4. 暴力団等問題ある入居者への対策

4. 暴力団等問題ある入居者への対策

不動産賃貸管理の実務

暴力団等問題ある入居者への対策

総論

建物を賃貸する際には、賃貸人としては、入居する賃借人の信用性にはとても気を使います。しかし、十分気を付けたつもりでも、入居者自身が実は暴力団関係者であったり、いつのまにか暴力団関係者が出入りするようになったりすることもあります。他の入居者等に対して威圧的な態度をとったり、抗争にまき込まれる危険が生じたりすることになります。賃貸人にとっては、家賃収入を得ることを一番の目的としているのでしょうが、かといって、他の入居者や近隣住民から文句が出るような入居者では困ってしまいます。また、そんな入居者が家賃を滞納したときに、どうしてよいか分からず困ってしまうこともあるでしょう。

事例の紹介

「賃借人である暴力団組長との賃貸借契約の解除と専有部分の明渡しを求めたマンション管理組合の請求が全面的に認められた事例」(横浜地方裁判所昭和61年1月29日判決)

  1. 区分所有マンションにおいて、区分所有者がその専有部分を広域暴力団の組長に賃貸した。
  2. しかし、賃借人は家族と別居しており、その身辺警護や身の回りの世話をする不特定の組員が交代で寝泊まりしていたが、次第に組事務所の分室ないし組長応接室として使用されるようになった。
  3. 賃借人や出入りする組員は、使用契約を締結していないのにマンション地下の駐車場を無断で使用したり、定められたゴミ搬出日を守らず日時を選ばずに随時ゴミを出していた。他の住民や管理人がこれを注意しても効果がなかった。
  4. 賃借人が入居してから2年後頃から、対立暴力団との対立抗争が激化し、賃借人がマンションを出入りするたびに、多数の組員が組長の身辺警護のために、駐車場、玄関ホール、エレベーター周辺、廊下、非常口、屋上などに展開して見張りに当たった。また、賃借した専有部分の玄関にテレビカメラを設置した。
  5. このような状況で、マンション管理組合が警察へ要請したりマスコミに報道されたことが契機として、賃借人はテレビカメラを撤去したり、マンションの出入りを早朝や深夜にし、その際の同行者の数を減らすようにした。

(請求)

しかし、他の入居者の危機感は強まるばかりであったため、管理組合は、建物区分所有法に基づき、集会決議を行い、賃貸借契約の解除と明渡しを求めて裁判を起こした。

裁判所の判断

裁判所は、管理組合の請求を認めました。その理由としては、賃借人は、その専有部分の使用に関し、区分所有者の共同の利益に反する行為をしたもので、かつ、将来もその行為をするおそれがあり、これによる区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して円満な共同生活の維持を図ることが困難である。従って、賃貸借契約は解除され、賃借人は賃借マンションを明渡さなければならない、というものでした。
この判決に対して賃借人は不服を申し立て、高等裁判所、さらに最高裁判所で争いましたが、いずれにおいてもマンション管理組合の請求が認められました。(東京高等裁判所昭和61年11月17日判決、最高裁判所昭和62年7月17日判決)

分譲マンションの場合に管理組合としてとりうる措置

(建物区分所有法に基づく救済措置)
賃借人の行為を放置しておくと共同生活に著しい障害がおよぶため、立退きを要求する以外に方法がない場合には、区分所有者全員または管理組合としては、集会の決議に基づいて、賃貸借契約の解除と明渡しを請求する裁判を起こすことができます(同法60条1項)。共同の利益に反する行為をした区分所有者に対する制裁措置を定めたものです。そのための要件について少し説明を加えながら、右の事件で裁判所が具体的にどのような判断をしたか見てみましょう。
賃借人が区分所有者の共同の利益に反する行為を行い、共同生活上の生活上の障害が著しいこと区分所有者としては、他の区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはいけないことは当然です。区分所有者から賃借した賃借人としても同様です。賃貸借契約に禁止事項として定められているかどうかとは関係ありません。
本件では、賃借人が、マンションの地下駐車場に無断で駐車したり、所定の日時・場所を無視して勝手にごみを放置したりしました。そればかりでなく、不特定多数の組員が組長である賃借人のボディーガード等として出入りして他の入居者を威嚇したりボディチェックまで行い、他の入居者に恐怖感と不快感を与えました。このような行為が、共同生活上の障害にあたると裁判所は認定しました。

他に有効な手段がないこと

他の民事上の方法、例えば違約金の請求や差し止めの裁判などをしてもその障害を除去することができないことを意味します。警察への通報や刑事告訴のような刑事的な措置とか、営業停止のような行政的な措置とかをとれば障害を除去できるかまで考える必要はありません。
本件では、対立暴力団との間での対立抗争が激化して、他の入居者が対立抗争による襲撃に巻き込まれる危険があり、これを避けるためには、賃貸借契約を解約して立ち退いてもらう以外に方法がない状況でした。
通常の建物賃貸借契約の解除であれば、信頼関係が破壊されたという正当理由が必要です。しかし、この場合は、1.と2.の要件があるため、実際に信頼関係が破壊されている状態ですから、別途、正当理由があるかどうかは問題とされません。

集会の特別多数決議に基づくこと

区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数の賛成が必要です。
違反賃借人に弁明の機会を与えること
違反者に対して、あらかじめ、集会の日時、場所、議題や違反行為の概要などを通知しなければなりません。その際に注意しなければいけないのは、そのような通知が確実に行われたことを証拠として残すために内容証明郵便を使うべきでしょう。
では、本件のように、区分所有者が賃貸している賃借人が違反行為をしている場合には、賃貸人である区分所有者と賃借人との双方に対して弁明の機会を与えなければならないでしょうか。
この点について、裁判所は、実際に占有している賃借人に対して弁明の機会を与えれば足りるのであって、賃貸人である区分所有者に対して弁明の機会を与える必要はないと判断しました。義務違反者から占有を取り上げるという重大な効果を与える制裁措置である以上は、その義務違反者に対して弁明の機会を与えれば足りるからです。
なお、弁明の機会を与えるということは、必ずしも集会の席上で弁明させなければいけないということでなく、あらかじめ集会の前に弁明を聴取しておいて、それを区分所有者全員に伝達することでも足ります。また、弁明の機会を与えれば足りるのであって、実際に弁明するかどうかはその違反者の自由です。

訴えの提起

この場合の賃貸借契約の解除と建物明渡の請求は、訴えを提起して行わなければなりません。内容証明郵便で行っても効果は生じませんので注意しなければなりません。判決が確定して初めて効果が生じます。

その他の措置

賃借人に対する建物区分所有法に基づく救済措置として、次のような方法があります。(1)違反行為の中止を求める警告・勧告(6条3項)、(2)管理規約に基づく制裁(6条3項・46条2項)、(3)違反行為の差止請求(6条3項・57条4項)、(4)緊急立ち入り、(5)引渡請求(賃貸借契約の解除、明渡請求)(60条)。
それでは、賃貸している区分所有者(賃貸人)に対して、他の区分所有者や管理組合はどのような措置を取ることができるのでしょうか。本件では、賃貸人に対する請求はありませんでしたが、参考までに検討してみます。
賃貸人である区分所有者は、賃借人に対して共同の利益に反する行為をさせない義務を負っています(建物区分所有法6条1項)。従って、他の区分所有者や管理組合は、この賃貸人に対して賃借人の違反行為をやめさせるように請求することができます。それでも放置するようであれば、被った損害の賠償を請求することができます。
では、賃貸人としては賃借人に対して直接どのような措置をとることができるのでしょうか。

賃貸人としてとりうる措置

問題のある賃借人との賃貸借契約はどのような場合に解約できるでしょうか。
例えば、正業を営む場所として使用すると偽って賃借したが、賃借人は、実は暴力団の組事務所として使用するようになった場合、賃貸借契約の使用目的違反となり、且つ、信頼関係が破壊されるに至ったとして賃貸借契約を解除することができるでしょう。賃貸借契約に、具体的な使用目的を規定しておくことは、このような場合に有利に働くことが多いので、契約書の作成において注意しておくことが肝心です。
その他、賃料不払や転貸禁止違反を理由に解除することもあるでしょう。いずれにしても、信頼関係が破壊されたと認定されることがほとんどでしょう。

注意すべき事項

1. 迅速な対応

賃借人に問題があると判明したときは、できるだけ早急に賃貸借関係を解消する必要があります。賃借人に対して切り出せなくて、更新を続けたり家賃の不払いを放置するようなことがあると、結果的には、余計な費用と時間がかかることになるだけでなく、裁判を起こしても、違反行為等を黙認したとか、知っていながら容認していたと認められて、受けるべき救済を受けられなくおそれさえ生じます。
また、賃借人の問題を早期に察知するためには、賃貸人又は管理組合としては、他の入居者から情報が入りやすいよう現場の確認や入居者との意思疎通に気を付けておかなければなりません。

2. 警察や弁護士への相談

賃借人から嫌がらせや威嚇を受けることを心配するでしょうが、暴力団対策法のおかげで、民事不介入とは言わずに、警察もずいぶんと動いてくれるようになりました。また、専門家である弁護士に相談するべきです。何よりも適切な対処方法やノウハウを熟知しており、暴力団を恐れることもありません。

3. 法的手続の徹底的な活用

直接交渉すると、逆に法外な金銭を要求されることもあります。たとえ暴力団といえども、裁判所の命令に対しては逆らいません。また、裁判手続を利用しても、理由さえしっかりしていれば、それほど長期に及ぶこともありません。
また、明渡の裁判を起こす前に、占有移転禁止、処分禁止、使用禁止や明渡断行の仮処分手続をとっておく必要も多いでしょう。

4. 事前の予防策

賃貸借契約やマンション管理規約に、暴力団等を排除する規定を設けておいたり、入居に際して誓約書を差し入れさせたりするべきです。そうすれば、心理的に入居を諦めさせる効果も期待できますし、現実に入居されても規定違反ということで排除しやすくなります。

2014/12/31(水) カテゴリー:

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