
7.建築士の代願・名義貸し
建築確認申請しか行っていない場合でも、建物の瑕疵について責任を負いますか。
私は2級建築士ですが、建築業者から頼まれ木造2階建て建売住宅についての建築確認申請業務を15万円でお引き受けしました。ところが建築業者は、私が確認申請に提出した図面とは全く異なる建物を建てて、A氏に売却してしまいました。その建物は3階建てになっており、建蔽率、容積率がオーバーしているだけでなく、そのような建物であれば基礎をベタ基礎にしなければならないのに布基礎で施工したために、建物が不等沈下してしまいました。A氏は、建築業者だけでなく私に対しても設計者としての責任があるとして裁判を起こすと言ってきました。私は建築確認申請しか行っていませんが、それでも何か法的責任を負うのでしょうか。
A
建築士の義務
建築士法第18条によれば、建築士には次のような4つの義務があります。
建築士でなければできないこと
建築士がこのような責任を負うのは、建築は専門的であり素人では分からないこと、また一定の建物については建築士でなければ設計・工事監理ができないために建築士に頼まざるを得ないこと等によります。
建築基準法第5条の4、建築士法3条から第3条の3までには、建築士でなければ設計や工事監理ができない建物について規定しています。
例えば木造建物の場合、延べ面積が100㎡を越えるものを新築するときは1級建築士、2級建築士又は木造建築士でなければ、その設計又は工事監理をしてはならないとされていますし(建築士法第3条の3第1項)、高さが13m又は軒の高さが9mを越えるものは1級建築士でなければ設計、工事監理できないとされています(建築士法第3条第1項2号)。
そしてこれらの規定は、一定の規模の建物についてはそれに応じた資格をもった建築士しか設計・監理できないとすることによってその安全性を確保するためのものであり、強行規定と考えられています。
確認申請のみの場合でも責任を負う
そうしますと、建築士が建築確認申請において設計者・工事監理者として届出をした以上、その建築士が実施建物についても設計・監理業務を遂行する意思があったと考えるのが自然です。そして、たとえ実際には実施建物について設計・監理業務を請け負わなかったとしても、建築確認申請のとおりに建物が建築されるよう誠実に業務を行わなければならない義務があると判断されても止むを得ません。
判例でも、建築確認申請及び中間・完了検査の申請、立会しか請け負わなかった2級建築士に対して、「1級又は2級建築士は、建物の設計及び工事監理をする意思もないのに設計者・工事監理者として届け出ることは許されないのであって、建物の設計及び工事監理者として届け出た以上は、その業務を誠実に遂行すべき義務を負っているというべきである(建築士法18条1項参照)。」として、工事の瑕疵について建築業者と連帯して6000万円余りの損害賠償責任を認めたものがあります(大阪地方裁判所平成10年7月29日判決)。
これまでの判例は、建築士が実施建物の設計・監理にミスがあった場合にその責任を認めたものでしたが、この判例は実施建物については設計・監理をやっていないのに建築確認申請した建築士の責任を認めたもので、とても厳しい判例といえます。
名義貸し等について
このご質問は、いわゆる名義貸しや建築確認申請の代願に関するものです。
建築紛争の裁判をやっていますと、確認申請の図面と実施建物の図面とが異なり、確認申請図面は見たことがないし、申請した建築士にも会ったことがないというケースがよくあり、そのような場合は建築士にも責任があるのではないかという話になります。現実に関西方面においては、名義貸し等の問題について建築士の責任を厳しく追及していこうという動きがあり、前記判例もその流れによるものと思われます。
このように、気安く名義貸しや代願等を引き受けますと、後で重大な責任を負うことになりかねませんので、十分にご注意いただきたいと考えております。