8. 設計報酬

8. 設計報酬

建設業者のための法律相談

Q

設計報酬

設計・監理契約書を交わす前に注文者から工事依頼を断られてしまいました。設計料を請求することはできないでしょうか?
当社(A社)は内装リフォーム業者ですが、B氏から自宅全体のリフォームを依頼されました。そこでB氏の建物を調査して家具等の採寸を行い、またB氏から要望を聞いた上で基本設計をしました。その後20回以上にわたる打ち合わせを行い、その間何回も図面を変更し、その上で内装材料等も決めてある程度詳細な平面図と断面図を作成しました。B氏も当社の設計を気に入ってくれ、見積書を出して欲しいと言われたので800万円の見積書を作ってB氏に渡しました。ところがその数日後、B氏より工事はお断りしたいとの連絡があり、その後当社から電話をしてもすぐに切られてしまい話し合いもできませんでした。普通ならば当社は基本設計程度の仕事で設計料を請求するようなことはしませんが、B氏の場合は度重なる打ち合わせ、設計変更等で散々振り回されましたのである程度の金額は請求したいと思っています。B氏とは設計契約書も何も書面は交わしていませんが、契約書がなければ設計料の請求はできないものでしょうか。

約書がなくても契約は成立する

私もこのような経験がありますのでお気持ちはよく分かります。何度も図面を書き直したり見積書を作成したりしても設計契約書を交わすまでには至らないということがよくあります。この場合、建築設計実務においては基本設計段階で仕事が打ち切られた場合は設計料を請求しないというのが一般的であり、設計契約書を交わしていない以上報酬がとれなくても仕方がないと考えている人も沢山いるようです。
しかし契約書がないからといって必ずしも契約が成立しないということにはなりません。法律上は単なる口約束であっても契約は成立しますし、口約束すらなかった場合でもその人の行動から判断して契約が成立したと認められることがあります。例えば駅の売店で黙って新聞を手に取り店員にお金を渡せば、それだけで新聞の売買契約が成立したことになるのです。このようなものを黙示の契約といいます。

基本設計段階でも設計契約が成立する場合はある

では設計契約の場合はどうでしょうか。リフォーム設計の仕事は、まず現地調査をしたり依頼者の希望を聞いたりして間取りや家具の配置等の概略図面を作ります。そしてさらに依頼者と打ち合わせを重ねてプランを煮詰めていき、プランが具体的に決まれば見積をとって工事代金の打ち合わせをし、それでよいとなれば設計契約書に署名押印するいう流れになるのが一般的だと思います。
ところで法律的に考えると、この設計業務の一連の流れは次の二つの段階に分けることができます。一つは単に設計契約を勧誘するための企画設計、概略設計にとどまるという段階であり、もう一つはそれを越えて設計契約が成立したと認められるような段階です。
前者の場合は設計契約を勧誘するに過ぎないものであり、前記の新聞の例でいえば店先に新聞を並べておいてお客を勧誘しているのと同じですから無償サービス行為と考えられています。建築設計実務においてエスキス程度では報酬請求をしないとされているのは、まさにこのことなのです。
しかしそれを越えて、依頼者に法律上の報酬支払義務を負担させることが合理的であると認められる段階まで進めば、契約書を作成していなくても黙示の設計契約が成立したと判断されます。
では具体的にどのような事実があれば設計契約が成立したといえるのでしょうか。判例で設計契約が認められた多くは、詳細な見積書や設計図が作成され、その他にも何回も打ち合わせを行ったり、設計変更があったり、地盤調査等をしたという事実がある場合です。しかし設計図はフリーハンドで書かれており、また見積も途中で作成された概算見積書しかなく依頼者の予算に合致していなかったというような場合であっても、それまでの業務内容、経緯から判断して設計契約が成立したと認めたものもあります。
ご質問のケースでは、現地調査、20回以上にわたる打ち合わせ、度重なる設計変更を経て詳細な平面図、断面図を作成し、さらに見積書も作成したというのですから設計契約は成立したといってよいでしょう。したがってB氏に対し設計料を請求することができると考えられます。

設計料の算定方法

では黙示の設計契約の場合、どのくらい設計料を請求できるのでしょうか。
商法512条は「商人はその営業の範囲内において他人のためにある行為をなしたるときは相当の報酬を請求することを得」と規定しています。そして会社は基本的にみな「商人」ですので、設計契約書がなく設計料も決められていない場合には、この規定に基づいて「相当の報酬」を請求することができます。
この「相当な報酬」は社団法人東京都建築士事務所協会作成の「設計・工事監理標準業務料率表」とか社団法人日本インテリアデザイナー協会作成の「インテリアデザインの業務および報酬基準」等をもとに算定されます。
またご質問の場合は依頼者が途中で設計契約を打ち切っています。この場合、民法648条3項に「委任が受任者の責に帰すべからざる事由によりその履行の半途において終了したるときは、受任者はその既に履行した割合に応じて報酬を請求することを得」と規定されていますので、請求できるのは前記の基準により算定した額のうち「履行の割合」に応じた金額ということになります。
設計は、依頼者の希望をとり入れてそれを形にしていくという創造的な作業であり、それに費やす時間、労力も並大抵ではありません。したがってご質問のようなケースでは、設計契約書を作成していないからといってあきらめずに、むしろその労働に対する報酬を正々堂々と請求すべきだと思います。

2015/01/04(日) カテゴリー:

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