10.工事騒音

10.工事騒音

建設業者のための法律相談

Q

工事騒音

工事の騒音・振動について、近隣の人に損害賠償しなければならないのですか
当社は鉄筋コンクリート造、地上3階地下1階建てのマンションを建築していましたが、近隣の人から掘削や大型車両の通行による振動によって隣家の外壁に剥離・亀裂が生じたので補修費として100万円支払え、また振動・騒音・粉塵等により生活の平穏を害されたので慰謝料として200万円支払え、支払わなければ裁判にすると言われました。迷惑料として多少のお金は支払おうとも思っていましたが、このように多額の金額を請求されると一銭も支払いたくなくなってしまいます。裁判になった場合このような多額の損害賠償責任を負わされるのでしょうか。

受忍限度論

現代において建築工事は必要不可欠なものであり、また建築工事には騒音・振動・粉塵等は付き物です。したがって工事に伴う騒音・振動等により近隣住民に迷惑がかかったとしても、そのすべてが不法行為として損害賠償しなければならないというのでは建物も建てられなくなってしまいます。しかし近隣住民からすればどのような騒音・振動等も許されるというのではたまったものではありません。
そこで裁判所は、社会共同生活を営む上で一般通常人ならば当然受忍すべき限度を超えた侵害を被ったときに侵害行為は違法性を帯び不法行為責任を負うという「受忍限度論」を採用しています。そしてこの「受忍限度論」は騒音・振動問題だけでなく、日照問題、ゴミ問題等の近隣紛争において幅広く用いられています。

受忍限度の判断

ところがどのような場合にこの受忍限度を超えるのかについては明確な基準はなく、裁判所は工事の態様、被害の程度、周辺の地域環境、工事の間に採られた被害防止措置など様々な事情を考慮して、被害が通常受忍しなければならない程度のものかどうかを判断しています。
例えば工事の態様については、騒音・振動が騒音規制法や公害防止条例の規制値を超えた場合であっても、その回数が少なく時間も短いという場合には受忍限度を超えるものではないとした判例があります。また工事後も飛散物の痕跡が残り、工事が夜10時以降まで及んだことが6、7回あったという事例で受忍限度を超えたとしたものもあります。
被害の程度については、例えば被害者が騒音によって自律神経失調症にかかり入院したということであれば受忍限度を超えたと考えられがちです。しかし騒音に対する受け止め方は個人差があるためあくまで一般通常人の感覚ないし感受性を基準に判断する必要があります。つまり一般人であればその程度の騒音の中にいれば入院するほどの自律神経失調症にかかると考えられるようなものでなければ受忍限度を超えたとはいえないのです。
周辺の地域環境については、平穏閑静な住居地域というより近隣にビル建築が相次ぐ準商業地域の場合は、それに伴う騒音・振動についても当該地域の住民は比較的高い水準で受忍すべきであるとした判例があります。
被害防止措置については、基礎工法として騒音・振動の少ない現場杭打工法(アースドリル工法)を用いることができたにも関わらず規制杭打方法を採り、防音シートを張りめぐらす等して騒音を軽減する措置も一切採らず、13日間にわたって午前8時から午後5時まで平均105ホン程度の音量を生じさせたという事例で受忍限度を超えたとしたものもあります。
ご質問の場合、具体的な事情が分かりませんので何ともお答えできませんが、前記のような判例を参考に受忍限度を超えていると思うかどうか周りの人たちのご意見を聞いてみて下さい。
いずれにしろ工事業者としては近隣に最も迷惑がかからない方法で施工するということが大切だということになるでしょう。

慰謝料の金額

仮に騒音・振動等が受忍限度を超え不法行為に当たると判断された場合、慰謝料はどのくらいになるかということが気になると思います。しかしこれも一般的な基準があるわけではなく工事の態様や日数、騒音・振動の程度、被害者の年齢・家族構成その他前記の事情を総合的に考慮して決められています。ただ一般的にいって慰謝料の額は、アメリカ等の諸外国に比べ我が国は低い傾向にあります。工事の騒音・振動等に関する判例をいくつか調べてみますと100万円以上の慰謝料が認められたものはあまりなく、10万円、20万円といった程度の慰謝料しか認められなかったものも結構見受けられます。
したがってご質問の場合でも裁判になれば、よほどの事情がない限り200万円という慰謝料が認められる可能性は少ないと思われます。そこでまず、あなたが支払おうと思っていた金額を提示して話し合いをしてみてはいかがでしょうか。
それでも相手が高額な金銭を要求し続けるのであれば、どうしようもありませんので、相手が裁判を起こしてくるのを待つしかないでしょう。このような場合は感情的なもつれになっているケースが多くまた慰謝料の基準もはっきりしていないため当事者だけで話し合いをまとめるのは難しいようです。したがってむしろ相手から裁判を起こしてもらって工事に違法性があったか否か、慰謝料を支払うとすればいくらが妥当なのかを裁判所に判断してもらう方がよいかも知れません。

建物毀損の損害賠償

隣家の外壁の剥離・亀裂等の損傷については、受忍限度論は当てはまらず、工事の振動によって損傷が生じたという因果関係が認められれば施工業者は補修費相当額の損害賠償をしなければなりません(民法716,709条)。
ところで裁判になれば因果関係の有無については被害者側が主張立証責任を負います。そこで被害者は工事前と工事後の写真を証拠として提出し、工事前には損傷はなかったが工事後には損傷があるので損傷は工事によって生じたものであると主張してくるのが一般です。しかし工事前の写真が何時撮影されたものか分からず、相当前に撮影されたものだとすると工事までの間に地震等によって既に損傷していたということも考えられます。
したがって工事業者としては、工事直前に近隣者に立会ってもらって隣家の傾きや建物の損傷状況等を調査して写真撮影をすることを励行すべきでしょう。

2015/01/04(日) カテゴリー:

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