Q12.賃貸建物の原状回復工事

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12.賃貸建物の原状回復工事

当社はアパート経営をしているA氏から、賃借人Bが出て行った後のリフォーム(原状回復)工事を請け負いました。そのときA氏から次のような相談を受けました。賃借人Bはアパートの使い方が悪く、フローリングは傷だらけ、壁にはピンや釘の穴が空いており、クロスはタバコのヤニで黄ばみ、天井の照明器具は違うものに取り替えてしまったため、おかしな跡がついた。賃貸借契約書には、「原状回復費用は賃借人の負担とする」と明記されているが、Bは、そんなものは大家の負担だと言って、原状回復費用を支払ってくれない。こういう場合は、どうしたらよいのか。このような問題についてのアドバイスも当社の営業につなげたいと思いますので、是非とも教えてください。

国土交通省のガイドライン

原状回復をめぐるトラブルは非常に多く、簡易裁判所における裁判のうち半分以上は原状回復と敷金に関するものだそうです。このようなトラブルが絶えないため、国土交通省は、原状回復に関するガイドラインを制定しています。以下、その内容をご説明しますが、より詳細に知りたい場合には、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」((財)不動産適正取引推進機構 発行)をご参照下さい。
同ガイドラインによれば、建物の損耗等を、(01)経年変化(建物等の自然的な劣化、損耗)、(02)通常損耗(賃借人の通常の使用により生ずる損耗等)、(03)通常の使用を超える使用による損耗(賃借人の故意・過失、善管注意義務違反による損耗等。以下「異常損耗」と呼びます。)の3つに区分しています。そして、基本的には、原状回復費用のうち、経年変化及び通常損耗については賃貸人の負担、異常損耗については賃借人の負担という考えをとっています。これに基づいて、ご質問のケースを具体的に見ていくと、次のようになります。
フローリングの傷は、椅子等の家具の通常の使用による擦り傷であれば通常損耗ですので、原状回復費用は賃貸人の負担となります。これに対して、賃借人が物を投げて傷つけたようなものについては異常損耗ですので賃借人の負担となります。
壁のポスターやカレンダー等を貼るための画鋲やピンの穴は、それらが通常の生活において行われるものですから通常損耗となります。しかし、重量物を掲示するための釘、ネジ穴は、ピン等に比べて穴が深く、損耗の程度が大きいので、異常損耗と判断されることが多いと考えられます。
タバコによるクロスの黄ばみについては、喫煙自体は用法違反、善管注意義務違反には当らず、クリーニングで除去できる程度のヤニについては、通常損耗の範囲にあると考えられています。
天井の照明器具の跡については、もともと設置されている照明器具を取り替えてしまったのですから異常損耗と考えられます。

原状回復義務についての特約

以上は、賃貸借契約書において原状回復義務に関する規定がない場合の話です。ご質問の場合、賃貸借契約書に「原状回復費用は賃借人の負担とする」という特約があるため、これによってすべてを賃借人に負担させられるかということが問題となります。
契約自由の原則といって、どのような内容の契約を締結するかは、契約当事者が自由に決めることであって、それが暴利行為等に当らない限り、契約は有効であると考えられています。しかし、賃貸人は家賃や更新料をとっておきながら、経年変化や通常損耗について賃借人が費用負担しなければならないというのは暴利であり、そのような特約は無効とされるべきではないか、ということが問題とされています。
この点について、そのような特約は無効とした判例(伏見簡裁平成9年2月25日判決)もありますが、「畳表の取替、襖の張替、クロスの張替、クリーニングの費用を負担する。」という特約について、契約自由の原則から有効であるとした判例(東京地裁平成12年12月18日判決)もあります。私個人的には、通常の賃料、更新料を取りながら、経年変化の全部を賃借人の負担とすることは賃借人に酷であって、そのような特約は無効と考えますが、通常損耗であり原状回復費用も少額であるものについては、契約自由の原則から賃借人の負担としてよいと考えております。また、汚い状態で賃借したのに、返すときには賃借人の費用で取り替えなければならないというのは不合理ですので、どのような状態で賃借したかということも重要ポイントになるでしょう。
以上のとおり、必ずしも特約の文言どおりになるわけではなく、各事案ごとに賃借人に負担させられるかどうかを判断するしかないと思います。

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