2.違反建築物の工事代金請求

2.違反建築物の工事代金請求

建設業者のための法律相談

Q

違反建築物の工事代金請求

違反建築した場合でも、裁判で工事代金の請求をすることができますか?
当社はX氏から木造3階建ての住宅建築を依頼されました。X氏の敷地は第1種低層住居専用地域であり、建築基準法の斜線制限の関係で3階建て建物を建てることは無理でした。しかしX氏から「狭い敷地であり家族6人が住まなければならないので、どうしても3階建てにして欲しい。しかも敷地に目一杯建てて欲しい。」と言われ、当社も仕事が欲しかったこともあって、建築確認だけ2階建て建築物として申請し、実際にはX氏の希望どおり3階建てで建蔽率・容積率にも違反した建物を建てました。工事が完了したのでX氏に工事残代金600万円を請求したところ、X氏は3階建ての構造になっていないし準耐火建築物にもなっていないので欠陥住宅であると言って全く支払いをしてくれません。裁判をして工事残代金の回収をしたいのですが、違反建築でも問題はないでしょうか。

公法と私法

最初から固い話になってしまいますが、法律は大きく分けると「公法」と「私法」との2種類に分類できます。「公法」とは、国家権力と国民との関係を定めたものであり、その代表的なものが憲法や行政法です。「私法」とは国民と国民との関係を定めたものであり、その代表的なものは民法や商法です。
このような分類からすると、建築基準法は国家権力の執行者である特定行政庁や建築主事と建築主などの国民との関係を規律したものであり「公法」に当たります。「公法」は原則として強行法規であり、当事者の意思にかかわらずその法律が適用されます。たとえば建築主事が、斜線制限違反の建物について建築確認をしたとしても、これによって適法な建築物になることはないのです。これに対し、請負契約は民法で規定されていますが、原則として当事者の意思によってその内容を自由に定めることができ、当事者の意思が曖昧な場合に補充的に民法の規定が適用されるのです。
このように、「公法」と「私法」とは別々のものであり、それが適用されるに当たっては両者に直接の関係はないと考えられています。つまり原則として、建築基準法に違反した建物の工事をしても工事請負契約自体が無効になるわけではありません。

違反建築により請負契約が無効となる場合

ところが、工事の施工自体が建築基準法の規定に違反し、強い違法性を帯びる場合には請負契約が無効になるとした判例があるのです(東京高等裁判所昭和53年10月12日判決)。
この事件は、建築主が費用を惜しんで建築士資格のない施工者に設計施工を依頼した結果、構造的に建築基準法の基準を充たさない危険な建物が出来上がってしまったというものでした。請負人は工事代金の請求を、建築主は損害賠償の請求を、それぞれしましたが、裁判所は、(1)外壁、梁、柱、床について耐火被覆が不完全である、(2)窓に網入ガラスが用いられておらず、防火扉もない、(3)構造上も極めて不完全であり、地震の場合は倒壊のおそれがあり、市長からも危険性がある建物として改善勧告が出されている、等という事実を認定した上で、本件建物は建築基準法が安全性確保のために設けた基準に著しく違反し、建物自体が適法な建築物として存立することを許されない性質のものであるから、強行法規ないし公序良俗に違反するものであり請負契約は無効であるとして、請負人の請求も建築主の請求もいずれも認めませんでした。

建築不能な建物の請負契約も無効となる

また建築基準法違反の程度がきわめて大きく、建物を建築することが現実的に不能であるような請負契約は無効であるとした判例もあります(東京地方裁判所昭和56年12月22日判決)。
これは当時の建築基準法による高度制限が20mであるにも関わらず地上5階建てで高さ28・9mにもなる建物を建てようとしたケースでしたが、裁判所はそのような請負契約は原始的に不能な事項を目的とするものであり無効であると判示しました。

やはり違反建築は行うべきではない

以上のように、建築基準法に違反した請負契約がすべて無効とされるわけではなく、違反の程度、内容が大きい場合に無効とされることもあるというのが現状です。したがって例えば、採光面積が不足しているとか建蔽率がオーバーしているといった違反によって請負契約が無効になることはないと考えられます。しかしどの程度の違反であれば請負契約が無効になるのか、明確な基準があるわけではありません。
ご質問のケースでは、建蔽率・容積率違反の他にも斜線制限違反の工事がなされています。そしてこの斜線制限違反は建築基準法違反の中でも内容的に大きな違反と考えられており、昭和56年の判例のように違反の程度が大きければ請負契約が無効とされる可能性が高いと考えられます。
もし請負契約が無効とされれば、当然、請負代金を請求することはできません。建築主のために良かれと思い、危険を冒して違反建築をしたのに、その結果、工事代金を請求できないばかりか役所から睨まれることになってしまっては踏んだり蹴ったりです。また裁判になれば、建築請負人は建築の専門家であるから当然、適法な建物を建てるべきだと厳しい目で見られがちです。
したがって、いくら建築主からの要求があったとしても、斜線制限違反のように大きな違反建築は行わないという信念をもって企業活動していくことが、後々のトラブルや損害を未然に防ぐ最もよい方法だといえます。

2015/01/04(日) カテゴリー:

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