

中には、名義の上では株主であっても、実際には他の人が株主であると言う場合があります。

それがいわゆる名義株の問題です。

    

名義株の調査

名義株とは、名義上の株主と真の株主とが一致していない場合の株式のことを言います。

平成2年の商法改正前は、株式会社を設立するのに、発起人が7人必要だったことから、名義だけを借りて設立する、ということが多く行われており、そのために名義株が生じています。

また、相続税対策として、名義を借りる、というようなことも行われています。

株主が誰かをどう認定するかについては、「他人の承諾を得てその名義を用い株式を引き受けた場合においては、名義人すなわち名義貸与者ではなく、実質上の引受人すなわち名義借用者がその株主となるものと解するのが相当である」(最高裁昭和42年11月17日判決)とされています。

そして、「実質上の引受人かどうか」は、次の要素を総合考慮します。

・誰が払い込み代金を出捐したか

・誰が実質的に株主となる意思があったか

・株主権を行使したか(株主総会への参加、配当の受領等)

・経営に参加する意思と行動はあったか

上記を調査するために、銀行預金口座、各種議事録、各関係者への聞き取りなどを実施します。

名義を借りた後、長年経過している場合には、取得時効によって所有者が変更していないかどうかも確認します。

民法は、次のように規定しています。

取得時効の要件(民法163条)
「所有権以外の財産権を、自己のためにする意思をもって、平穏に、かつ、公然と行使する者は、前条の区別に従い20年又は10年を経過した後、その権利を取得する」

(民法162条)
1.20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2.10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

実際、過去の裁判例において、被相続人が実質所有していた名義株について、名義人であった相続人が株を時効取得したとされた判例(東京地裁平成21年3月30日判決)があります。

この判例では、株主名簿に相続人の名が記載されていたこと、増資の際には、自ら引き受けたこともあったこと、株主総会に出席して議決権を行使していたこと、利益配当を受領していたことなどを理由として、初めは名義貸しであったが、自分のものとして、平穏、公然に株主として行動していると認定し、20年の経過をもって時効取得したと判断しました。

以上のような調査の結果、名義株であると認定した場合には、当該株式が名義株であるという名義人と真の株主との間の「確認書」を作成しておきます。

同時に、認定するにあたって収集した証拠を保管しておく必要もあります。

    

株式の集約

株主と株式数を確認したら、いよいよ株式を集約していくことになります。

上場会社の場合には、市場取引や公開買い付けの方法によって株式を取得することができますが、非公開会社の場合にはそのような手段が取れません。

まずは任意に他の株主から株式を買い取る方法を検討します。

オーナーが他の株主から個人として株式を買い取る場合、株券発行会社かどうか、株券発行会社だった場合には、株券が発行されているかどうか、確認します。

会社法128条は、次のように定めています。

1.株券発行会社の株式の譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ、その効力を生じない。ただし、自己株式の処分による株式の譲渡については、この限りでない。

2.株券の発行前にした譲渡は、株券発行会社に対し、その効力を生じない。

つまり、株券発行会社の場合には、株券を発行し、その株券を交付しないと、「効力を生じない」ということになります。これは、対抗要件ではないので、会社が認めても効力を生じないことになります。

したがって、この場合には、速やかに株券を発行して、株式買い取りと同時に株券を受け取るか、株券不発行会社に変更しておくか、ということになります。

また、株式譲渡制限があれば、しかるべき機関の承諾を得る手続きを得る必要があります。

不特定の株主から株式を買い取る場合には、株主総会の普通決議が必要です。

しかし、特定の株主から株式を買い取る場合には、株主総会における特別決議が必要となります。

さらにこの場合、ミニ公開買い付けとして、他の株主も売主に加えるよう請求することができます。

なお、会社が買い取る場合には、財源規制があり、買い取れる株式に制限がありますので、事前に確認が必要です。

少数株主が株式を売ってくれないときには、強制的に少数株主を会社から締め出してしまう、いわゆるスクイーズアウトの手続きを行うことになります。

スクイーズアウトの手続きには、

①全部取得条項付種類株式を利用する方法

②株式併合を利用する方法

③株式等売渡請求を行う方法

などがあります。

オーナーが、90%以上の議決権を有している場合には、③の株式等売渡請求を行うことが簡便です。

なぜなら、株主総会を開く必要がないためです。

株式会社において、90%以上の議決権を有する株主のことを、「特別支配株主」といいます。

特別支配株主は、株主総会を開くことなく、他の全株主に対して、全ての株式を自分に売り渡すよう請求することができます。

これが、③の株式等売渡請求というものです。

①の全部取得条項付種類株式を利用する方法と②の株式の併合を利用する方法は、株主総会の特別決議が必要となります。

特別決議は、原則として、議決権を行使することのできる株主の議決権の過半数を有する株主が出席する株主総会で、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となる、ということです。定款で加重・軽減されている可能性もありますので、定款を確認するようにします。

平成26年の会社法改正により、株式併合を利用する制度が整いましたので、現在では、スクイーズアウトには株式併合が利用されるのが多いと思います。

株式併合というのは、数個の株式を合わせてそれよりも少数の株式にすることです。

たとえば、10株をもって1株とする、というようなことです。

これがなぜスクイーズアウトになるかというと、たとえば、全部で100株を発行している株式会社において、オーナーが80株を持っており、残りの少数株主が9株、8株、3株を持っている場合に、10株をもって1株に併合するとします。

この場合、オーナーは8株保有の株主になりますが、その他の少数株主は、1株に満たない端株となり、金銭処理されることになります。

つまり、オーナー以外の株主がいなくなる、ということです。

まとめ

以上のように、事業承継の前提として、株式を集約するには、株主と各株主が保有する株式数の的確な認定、株式を集約するための各種法的手続き等正確な法的知識が必要となります。

株主総会等の機関決定が行われて正しく行われていないような場合には、後日株主総会が取り消され、または無効になってしまう可能性もあり、紛争が発生することになります。

また、事業承継で株式を譲渡するには、税務上の考慮も必要となってきます。

したがって、事業承継を検討してる場合には、必ず弁護士と税理士に相談しながら進めていくことが必要となってきます。

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