
長引く経済不況のなか、マンションもテナントもあまり高額な家賃設定はできなくなってきました。従前に高い家賃で入居していると、最近の家賃相場との差額がなんとかならないかと不満に思う賃借人が増えてきました。 賃料改訂紛争の増加 近時はオフィスビルの需給バランスが均衡化傾向にあるとはいえ、まだまだ一部だけの話であって、一般的には、賃料水準が下落し、テナントの経済状況が悪化したため、賃料改訂紛争が増加しました。
借地借家法32条(旧借家法7条)には次のように規定して、賃借人の借賃増減請求権を認めています。従って、冒頭のような状況下では、条件が満たされていれば、家賃の減額請求が認められることになります。32条(借賃増減請求権)
自動増額特約とは
賃料の改訂を定期的に行ない、改訂毎に定率で賃料増額を約束する特約です。いわゆるサブリース契約において、賃料保証特約、途中解約禁止特約などとともに特徴的な特約です。
自動増額特約の有効性
このような自動増額特約は、賃料改訂に関する紛争回避や賃料相場増減の際の公平なリスク分担という目的をもって設けられています。サブリースの場合の安定的賃料収入を確保する機能を果たします。従って、このような特約自体を直ちに無効とすることはできません。
特約があっても減額請求できるか
自動増額特約が有効であるとしても、まったく家賃の減額請求ができない訳ではありません。契約を締結した当時の事情とその後の事情の変化が大きくて場合には、減額請求が認められる場合もあります。
裁判例としては、減額請求を認めなかったものとして東京地裁平成8年3月26日判決(判例時報1579号110頁)があります。減額請求を認めたものとして、東京地裁平成8年6月13日判決(判例時報1595号87頁)、東京地裁平成8年10月28日判決(判例時報1595号87頁)、東京地裁平成9年6月10日判決(判例時報1637号59頁「契約締結後の経済事情に契約締結時において当事者が予測し得なかった前提となる事実を欠き、賃料自動増額特約をそのまま適用することが著しく不合理な結果となる場合には、事情変更の原則によって、賃料自動増額特約は効力を有しないことがある」)があります。
賃料減額が認められた場合、預託した敷金・保証金の一部返還請求は認められるでしょうか。敷金や保証金は、賃料の何ヶ月分と定められていることが一般的です。従って、一か月分の賃料の金額が減額されたから敷金や保証金の金額も減額になると考えることもできます。
この問題は、敷金・保証金をどのような性質をどのように考えるか(建設協力金、貸金、敷金、途中解約時の空室損料、権利金)、算定基準がどうなっているか、適正賃料への減額の際にどのような事情が考慮されていたかなどを総合的に考えて判断されることになります。
因みに、東京地裁平成8年10月28日判決(判例時報1595号87頁)の事案では、 賃料減額の際に敷金・保証金の運用利益の控除が考慮されていたという理由で、敷金・保証金の一部返還は認められませんでした。
2014/12/29(月) カテゴリー: