特定商取引上の問題 総論
特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」とします。)は、訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引並びに業務提供誘因販売取引を特定商取引と定め、特定商取引を公正にし、購入者が受ける損害の防止を図ることによって、購入者の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的として定められたものです。
特定商取引法は、特定商取引について、書面交付義務や勧誘行為規制、広告規制等の規制を定めるほか、民事効としてクーリングオフ制度や不実告知等を理由とする取消権、損害賠償額の制限、中途解約権等を定めています。
特定商取引とは
まずは、特定商取引法の適用の対象となる取引の内容を確認しましょう。
ただし、以下の要件にあたるものであっても、一定の場合は適用が除外されますので注意して下さい。
- 訪問販売
訪問販売とは、販売業者等が、営業所等以外の場所において、売買契約を締結して商品や指定権利を販売し、又は有償の役務提供契約の締結をして役務を提供することをいいます。また、営業所等以外の場所において呼び止めて営業所等に同行させた上で売買契約を締結して商品等を販売するものを含みます。
- 通信販売
通信販売とは、販売業者等が、郵便やパソコン等の利用した電子商取引によって売買契約又は役務提供契約を締結して商品や指定権利の販売や役務を提供すること(なお、後述の電話勧誘販売による役務提供は除きます。)をいいます。 - 電話勧誘販売
電話勧誘販売とは、販売業者等が電話をかけて売買契約や役務提供契約の締結について誘引し、郵便等を用いて、売買契約を締結して商品や指定権利を販売し、又は役務提供契約の締結をして役務を提供することをいいます。 - 連鎖販売取引
連鎖販売取引とは、物品販売や役務提供の事業であって、再販売、受託販売若しくは販売のあっせんをする者を紹介料等の特定利益が得られることをもって誘引し、その者と商品代金や入会金等の特定負担を伴う物品販売や役務提供を行う取引をいいます。いわゆるマルチ商法における個々の取引がこの取引にあたることになります。
- 特定継続的役務提供
特定継続的役務提供とは、役務提供事業者が、政令に定められた特定継続的役務を、政令で定められた期間を超える期間にわたり提供し、相手方がこれに応じて、政令で定められた金額を超える金銭を支払うことを約する取引をいいます。具体的には、以下の取引が適用の対象となります。
特定継続的役務の種類 役務提供期間 役務に対する対価 エステティックサロン 1か月を超えるもの 5万円をこえるもの 語学教育 2か月を超えるもの 5万円をこえるもの 学習塾等 2か月を超えるもの 5万円をこえるもの 家庭教師等 2か月を超えるもの 5万円をこえるもの パソコン教室等 2か月を超えるもの 5万円をこえるもの 結婚情報提供 2か月を超えるもの 5万円をこえるもの - 業務提供誘引販売取引
業務提供誘引販売取引とは、業務提供誘引販売業者が、購入する商品や役務を利用する業務の提供をすることから収入等の利益が得られることをもって誘引し、その者と商品代金や加盟金等の特定負担を伴う物品販売や役務提供を行う取引をいいます。いわゆる内職商法やモニター商法がこの取引にあたることになります。
クーリング・オフ制度
通信販売を除く、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、特定継続的役務提供及び業務提供誘引販売取引については、クーリング・オフが原則として可能となっています。
クーリング・オフの行使期間の起算点は、後述の法令で定められた一定事項の記載のある契約書面の交付日となっており、契約書面の交付がない場合や、交付があったとしても記載に不備があったり虚偽記載があった場合には、クーリング・オフ期間が進行しないことになるので注意が必要です。
クーリング・オフの行使期間は、
- 訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供:8日間
- 連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引:20日間
とされています。
クーリング・オフの行使によって、契約は遡ってなかったものとして扱われますので、販売業者等は、相手方に対して代金等の請求をすることができませんし、代金等を既に受領している場合には全額を返還しなければなりません。
訪問販売
- 規制を必要とする理由
訪問販売は、店舗販売と比較して不意打ち性や密室性の高い販売方法であることから、消費者の保護を図るため、特定商取引法は一定の規制を設けています。また、同様に、キャッチセールスについても、街頭で突然呼び止められて事業者の営業所等で取引がされることから、訪問販売と同様の不意打ち性や密室性の高い販売方法であり、特定商取引上の規制の対象となります。
- 主な行為規制
訪問販売に対する主な行為規制としては、
①氏名、勧誘目的等の明示義務及び再勧誘の禁止
②一定事項の記載のある契約書面交付義務
③不当勧誘行為(不実告知、事実不告知、威迫・困惑行為等)の禁止
等があります。 - 過量販売解除制度
購入者にとって、その日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品、権利又は役務に関する契約については、契約締結の日から1年以内であれば、契約を解除することがでます。 - 損害賠償等の額の制限
訪問販売に関する契約の解除に伴う消費者の損害賠償額や、債務不履行があった場合の損害賠償額については、特定商取引法上の上限が定められており、消費者の保護が図られています。
通信販売
- 規制を必要とする理由
通信販売は、消費者がカタログやホームページ等の広告を見て、インターネット等の通信手段を用いて契約されることから、適正な広告表示を確保して消費者の保護を図るため、特定商取引法は一定の規制を設けています。 - 主な行為規制
通信販売の場合は、訪問販売等と比較すると、消費者が自発的に購入意思を形成して申込みをする取引ですので、以下のとおり広告の適正を確保するための規制が中心であり、書面交付義務や不当勧誘行為の禁止等の規制は存在しません。通信販売に対する主な行為規制としては、
①広告に記載すべき事項の規制
②誇大広告の禁止
③電磁的広告の受信拒否者に対する再送信の禁止
④前払での通信販売の場合の承諾等の通知義務
⑤消費者の承諾を得ずにする広告メールの禁止
等があります。
電話勧誘販売
- 規制を必要とする理由
電話勧誘販売は、勧誘手段が電話であり、その後も郵便等の通信手段を用いて契約が締結されることから、直接対面しないで契約が締結され、さらに通信販売以上に不意打ち性や匿名性が高い販売方法であることから、消費者の保護を図るため、特定商取引法は一定の規制を設けています。 - 主な行為規制
電話勧誘販売に対する主な行為規制としては、
①氏名、勧誘目的等の明示義務及び再勧誘の禁止
②一定事項の記載のある契約書面交付義務
③不当勧誘行為(不実告知、事実不告知、威迫・困惑行為等)の禁止
④前払での電話勧誘販売の場合の承諾等の通知義務
等があります。 - 損害賠償等の額の制限
電話勧誘販売に関する契約の解除に伴う消費者の損害賠償額や、債務不履行があった場合の損害賠償額については、特定商取引法上の上限が定められており、消費者の保護が図られています。
連鎖販売取引
- 規制を必要とする理由
連鎖販売取引の規制は、いわゆるマルチ商法を規制する趣旨で定められており、マルチ商法のような利益を得られるという幻惑性が高く、利益を得られる仕組みが複雑で、組織の破たん必至性により損失を被る可能性が極めて高いことから、消費者を保護するため、特定商取引法は一定の規制を設けています。 - 主な行為規制
連鎖販売取引に対する主な規制としては、
①氏名、勧誘目的等の明示義務
②不当勧誘行為(不実告知、事実不告知、威迫・困惑行為等)の禁止
③広告に記載すべき事項の規制
④誇大広告の禁止
⑤一定事項の記載のある概要書面及び契約書面の交付
⑥電磁的広告の受信拒否者に対する再送信の禁止
等の規制があります。また、連鎖販売取引の場合、連鎖販売取引の統括者のみならず、一般連鎖販売業者に対する規制が分けて規制されている点に特徴があります。
- 中途解約権
連鎖販売加入者は、クーリングオフ期間が経過した後であっても、理由を問わず、将来に向かって契約を解除することができます。そして、中途解約した場合の加入者の損害賠償額についても特定商取引法は上限を定めており、これらの規定に反し、消費者に不利な特約は無効とされています。
特定継続的役務提供
- 規制を必要とする理由
特定継続的役務提供は、その役務提供の内容や質、効果が客観的に判断できないにもかかわらず、長期間かつ高額な契約となることが多いことから、消費者を保護するため、特定商取引法は、政令により定められた取引について、一定の規制を設けています。 - 主な行為規制
特定継続的役務提供に対する主な行為規制としては、
①一定事項の記載のある概要書面及び契約書面交付義務
②不当勧誘行為(不実告知、事実不告知、威迫・困惑行為等)の禁止
③前払での特定継続的役務提供の場合の帳簿等の開示義務
等があります。 - 中途解約権
特定継続的役務提供では、長期間の契約が想定されているため、クーリングオフ期間が経過した後であっても、理由を問わずに、将来に向かって契約を解除することができ、解除に伴って一定の場合は商品購入契約も解除することができます。そして、特定継続的役務提供に関する契約が解除された場合の消費者の損害賠償額についても特定商取引法は上限を定めており、これらの規定に反し、消費者に不利な特約は無効とされています。
業務提供誘引販売取引
- 規制を必要とする理由
業務提供誘引販売取引は、事業者による業務提供が不確実であったり、そもそも仕組みとしての破たん必至性により損失を被る可能性が高いことから、消費者を保護するため、特定商取引法は一定の規制を設けています。 - 主な行為規制
業務提供誘引販売取引に対する主な行為規制としては、
①氏名、勧誘目的等の明示義務
②不当勧誘行為(不実告知、事実不告知、威迫・困惑行為等)の禁止
③広告に記載すべき事項の規制
④誇大広告の禁止
⑤一定事項の記載のある概要書面及び契約書面の交付
⑥電磁的広告の受信拒否者に対する再送信の禁止
等があります。 - 損害賠償等の額の制限
業務提供誘引販売取引に関する契約の解除に伴う消費者の損害賠償額や、債務不履行があった場合の損害賠償額については、特定商取引法上の上限が定められており、消費者の保護が図られています。
事業者の対策
まず、特定商取引法上の適用対象となる取引かどうかについて、適用除外とされる場合も多くありますので確認が必要です。
また、特定商取引法の適用となる取引を行う場合には、上記のように様々な行為規制があり、これらの規制に反した場合には、監督官庁による指示や業務停止命令等の行政処分がされたり、直接刑事罰が科されたりする場合があります。
したがって、特定商取引法の適用を受けるのか、受けるとしたら特定商取引法の行為規制に反していないかについては、一度弁護士のような専門家に相談することで、行政処分や刑事罰並びにそれらに伴う企業イメージの低下を未然に防ぐことが必要といえます。
また、前述のとおり、法定書面の交付がないと、クーリング・オフ期間が進行せず、解除がいつでも認められないこととなりますので、法定書面を消費者に交付する前に、交付書面の記載が法令の要求を満たしているかについても、弁護士のリーガルチェックを受けるべき事項といえるでしょう。