
テナントビルのワンフロアーを借りて会社の事務所に使っていましたが、裁判所から使用状況の調査を受けました。驚いて、ビルの不動産登記簿謄本を見てみると、裁判所の差押・競売開始決定の登記がされていました。この先、当社はビルから追い出されてしまうのでしょうか。預けた敷金や保証金はどうなるのでしょうか。
長引く不況に伴い、ビル・オーナーの経済的破綻という現象が増えてきました。しかも、財産であるビルを売ろうとしても、なかなか買手も見つからないのが実情です。そこで、ビル・オーナーの債権者が、債権回収のためにビルに付けた抵当権を実行することが増えてきました。抵当権の実行とは、裁判所に競売を申立を行なうことです。 このような場合、まず、正確な事実関係の確認を行なうことが大切です。少なくとも、ビルの登記簿謄本と賃貸借契約書を用意して、(01)抵当権設定の時期、(02)賃貸借契約の内容、(03)差押登記の時期を確認してください。
最初に、抵当権の設定登記と賃借人入居の先後を確認します。 賃借権を抵当権者に対して対抗できるかどうかという問題で、第1順位の抵当権の設定登記よりも先に入居したかどうかがポイントです。
抵当権設定登記よりも先に入居していた場合には、従前どおりの内容の賃借権を買受人にそのまま対抗できます。つまり、今までどおりの使用を継続することができるし、敷金・保証金の関係もそのまま維持されます。
入居時に既に抵当権設定登記があった場合には、賃貸借契約の期間が3年を超えるかどうかにより、買受人に対し賃借権を対抗できるかどうかの結論が異なります。
i. 賃貸借期間が3年以内の場合
賃貸借期間が3年以内の場合には、短期賃貸借(民法602条)に該当するため、その限度で賃借権を買受人に対抗できます。ただし、差押登記後は賃貸借契約の更新をすることができません。従って、買受人が代金を納付して所有権を取得するまでに期間が満了するかどうかで結論が異なってきます。
買受人が期間満了前に所有権を取得した場合は、期間満了まで賃借権を対抗でき、買受人に対して敷金や保証金の返還請求もできます。これに対して、買受人が期間満了後に所有権を取得した場合には、賃借権をまったく対抗することができず、買受人に敷金や保証金の返還請求もできません。
ii. 賃貸借期間が3年を超す場合
賃貸借期間が3年を超す場合には、賃借権をまったく対抗できなくなります。買受人に対して敷金・保証金の返還請求もできません。賃貸人(元オーナー)に対しては敷金・保証金の返還請求ができますが、差押を受けるほどの状況では現実に返還される可能性は低いでしょう。
iii. 賃貸借期間の定めがない場合
賃貸借期間の定めがない場合には、買受人はいつでも賃貸借契約の解約申入ができるますが、6ヶ月の解約申入期間を要します(借地借家法27条)。その間は、賃借権を抵当権者に対抗することができます。従って、解約請求を受けない限りずっと賃借権を行使できることになります。なお、賃貸借期間が定められていても、期間満了後に漠然と継続している場合も同様です。判例: 最高裁昭和56年7月17日判決(判例時報1014号61頁)等
1. 入居時のチェック
宅建業者の「重要事項説明書」における説明義務(宅建業法§35)不動産登記簿謄本の記載内容を確認しておく必要があります。
2. 事後対策
権利関係の正確な理解に努めるとともに、実関係を競売手続に正確に反映させるため、裁判所からの現況調査へ協力し、競売三点セットを閲覧して権利関係を早期に確認する必要があります。仮に、競売の買受人に対して従前の賃借権を対抗することができなくても、買受人としては、従来どおりの家賃収入を期待しているかもしれませんから、今後の問題を買受人と鋭意交渉することも必要です。
2014/12/29(月) カテゴリー: